照る日曇る日第1741回
ざっと目を通してみましたが、おらっちの心に残ったのは2篇だけ。ひとつは劈頭、高橋順子選手による「黒豆を煮ながら」という小詩集です。
「ブナ林」から「夜の鳩」まで表題作を含めた10個の短い詩が並んでいますが、いずれも題を日常の茶飯事に採り、水道の蛇口から流れる水のように淡々とした叙述ながら、ひたひたと心にしみ込んでくる。
―「くうちゃんの呪い
くうちゃの縛り はまだ温かくて」
という最後の2行には、思わず深いため息をついたのでした。
もうひとつは「新鋭詩集2022」の中の村岡由梨選手の「宙に浮いた老詩人、狂気の女、そしてカエルになった母」という作品です。
―「通話時間、16分13秒間。1分10秒間。夜。2回。
今から私はあなたのお義父さんお義母さんの家に自殺しに行くんです」
やはり身近な素材を俎上に載せながらも、その対象に肉薄するドラスティックな表現は、異様な緊張と迫力を生み、他の追随を許さない独自の極私的詩世界を切り開いています。
高橋vs村岡。
静と動。知と情。黒と赤。過去と未来。対照的な位相ながら、詩と人間性の双極を模索する両者といえましょう。
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