納入された機械の見学会に行ってきました。
今回入ったのは『分解型バックホウ』という機械で、バックホウというのは、地面の土を掘り出すことに使われる一般的な建設機械です。
バックホウなら別にどこの建設業者さんでも持っているのですが、今回入ってきたのは、それをいくつかのパーツに分解して運べるようにしたものです。
これは土砂崩れなどで河川がせき止められダム状態になったような危険な災害が発生し、しかも道路が寸断されて機械を運べないというときに、各パーツに分解してバックホウを運び、現地で組み立てて作業に当たらせるための機械というわけ。
本州ではすでに何台かが導入されていますが、急流河川での災害が少ない北海道では初めて入った一台です。
今回のバックホウは、土をすくうバケットと呼ばれる部分の容量が1立方メートル級という規格のもので、総重量が約26トンもあります。
道路がないような現場の最前線へこれを運ぶとなると、これだけの重量を一度に運ぶ手段はないため、これを一つのパーツが2.8トン以下になるように14のパーツに分解して現地に持ち込み、現地でこれを組み立て直すのです。
さらに、災害最前線の現場では人間が作業に当たるとやはり危険なので、今回はこれを遠隔操作できるようなリモコンユニットと、現場の作業状況が見えるようなリモートカメラユニットも装着した機械として納入されました。
リモコンの操縦装置はジョイスティックが3本と前後のレバーが2個で、あとはスイッチ類が10個ほどついているもの。
これで目の前の巨大なバックホウが自由自在に動く姿はまさに現代の鉄人28号です。
子供の頃は鉄人を動かす主人公の金田正太郎君が複雑な鉄人の動きをたった2本のレバーで動かす姿をワクワクしながら見ていましたが、目の前にあるのはほとんどそれと変わらない姿のリモコン。リアル鉄人世代にはちょっと感動もひとしおです。
◆
バックホウを動かすためには、道路を走るなら大型特殊免許が必要ですが、道路ではない現場内で作業をするためだけなら建設機械操縦の講習会を受ければ良いだけ。
リモコンそのものも免許はいりませんが、リモコン操縦者にはこの講習会受講は求められます。
今日みせてもらったリモコンでは、操縦範囲は約100メートルとのことでしたが、これを光ケーブルとインターネットを使い、さらに現地にWifi環境を設置すれば何キロも離れたところから操作することも可能です。
実際、今開発局でも樽前山からの土砂流出に備えた砂防工事をなんと25kmも離れた白老町の一室からインターネット経由で操作して作業を行っているのだそう。
説明に当たってくれた担当の方にお話を伺いました。
「遠隔操作の課題となるとどんなことがありますか?」
「そうですね、やはりタイムラグが気になりますね。インターネット経由だと光ファイバーに情報が集中すると処理するのにどうしてもちょっとした時間がかかります。人間は0.2秒のラグがあるとそれを感じると言われています。ですからタイムラグをなんとか0.5秒以内に抑えてストレスのない作業にしたいと思います」
「目の前で操作する分にはタイムラグはほとんどありませんね」
「はい、直接100メートル以内で操作する分には直接電波でやりとりしますから、これならタイムラグはありません。専用の電波やケーブルを使えばそれも可能なのですが、それには大きなコストがかかりますから、やはりインターネット経由というのが現実的な選択になります」
「なるほど、他にはありますか」
「タイムラグとは別に、やはり離れたところからモニターを見ながらということになると、作業効率が直接作業する場合の六割~七割に落ちるのです。ブロック一つを設置するのでも、現場で一人が設置確認をしながら「OK!」とやり取りできれば、作業がはかどりますが、それをモニターを見ながらひとりでやるとなると、熟練のオペレーターでも何度かやり直してしまいます。そこはまだまだ課題です」
【バックホウのカメラ画像を受信するモニター装置】
◆ ◆ ◆
私も実際に動かしてみましたが、ジョイスティックの使い方に慣れていないのでなかなかうまくいきません。
しかし、まるでプレイステーションのリモコンをちょっと大きくしたような形を見ていると、ゲーム世代だったらちょっと練習するだけですぐに上手になるだろうな、と感じました。
またそれがネット経由でモニターを見ながら作業できるのだったら、もしかしたら家に引きこもっているような人でも自宅でネット経由で現場の作業機械を動かすことができるのじゃないか、という途方もない夢を感じました。
オペレーターはネットの向こうに何万人もいて、ネット上でオペレーターを募集すればすぐに手の空いている人がやってきて作業をしてくれる。これでオペレーター不足は解消されるかもしれません。
ネットの向こうには無限の数のオペレーターの卵がいるのではないでしょうか。
「…なんて私の妄想はいかがでしょう?」そう担当者の方に訊いてみると、案外真面目な答えが返ってきました。
「はい、私たちも、これがネット上で動かせるんだったら地球を8時間ごとに三分割して、いま日本のオペが動かして、次の8時間はアメリカの人にやってもらい、その次の8時間はヨーロッパかアフリカの人にやってもらえば、一日中稼働させることができるね、と言っているんです(笑)。それに近い状態にまで近づきつつあるな、という印象は持っています」
意外な答えでしたが、やはりネットの技術で眠れる人の能力を結びつけると面白いことが起きそうです。
最後に担当の方からひと言。「ただ、最大のネックは機械のお値段だと思います」
「リモコンの機械だと相当高くなりますか?」
「はい、普通のバックホウ一台が2千万円だとすると、それをリモコンにすると2.5倍の5千万円くらいになります。正直まだまだかなりお高い機会と言わざるを得ませんね」
課題はたくさんありそうですが、夢も膨らむ機会のリモコン操作。
今日は分解型のバックホウを見に来たのですが、思わぬところでリモコン操作の可能性を感じることができました。
日本の工事なのに、オペレーターが日本にいる必要がないとまで言われたら、労働賃金の安いところに移ってしまうのでしょうか?
これもまたすごい話になりそうですが、きょうはここまで。
機械の未来はどうなるのやら。楽しみではありますね。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます