遥かな昔遠い所で 第101回
建築家の鈴木エドワード氏が15日に脳卒中で逝去されたという訃報をきいて、むかし私が駆け出しライーターだった時代に、確か二子玉川の近くにあったご自宅へ、デザイナーの善太郎君と一緒にお邪魔した時のことを思い出した。
氏は、いかにも裕福な暮らしぶりが窺えるモダンリビングの一角に遠慮がちに腰を降ろして、私らの雑誌広告出演依頼に耳を傾けてくれたが、その穏やかな表情の中に、私は彼のどこかスノビッシュな生活習慣と人柄の良さを感じ取って、淡い好感を懐いた。
あのバックミンスター・フラーと丹下健三に師事したという建築家としての毛並みの良さは、必ずしも彼の実際の作品に反映されていないと思うけれど、たまに渋谷に行って宇田川町の奇妙なデザインの交番や、それとは打って変わって格調高い鎌倉市役所通りの高級マンションの権門主義的なエントランスを見るたびに、私は遠い昔のあの午後のことを懐かしく思い出したものだ。
生者必滅、会者定離は浮世の習い、ということか。心から氏のご冥福をお祈りします。
雨の日の翌日はまた晴れてきて奥様今は「混ぜ髪」ですって 蝶人