やっぱり米大統領選の事を書いてしまおう。ただし、大統領選挙の仕組みを中心に。自分が知っていることでも、知らない人もいるわけだから、時には丁寧に書いておく方がいいだろう。直前に書いた「ペテロの葬列」に出てきた豊田商事事件の話を読んで、ちゃんと伝えていかないといけないなあと思った。さて、2016年米大統領選挙(United States presidential election)は、共和党が事実上ドナルド・トランプが候補になると確定した。民主党はヒラリー・クリントンがほぼ決定だが、まだバーニー・サンダースが善戦している。
民主党が長引いているように見えるが、2008年にヒラリー・クリントンが下りて、バラク・オバマが候補になると確定したのは、6月3日である。確かに当初はサンダースは「泡沫」扱いされていたのだから、予想を超えて善戦しているのは間違いない。その理由は今後じっくり考える必要があるが、とりあえず民主党が長引く理由がある。それは代議員の「総取り方式」を取っていないからである。
今やっている「予備選」(あるいは「党員集会」)というのは、それぞれの党大会の代議員選出である。そして、昔はその州の代議員を、予備選で1位になった候補が「総取り」していた。今も共和党は大部分の州で「総取り」方式で行っている。もっとも当初は比例代表で分けていた。3月1日の「スーパーチューズデイ」の段階では比例なので、例えばヴァージニア州では49人の代議員を、トランプ(17)、ルビオ(16)、クルーズ(8)、ケーシック(5)、カーソン(3)と分け合っている。トランプは1位だが、過半数にはほど遠い。しかし、3月15日のフロリダ州は99人の代議員を1位のトランプが全部取った。こうしてトランプ陣営が勝利して行ったわけである。だけど、民主党は全ての州で比例で分ける。ニュースではどっちが勝ったしか報じないけど、実は両陣営とも代議員を獲得しているのである。
さて、この「勝者総取り方式」、これが大統領選の本選のキーポイントである。そもそも世界では珍しく、アメリカ大統領選は「直接投票」ではない。州ごとに「大統領選挙人」を選んで、その大統領選挙人が集まって大統領を選ぶのである。有権者が選ぶのは、あくまでも「選挙人」の方である。こういう「間接選挙」を大統領選挙で行っている国は珍しい。そして、各州の選挙人はその州の勝者が総取りする。(もっとも、今回初めて知ったのだが、メイン州とネブラスカ州では選挙人を比例配分する。)だから、直接の投票数では上回っているのだが、結果は敗北ということもある。2000年の選挙ではアル・ゴア(民主)がジョージ・ブッシュ(共和)より得票しているのだが、獲得選挙人数では下だった。。
その「大統領選挙人」は全部で538人。過半数は270人である。50州とワシントンDC(特別区)から選ばれる。プエルトリコやグアムなどは投票権がない。(代わりに連邦税もかからない。採決権のない代表を連邦議会に送っている。しかし、予備選は行われている。)大統領選挙人は基本的には人口比で各州に割り当てられている。多い順に見ておくと、以下の通り。(2012年)
①カリフォルニア(55人)
②テキサス(38人)
③ニューヨーク、フロリダ(29人)
⑤ペンシルベニア、イリノイ(20人)
⑦オハイオ(18)
⑧ミシガン、ジョージア(16)
⑩ノースカロライナ(15) ここまでで240人。
10人以上の州を挙げておく。
⑪ニュージャージー(14)
⑫ヴァージニア(13)
⑬ワシントン(12) ここまでで279人。過半数を超える。
⑭マサチューセッツ、インディアナ、ケンタッキー、アリゾナ(11)
⑱メリーランド、ウィスコンシン、ミネソタ、ミズーリ(10)
ただし、各回ごとに人口をもとに調整されるらしく、今の数字は2012年のもので、他の年は違う。以上の重要21州で、前回ロムニー(共和党)が獲得したところは、テキサス、ジョージア、ノースカロライナ、ケンタッキー、インディアナ、アリゾナの6州だけである。10位までの州だけで見ると、オバマ189、ロムニー69となる。カリフォルニアや東部各州は民主党が強く、今回も候補が誰でも民主党が勝利するように思われる。カリフォルニアはともかく、フロリダやオハイオ(どっちも2004年はブッシュが勝利)を取り返さないとトランプは大敗するしかない。しかし、フロリダはオバマのキューバ政策が支持されるのではないだろうか。フロリダが地元のルビオや知事を務めたジェブ・ブッシュが候補なら、共和党が勝つかもしれないが。フロリダの予備選ではトランプが勝利したが、それはあくまでも共和党支持者内だけの選挙である。前回の共和党票をまとめた上に民主党から相当の票を奪わない限り、トランプ勝利はない。相当に難しいように思う。
最後に、ここ10回の選挙の選挙人数と得票率の結果を示しておきたい。1976年に共和党のフォード大統領を、民主党のジミー・カーターが破った選挙以後である。先に書いておくと、ロナルド・レーガンの大衆的人気は圧倒的だったことが今さら思い知らされる。その「国民的人気」を共和党は湾岸戦争とイラク戦争で失って行ってしまう。今回のトランプはアイゼンハワー以来の「シロウト候補」だが、国民統合力は段違いだろう。トランプじゃなくても厳しいのに、共和党がどこまで一体的に選挙を戦えるのかは注目せざるを得ない。なお、党名の次の数字が選挙人数。カッコ内は獲得州と得票率。獲得州は50+ワシントンDCで計51となる。
1976 カーター(民)297(24、50.1%) フォード(共)240(27、48.0%)
1980 レーガン(共)489(44、50.7%) カーター(民)49(7、41.0%)
1984 レーガン(共)525(49、58.5%) モンデール(民)13(2、40.6%)
1988 ブッシュ(共)426(39、53.4%) テュカキス(民)111(12、45.6%)
1992 クリントン(民)370(33、43.0%) ブッシュ(共)168(18、37.5%)
1996 クリントン(民)379(31、49.2%) ドール(共)159(20、40.7%)
2000 ブッシュ(共)271(30、47.9%) ゴア(民)266(21、48.4%)
2004 ブッシュ(共)286(31、50.7%) ケリー(民)251(20、48.3%)
2008 オバマ(民)365(29、52.9%) マケイン(共)173(22、45.7%)
2012 オバマ(民)332(27、50.5%) ロムニー(共)206(24、47.9%)
最近は両党が獲得する州が固定化されてきている。民主党は青、共和党が赤がシンボルカラーなので、それぞれブルー・ステイト、レッド・ステイトという。最近は南部、中西部が赤一色となり、カリフォルニアや東部の青がそれをはさむようになる。そのことを直近4回の図表で示しておきたい。表はウィキペディアから取ったもの。それぞれ左から、2012,2008、2004、2000とだんだん昔にさかのぼる。
民主党が長引いているように見えるが、2008年にヒラリー・クリントンが下りて、バラク・オバマが候補になると確定したのは、6月3日である。確かに当初はサンダースは「泡沫」扱いされていたのだから、予想を超えて善戦しているのは間違いない。その理由は今後じっくり考える必要があるが、とりあえず民主党が長引く理由がある。それは代議員の「総取り方式」を取っていないからである。
今やっている「予備選」(あるいは「党員集会」)というのは、それぞれの党大会の代議員選出である。そして、昔はその州の代議員を、予備選で1位になった候補が「総取り」していた。今も共和党は大部分の州で「総取り」方式で行っている。もっとも当初は比例代表で分けていた。3月1日の「スーパーチューズデイ」の段階では比例なので、例えばヴァージニア州では49人の代議員を、トランプ(17)、ルビオ(16)、クルーズ(8)、ケーシック(5)、カーソン(3)と分け合っている。トランプは1位だが、過半数にはほど遠い。しかし、3月15日のフロリダ州は99人の代議員を1位のトランプが全部取った。こうしてトランプ陣営が勝利して行ったわけである。だけど、民主党は全ての州で比例で分ける。ニュースではどっちが勝ったしか報じないけど、実は両陣営とも代議員を獲得しているのである。
さて、この「勝者総取り方式」、これが大統領選の本選のキーポイントである。そもそも世界では珍しく、アメリカ大統領選は「直接投票」ではない。州ごとに「大統領選挙人」を選んで、その大統領選挙人が集まって大統領を選ぶのである。有権者が選ぶのは、あくまでも「選挙人」の方である。こういう「間接選挙」を大統領選挙で行っている国は珍しい。そして、各州の選挙人はその州の勝者が総取りする。(もっとも、今回初めて知ったのだが、メイン州とネブラスカ州では選挙人を比例配分する。)だから、直接の投票数では上回っているのだが、結果は敗北ということもある。2000年の選挙ではアル・ゴア(民主)がジョージ・ブッシュ(共和)より得票しているのだが、獲得選挙人数では下だった。。
その「大統領選挙人」は全部で538人。過半数は270人である。50州とワシントンDC(特別区)から選ばれる。プエルトリコやグアムなどは投票権がない。(代わりに連邦税もかからない。採決権のない代表を連邦議会に送っている。しかし、予備選は行われている。)大統領選挙人は基本的には人口比で各州に割り当てられている。多い順に見ておくと、以下の通り。(2012年)
①カリフォルニア(55人)
②テキサス(38人)
③ニューヨーク、フロリダ(29人)
⑤ペンシルベニア、イリノイ(20人)
⑦オハイオ(18)
⑧ミシガン、ジョージア(16)
⑩ノースカロライナ(15) ここまでで240人。
10人以上の州を挙げておく。
⑪ニュージャージー(14)
⑫ヴァージニア(13)
⑬ワシントン(12) ここまでで279人。過半数を超える。
⑭マサチューセッツ、インディアナ、ケンタッキー、アリゾナ(11)
⑱メリーランド、ウィスコンシン、ミネソタ、ミズーリ(10)
ただし、各回ごとに人口をもとに調整されるらしく、今の数字は2012年のもので、他の年は違う。以上の重要21州で、前回ロムニー(共和党)が獲得したところは、テキサス、ジョージア、ノースカロライナ、ケンタッキー、インディアナ、アリゾナの6州だけである。10位までの州だけで見ると、オバマ189、ロムニー69となる。カリフォルニアや東部各州は民主党が強く、今回も候補が誰でも民主党が勝利するように思われる。カリフォルニアはともかく、フロリダやオハイオ(どっちも2004年はブッシュが勝利)を取り返さないとトランプは大敗するしかない。しかし、フロリダはオバマのキューバ政策が支持されるのではないだろうか。フロリダが地元のルビオや知事を務めたジェブ・ブッシュが候補なら、共和党が勝つかもしれないが。フロリダの予備選ではトランプが勝利したが、それはあくまでも共和党支持者内だけの選挙である。前回の共和党票をまとめた上に民主党から相当の票を奪わない限り、トランプ勝利はない。相当に難しいように思う。
最後に、ここ10回の選挙の選挙人数と得票率の結果を示しておきたい。1976年に共和党のフォード大統領を、民主党のジミー・カーターが破った選挙以後である。先に書いておくと、ロナルド・レーガンの大衆的人気は圧倒的だったことが今さら思い知らされる。その「国民的人気」を共和党は湾岸戦争とイラク戦争で失って行ってしまう。今回のトランプはアイゼンハワー以来の「シロウト候補」だが、国民統合力は段違いだろう。トランプじゃなくても厳しいのに、共和党がどこまで一体的に選挙を戦えるのかは注目せざるを得ない。なお、党名の次の数字が選挙人数。カッコ内は獲得州と得票率。獲得州は50+ワシントンDCで計51となる。
1976 カーター(民)297(24、50.1%) フォード(共)240(27、48.0%)
1980 レーガン(共)489(44、50.7%) カーター(民)49(7、41.0%)
1984 レーガン(共)525(49、58.5%) モンデール(民)13(2、40.6%)
1988 ブッシュ(共)426(39、53.4%) テュカキス(民)111(12、45.6%)
1992 クリントン(民)370(33、43.0%) ブッシュ(共)168(18、37.5%)
1996 クリントン(民)379(31、49.2%) ドール(共)159(20、40.7%)
2000 ブッシュ(共)271(30、47.9%) ゴア(民)266(21、48.4%)
2004 ブッシュ(共)286(31、50.7%) ケリー(民)251(20、48.3%)
2008 オバマ(民)365(29、52.9%) マケイン(共)173(22、45.7%)
2012 オバマ(民)332(27、50.5%) ロムニー(共)206(24、47.9%)
最近は両党が獲得する州が固定化されてきている。民主党は青、共和党が赤がシンボルカラーなので、それぞれブルー・ステイト、レッド・ステイトという。最近は南部、中西部が赤一色となり、カリフォルニアや東部の青がそれをはさむようになる。そのことを直近4回の図表で示しておきたい。表はウィキペディアから取ったもの。それぞれ左から、2012,2008、2004、2000とだんだん昔にさかのぼる。



