昨日、キネカ大森まで行って映画を2本見た。「黒衣の刺客」と「わたしに会うまでの1600キロ」。「黒衣の刺客」は、台湾の巨匠ホウ・シャオシェンが撮った美しく静かな「武侠映画」で、今年のカンヌで監督賞を得た作品。久しぶりのホウ・シャオシェンに期待大だったのだが、やっぱり昔の瑞々しい映画ではなく、完成されたアート映画というか、はっきり言うとなんだかよく判らない映画だった。一方、「わたしに会うまでの1600キロ」は非常に面白かったので、こっちを書いておきたい。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/41/af/89e4e1d880d58a3a883b7e2e4c545c21_s.jpg)
これはアメリカ西部を南北に縦断する長大なトレイルをひたすら歩いて行く映画である。時代は1995年で、実話の映画化。歩き続けるシェリルを演じたリーズ・ウィザースプーンが非常に素晴らしく、アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされた。この人は「ウォーク・ザ・ライン」でアカデミー主演女優賞を受賞している。母親役のローラ・ダーンも初めてアカデミー賞にノミネート。(助演女優賞)
シェリルは様々の人生行路を経て、アメリカ最長のロングトレイルを歩くことにする。その事情はおいおい映画内で描写されていくが、とにかく冒頭からもう歩き始めていて、足は痛むし、爪ははがれるし。足を手当てしていたら、登山靴が落ちてしまう…という恐ろしいシーンから始まる。荷物も重そうで、全然進まない。最初は判らないが、とくにアウトドア体験があるわけではなく、人生をリセットするために(つまり「わたしに出会う」ために)急に思い立って歩きはじめたである。僕も大雪山縦走テント泊5日の経験があるが、荷物が重くて重くて、バランスを崩すと起ち上がれないぐらいだった。その時のことを思い出してしまうが、とにかく歩き通してしまうんだから、もともと体力はあったんだと思う。
このトレイルは、メキシコ国境からカナダ国境まで続く4000キロにも及ぶロングトレイルで、「パシフィック・クレスト・トレイル」(PCT)という。映画のホームページのマップをクリックすれば、どういうルートを歩いたかが出てくる。日本地図との比較もそこで見られるが、鹿児島から稚内まで歩くより長そうである。ただし、メキシコ国境からではなくカリフォルニア南部のモハーベ砂漠から出発し、雪で通れないシエラネバダ山脈をパスして、オレゴン州とワシントン州の州境の「神の橋」まで歩いている。映画を見た時は、向こうがカナダという国境まで歩いたのかと思ったが、そうではなかった。
全部の食糧を持てるわけないから、途中の町に中継ステーションがある。あるいは、砂漠の中に給水ポイントもある。だけど、こんな長大コースを歩く人が結構いる。でも男が多く、映画の時点では女は少ない。また、反対から来る人が出てこないが、どうも映画と逆に北から南へ歩く人の方が多いらしい。それにしても砂漠を歩くなど、ちょっと信じられないが、そこを無帽で、手も足も出して歩いている。いやあ、それでは日焼けなどが心配になるが、特にそういう描写はないから大丈夫なのか。それより、野生動物が危険そうだし、それ以上に人間という生き物が怖い。
僕は、自然の中を歩き通すという、この映画の根本に共感するものがあるので、そういう気持ちで見て書いた。だけど、そういう風に歩きはじめるまでの人生がある。家庭内暴力、母の死、離婚、麻薬等々…さまざまの難題を抱え続けて、相当に大変なところに追いつめられ、帰るところもない状況である。そこで誰にも会わず歩き続ける意味が出てくるが、それでも誰かに連絡したいときはときどき電話する。まだ携帯電話もない時代である。今なら途中で地図を調べ、天気やニュースを見ることができるが、そういうことができない。そして歩い続けていく中で、「自分」が変わっていく…。
監督のジャン=マルク・ヴァレ 、撮影のイヴ・ベランジェのコンビは、アカデミー賞主演男優賞を得た「ダラス・バイヤーズクラブ」を作った人。音楽にサイモン&ガーファンクルの懐かしい曲を使っているのも心に残る。「ロード・ムーヴィー」というジャンルは、車や鉄道で移動することが多いが、このように歩いて行くものにショーン・ペンが監督した「イントゥ・ザ・ワイルド」があった。あの映画の方が厳しいし、悲劇的でもある。この映画はそこまでの厳しさはないけど、アメリカの美しい風景も見られるし、「女性映画」の側面もある。だけど、なんで彼女は歩き続けるのかと見ていて思う。自分なら脱落するかな、それとも行けるかなと思いつつ、自分を振り返る映画でもある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/1a/94/a4422d23c90f73cb2f40a7fa0be94308_s.jpg)
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これはアメリカ西部を南北に縦断する長大なトレイルをひたすら歩いて行く映画である。時代は1995年で、実話の映画化。歩き続けるシェリルを演じたリーズ・ウィザースプーンが非常に素晴らしく、アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされた。この人は「ウォーク・ザ・ライン」でアカデミー主演女優賞を受賞している。母親役のローラ・ダーンも初めてアカデミー賞にノミネート。(助演女優賞)
シェリルは様々の人生行路を経て、アメリカ最長のロングトレイルを歩くことにする。その事情はおいおい映画内で描写されていくが、とにかく冒頭からもう歩き始めていて、足は痛むし、爪ははがれるし。足を手当てしていたら、登山靴が落ちてしまう…という恐ろしいシーンから始まる。荷物も重そうで、全然進まない。最初は判らないが、とくにアウトドア体験があるわけではなく、人生をリセットするために(つまり「わたしに出会う」ために)急に思い立って歩きはじめたである。僕も大雪山縦走テント泊5日の経験があるが、荷物が重くて重くて、バランスを崩すと起ち上がれないぐらいだった。その時のことを思い出してしまうが、とにかく歩き通してしまうんだから、もともと体力はあったんだと思う。
このトレイルは、メキシコ国境からカナダ国境まで続く4000キロにも及ぶロングトレイルで、「パシフィック・クレスト・トレイル」(PCT)という。映画のホームページのマップをクリックすれば、どういうルートを歩いたかが出てくる。日本地図との比較もそこで見られるが、鹿児島から稚内まで歩くより長そうである。ただし、メキシコ国境からではなくカリフォルニア南部のモハーベ砂漠から出発し、雪で通れないシエラネバダ山脈をパスして、オレゴン州とワシントン州の州境の「神の橋」まで歩いている。映画を見た時は、向こうがカナダという国境まで歩いたのかと思ったが、そうではなかった。
全部の食糧を持てるわけないから、途中の町に中継ステーションがある。あるいは、砂漠の中に給水ポイントもある。だけど、こんな長大コースを歩く人が結構いる。でも男が多く、映画の時点では女は少ない。また、反対から来る人が出てこないが、どうも映画と逆に北から南へ歩く人の方が多いらしい。それにしても砂漠を歩くなど、ちょっと信じられないが、そこを無帽で、手も足も出して歩いている。いやあ、それでは日焼けなどが心配になるが、特にそういう描写はないから大丈夫なのか。それより、野生動物が危険そうだし、それ以上に人間という生き物が怖い。
僕は、自然の中を歩き通すという、この映画の根本に共感するものがあるので、そういう気持ちで見て書いた。だけど、そういう風に歩きはじめるまでの人生がある。家庭内暴力、母の死、離婚、麻薬等々…さまざまの難題を抱え続けて、相当に大変なところに追いつめられ、帰るところもない状況である。そこで誰にも会わず歩き続ける意味が出てくるが、それでも誰かに連絡したいときはときどき電話する。まだ携帯電話もない時代である。今なら途中で地図を調べ、天気やニュースを見ることができるが、そういうことができない。そして歩い続けていく中で、「自分」が変わっていく…。
監督のジャン=マルク・ヴァレ 、撮影のイヴ・ベランジェのコンビは、アカデミー賞主演男優賞を得た「ダラス・バイヤーズクラブ」を作った人。音楽にサイモン&ガーファンクルの懐かしい曲を使っているのも心に残る。「ロード・ムーヴィー」というジャンルは、車や鉄道で移動することが多いが、このように歩いて行くものにショーン・ペンが監督した「イントゥ・ザ・ワイルド」があった。あの映画の方が厳しいし、悲劇的でもある。この映画はそこまでの厳しさはないけど、アメリカの美しい風景も見られるし、「女性映画」の側面もある。だけど、なんで彼女は歩き続けるのかと見ていて思う。自分なら脱落するかな、それとも行けるかなと思いつつ、自分を振り返る映画でもある。