こんな気持ちでいられたら・・・一病理医の日々と生き方考え方

人生あっという間、私の時間もあと少し。
よりよく生きるにはどうしたらいい?

医学の進歩のために

2011年12月11日 | 病理のこと、医療のこと、仕事のこと
病院からの電話、私の携帯の表示は”当直受付”となっている。
オンコール番の朝一番の電話をとると、”当直受付”。

病理解剖(剖検)か、緊急手術の検査(術中迅速診断や臓器移植の検査)依頼しかないのだが、緊急手術の場合は前の日くらいには連絡があるので、剖検の依頼だろう。
用件はやっぱり剖検で、担当医と開始時刻を決める。オンコール番の技師さんに連絡を入れて、介助をお願いする。いつも快く引き受けてくれて、ありがたい。

今朝は、フラットコーテッドレトリバーのナイトの散歩に行けずに少し残念、とおもいながらエサだけは私からやって、出かける。散歩に連れて行ってもらえると思って甘えてくるナイトとは目を合わせず、心を鬼にして無視して家を出る。
日曜の朝、電車では間に合わないので、車を使う。横横がいつもの日曜より混んでいるな、と思いながら都内の勤務先に向かう。

開始予定時間より早めについたので、電子カルテを開いて臨床経過を確認する。
担当医グループは昨日から一睡もしていないようだ。それで今から剖検の立ち会いはつらかろう。彼らの熱意に頭が下がる思いだ。

ご遺体に向かい、立ち会い医を含め全員で合掌して、剖検を開始する。
とても難しい症例で、肉眼所見だけはわからないところが多く残った。あとは、標本を作って組織学的に顕微鏡レベルで検討しなくてはいけない。

剖検を行うたびに思うのは、剖検を許可して下さったご遺族の気持ちだ。
なぜ、亡くなったの?ということもあるが、それよりも医学の進歩のために剖検を許可して下さっていることがほとんどだ。
いつものことながら、今日の症例からも多くのことを学ばせていただいた。
心より深く感謝し、ご冥福をお祈りします。

さて、そんなで、うんうんうなりながらも、剖検の肉眼所見のまとめも書き上げ、家路につく。北鎌倉から鎌倉に入ったが、すごい人出だった。なんとか、日の暮れる前に帰れた。

急いでナイトと散歩に。

鎌倉宮まで足を延ばしたら、もうみなさんしっかり店じまい。
鎌倉は夜が早い。

紅葉におおわれた山が、夕日に映えていっそうきれいに見えた。
一日だらだらしていたわけでなく(それはそれで大事)、休養の時間がかえって短かったからか、余計に風景が目に染みる。

こういう景色を見ることができるというのも、生きていればこそ。
人間だれしも死に向かって生きているとはいうものの、今生きている幸せをかみしめながら、歩いた。


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