照る日曇る日第1794回
フレデリック・ディーリアス(1862-1934)と言われれば、1968年に英国のBBCが製作したケン・ラッセル監督の音楽映画「ソング・オブ・サマー」を思い出す。
晩年のドイツ生まれの孤独で性狷介な盲目の音楽家と、彼の熱烈なファンとの「愛と介護と共同創作」の交友を描いた、その伝記ドキュメンタリー風のドラマは、いかにもディーリアス夫妻とエリク・フェンビー(1906-1997)青年らしい役者が、いかにも作曲家の竟の住処らしいフランスのグレーの庭や家の中で、いきいきと起居していて、誠に味わい深い名作であった。
「音楽とは魂のほとばしりなのだ。聴き手の魂に投げかけられ、すぐさま訴えかけるものだ。音楽が分かるには何度も聴かねばならないというのはまったくの戯言だ」
(p238)
「外からの影響や、定められた原理や理論から、美しい音楽は生まれない」というのがディーリアスの信念だった。(同)
ドラマのラストでは、ディーリアスが亡くなったばかりのディーリアス家の居間で、彼の妻と青年が、ラジオのBBC放送を聞いている。
訃報を伝えるアナウンサーが「では、この偉大な作曲家の死を悼んで彼の代表作をお届けします」というて、ビーチャムがロイヤル・フィルを指揮した「楽園の道」が流れてくると、夫のために絵筆を折った糟糠の妻イェルカが、ヨヨと泣き崩れる姿をみて、当時リーマン1年生のおらっちも、思わず一掬の涙を千歳烏山で溢したことだった。
本書にはもはや回復不能の意気消沈した老骨痩身盲目の音楽家を励まし、口述筆記でいくつもの新作を完成させた、住み込みボランティア兼セラピストの青年が見聞した、孤高の音楽家の真実の姿が、無名の若者の青春譜としてありありと刻まれている。
熱烈な自公支持者に囲まれて無党派支持の我が家は孤立す 蝶人