照る日曇る日 第1123回
こないだ読んだ第8巻は最晩年の作品だっったが、これは作者の処女作「水葬物語」およびこれに続く「装飾樂句」「日本人靈歌」という最初期の三連作を特集。さらには「水葬物語」に先行、ほぼ同時期につくられていたという、「火原翔」名義による幻の「俳句帖」が、おまけについてくるという超特大サービスです。
それで、まず「春窮やルオーの昏き繪を展く」から始まる「俳句帖」から読み始めました。
白菊やヒットラー傳たてにさかれ
雪の青 恍惚と處女をうしなへり
炎天に漆黒のピアノはこび去る
春雪に漆黒のピアノ運び去る
おとろへやうどくらふ妻みつめつつ
白桃や不犯の夜々の掌のあぶら
というところですが、構成要素は同じでも、それを57555ではなく、無理やり575に押し込もうとするムリとムラが、ここにはどうしようもなく露呈しているようです。
自分の句は、いろいろ各方面に乱反射するのだけれど、ついに心に突き刺さってこないことを賢明にも悟った作者は、
火喰鳥このみてくらぐ火にしあらね
という感慨深い1句を残し、最終的に短歌プロパーの世界に突入したのではないでしょうか
それから肝心要の短歌ですが、第8巻を含めたすべての作品が処女作「水葬物語」の第一首、「革命歌作詞家に依りかかる凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ」に及ばないと思うのは、私だけでしょうか。
島内景二氏の「解題」を読むと、無名時代の塚本はわずか120部の第一歌集を、極力歌人を抑え、お気に入りの小説家、詩人、研究家に献呈。幸いにもそれを読んだ中井英夫と三島由紀夫が高く評価してくれて、めでたく世に出たそうですが、乾坤一擲の賽を投げた、いかにも塚本らしい逸話ですね。
音のみの打ち上げ花火を聴いている八景島シーパラダイスには行ったことなし 蝶人