「元女優」の原節子が9月5日に亡くなっていたという。1920年6月17日生まれで、満95歳だった。昨日の夜のニュースで聞いて、すぐに書こうかとも思ったのだが、あまり感情が動かなかった。もう95歳で、引退からも半世紀以上経っている。「伝説」という他ない女優で、新聞を見たら「元女優」と書いてあった。同時代を知っているわけでもなく、過去の素晴らしい日本映画を見始めてから知ったわけだが、母親の話にはよく出てきていた。(ベティ・デイヴィスの方が多いが。)
新聞では「東京物語」「晩春」が大きな見出しになっていた。うーん、まあそういうことになるのだろうな。あまり小津作品ばかり言われると、つい他の監督の名作にもいっぱい出ているよと言いたくなる。だけど、どうもいまの時点で見ると、あまり好きになれない映画が多い。戦時中の戦意高揚映画はもちろんのこと、戦後になって逆に民主化の旗手みたいな感じで出た「わが青春に悔いなし」(黒澤明)や「青い山脈」(今井正)も今見ると、なんだか納得できないところが多い。それは脚本や演出の問題と言えるが、原節子の演技もどうなんだろうか。
でも若い時の、つまり戦時中の原節子は美しかった。よく「バタ臭い」顔立ちと言われ、演技的には大根と言われたとされるが、そういう批判を吹き飛ばす若い魅力がある。戦後になると、日本映画の最盛期とも言える「巨匠の時代」を支える女優のひとりとなった。黒沢、小津だけでなく、成瀬巳喜男、木下恵介、吉村公三郎などだが、フィルモグラフィを見ると、それ以外にも「文芸作品」の出演が多い。成瀬の「めし」や「山の音」も名作なんだろうが、好きな映画ではない。案外さまざまな役柄を演じていたのに、マジメで誠実な印象が小津映画、黒澤映画で確立してしまった感じだ。本当は喜劇で演じたコミカルな役柄の方が魅力的なのではないか。木下恵介「お嬢さん乾杯」とか千葉泰樹の「東京の恋人」、「大番」シリーズのような。もっとも「大番」は加東大介の憧れの君をやってるだけだが、原節子の人生を象徴する映画かも知れない。
原節子を演出した映画監督は一人も存命ではない。まあ引退したのが42歳だから、もっと年上の監督が先に亡くなるのは当然だ。共演した俳優はまだ何人か存命で、今回様々なコメントを残している。それらの人々は、原節子の妹や娘を演じた女優が多い。司葉子は「秋日和」と「小早川家の秋」でどちらも娘を演じている。個人的なつきあい(といっても電話するぐらいらしいが)が最後まであったことがコメントで示されている。「東京物語」の妹役の香川京子、「東京暮色」の妹役の有馬稲子、「青い山脈」で生徒役の杉葉子などが存命している。まだまだ元気で活躍している人が多い。
引退の理由については、僕はあまり関心がない。もうそういうものとして知ったことだから。「日本のグレタ・ガルボ」と言われると知識で知った話である。今ではもうグレタ・ガルボという名前も解説なしには通じないだろう。どんな世界にも、ある時点で「世間」との関係を断ってしまうしまう人がいる。それを周りは尊重するべきだ。最後に一言書けば、黒澤明の「白痴」というドストエフスキーの原作を札幌に移した映画がある。徹底的に切られて、「呪われた映画」というジャンルに入れられる映画かも知れない。(松竹は残されたフィルムがないのか徹底的に探して欲しいと思う。)原節子の美しさという点では、この映画の那須妙子(ナスターシャ)が最高なのではないだろうか。引退したからでも、小津映画に出たからでもなく、やはり「神話的な美しさ」を持っている女優だった。
新聞では「東京物語」「晩春」が大きな見出しになっていた。うーん、まあそういうことになるのだろうな。あまり小津作品ばかり言われると、つい他の監督の名作にもいっぱい出ているよと言いたくなる。だけど、どうもいまの時点で見ると、あまり好きになれない映画が多い。戦時中の戦意高揚映画はもちろんのこと、戦後になって逆に民主化の旗手みたいな感じで出た「わが青春に悔いなし」(黒澤明)や「青い山脈」(今井正)も今見ると、なんだか納得できないところが多い。それは脚本や演出の問題と言えるが、原節子の演技もどうなんだろうか。
でも若い時の、つまり戦時中の原節子は美しかった。よく「バタ臭い」顔立ちと言われ、演技的には大根と言われたとされるが、そういう批判を吹き飛ばす若い魅力がある。戦後になると、日本映画の最盛期とも言える「巨匠の時代」を支える女優のひとりとなった。黒沢、小津だけでなく、成瀬巳喜男、木下恵介、吉村公三郎などだが、フィルモグラフィを見ると、それ以外にも「文芸作品」の出演が多い。成瀬の「めし」や「山の音」も名作なんだろうが、好きな映画ではない。案外さまざまな役柄を演じていたのに、マジメで誠実な印象が小津映画、黒澤映画で確立してしまった感じだ。本当は喜劇で演じたコミカルな役柄の方が魅力的なのではないか。木下恵介「お嬢さん乾杯」とか千葉泰樹の「東京の恋人」、「大番」シリーズのような。もっとも「大番」は加東大介の憧れの君をやってるだけだが、原節子の人生を象徴する映画かも知れない。
原節子を演出した映画監督は一人も存命ではない。まあ引退したのが42歳だから、もっと年上の監督が先に亡くなるのは当然だ。共演した俳優はまだ何人か存命で、今回様々なコメントを残している。それらの人々は、原節子の妹や娘を演じた女優が多い。司葉子は「秋日和」と「小早川家の秋」でどちらも娘を演じている。個人的なつきあい(といっても電話するぐらいらしいが)が最後まであったことがコメントで示されている。「東京物語」の妹役の香川京子、「東京暮色」の妹役の有馬稲子、「青い山脈」で生徒役の杉葉子などが存命している。まだまだ元気で活躍している人が多い。
引退の理由については、僕はあまり関心がない。もうそういうものとして知ったことだから。「日本のグレタ・ガルボ」と言われると知識で知った話である。今ではもうグレタ・ガルボという名前も解説なしには通じないだろう。どんな世界にも、ある時点で「世間」との関係を断ってしまうしまう人がいる。それを周りは尊重するべきだ。最後に一言書けば、黒澤明の「白痴」というドストエフスキーの原作を札幌に移した映画がある。徹底的に切られて、「呪われた映画」というジャンルに入れられる映画かも知れない。(松竹は残されたフィルムがないのか徹底的に探して欲しいと思う。)原節子の美しさという点では、この映画の那須妙子(ナスターシャ)が最高なのではないだろうか。引退したからでも、小津映画に出たからでもなく、やはり「神話的な美しさ」を持っている女優だった。