あまでうす日記

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会田誠著「性と芸術」を読んで

2022-10-07 09:48:56 | Weblog

照る日曇る日第1796回

 

2012年に森美術館で開催された会田誠の「天才でごめんなさい展」は、私がそれまでに見た展覧会のベストに指折られるほどの一大見世物で、とりわけ本書でテッテ的に論じられている「犬」シリーズは、これまで体感したことがないほど衝撃的なものだった。

 

確かにこの作品を児童ポルノ、少女虐待、障害者差別、性暴力礼賛、猥褻物陳列などの非芸術的観点から否定、抗議、断罪、犯罪視する「正義の味方的視点」は厳然と存在するだろう。

 

しかし私は、この作品と実際に対峙している間に、そのような余事は脳裏に一切浮かばず、その圧倒的な美しさに完全に魅了されたので、その極私的視点から本作を擁護したいと思っています。

 

昔から芸術的美は、現世の非芸術的規律、価値観と激しく対立相克してきた。

この作品もその好個の一例で、いずれ時間が解決するだろうが、絵も、そして映像も、私に言わせれば、たかが紙切れに描かれた1枚の絵、或いはデジタル画面に一瞬点滅する虚実皮膜の幻影である。

 

それを描いたのが狂人で、そこに万人を驚愕させるような反社会的、非人道的、アンチモラルで醜悪、不愉快千万な絵柄が殴り描かれていたとしても、敬して立ち去り給え。価値あるものは残り、なき物はいずれ淘汰されるであろう、というのが、いち表現の自由原理主義者の卑見ですので、良識ある多数派の皆さん、凡才でごめんなさいね。

 

著者は本作を巡って何万字を費やしてあれやこれや滔々と物語っているが、んなもん「犬」一幅の100万分の1も面白くもなく、むしろ圧倒的に面白いのは、後段の添え物の「オナニー論」だろう。

 

オナニストがその行為中に脳裏に描く幻想について、これほど精密かつ誠実に語った例は稀ではないかな。

 

   「丁寧に説明します」はよく聞くがその説明は聞いたことなし 蝶人

 

コメント
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