フィルムセンターで21日に見た映画の話。「春だ ドリフだ 全員集合!!」は、1971年12月29日に松竹で封切られた松竹映画で、16本作られた松竹のザ・ドリフターズ映画「全員集合」シリーズの第8作目。(題名に「全員集合」が入らない松竹ドリフ映画も含めると13作目。)この映画から寅さんシリーズの併映作となり、1975年までシリーズが続いた。「全員集合」シリーズは全部、渡邊祐介監督。
なんでこの映画が見たかったかというと、フィルムセンターの案内文に以下のようにあったからである。「本作では、いかりや長介が落語家いかり亭に扮し、彼の師匠役に三遊亭円生。いかり亭の善意からの行動は思いがけぬ大騒動となり、彼の真打昇進の件も絡んで、師匠(円生)は協会の有力者(柳家小さん)に重大宣言をするに至ってしまう。」
ドリフターズというより、この円生と小さん、この名前に驚いた。それに「重大発言」って何だ。円生と小さんが衝突するんだったら。ほとんど後の「落語協会分裂の予見映画」ではないか。後でウィキペディアを見たら、そこにも「落語界が舞台だが、7年後の落語協会分裂騒動を予見するような内容になった。」と記述されているではないか。
さて、では見た結果どうだったかというと…。いかりや長介演じる二つ目の落語家(最初は「なまづ家源五郎」、その後改名して「いかり亭長楽」)が伊賀上野で小柳ルミ子の知り合いだと大ぼらを吹いて、ルミ子の巡業を請け負って金までもらってくる。もちろん相手にされず、師匠にも説教され改名させられる。腐って飲んでいると、地方から出てきた加藤茶と知り合い強引に弟子にする。師弟は長屋の2階で極貧生活。長楽は隣家の長山藍子に惚れているが、藍子は芸者をしながらヤクザな兄(荒井注)や妹を養っている。その藍子に危機が訪れ、メンバーはそろって箱根へ押しかける。そこでのハチャメチャが、真打昇進を決めるため同じ箱根の旅館にきていた円生師匠と小さん師匠に見つかってしまい…。せっかくの昇進話はチャラになり、かえって弟子だった茶楽(加藤茶)が先に売れ始めてしまう…。もちろん、他のメンバー、高木ブー、仲本工事の役もあって、五人が「全員集合」である。(まだ志村けんはメンバーではない時期。)
円生師匠は怒ってしまって、「お前の真打昇進は取り消しだ」と宣告するのだから、もちろん怒って協会を飛び出したりしない。だから、全然「予見映画」ではなかったけど、円生と小さんが出てくるという意味では貴重なフィルムだろう。ドリフの映画は実は初めて。というか、男はつらいよシリーズも松竹の劇場で見たことがない。東宝や東映も似たようなもので、日本映画の新作は池袋の文芸地下や銀座の並木座で見ていた。ドリフ映画は作品的には評価されず、ほとんど名画座には下りていないはず。東宝は60年代初めからクレージーキャッツの映画シリーズ(「日本一」シリーズなど)を営々と作り続けていた。それに対して、ドリフターズ映画は松竹がほとんど作っている。(東宝にも5本ある。)
しかし、こういうシリーズはグループ全員に役を割り当てなければならず、ストーリイ展開に無理が出てくる。東宝クレージーシリーズは、そのアナーキーなまでの能天気ぶりが後に評価されていくが、ドリフ映画はなんだかちょっと設定が暗く、展開も(この映画を見る限り)ちょっとまだるっこしい。その意味では、やはり今となっては面白さはあまり感じられない。ドリフターズは長い間テレビで大人気だったから、公開当時はスクリーンに出てきただけで大喝采だったのだと思う。「男はつらいよ」シリーズの渥美清や、テレビで絶頂期の「コント55号」(萩本欣一、坂上二郎)なども、ほんとに出てくるだけでおかしかった。そういう時期が終わると、これはどうもというシーンが多くなるのはやむを得ない。
なお、落語協会分裂騒動というのは、五代目柳家小さん会長の真打ち量産に対して、前会長の6代目三遊亭圓生が反対して、その問題が尾を引いていて、1978年に圓生一門が協会を脱退した事件である。一時は立川談志、古今亭志ん朝も含めて大問題となったが、結局席亭の賛成が得られず、圓生一門が「落語三遊協会」を結成した。その後、圓生の没後も弟子の5代目三遊亭圓楽をリーダーにして協会に復帰せず、圓楽没後も「円楽一門会」として活動している。その後、立川談志も協会を脱退、「落語立川流」を立ちあげ、東京では「落語芸術協会」を合わせて4派体制となっている。(円楽一門と立川流は寄席の定席には出られない状態が続いている。)
(中央=圓生、右=小さん)
「昭和の名人」が出てくる劇映画としては、桂文楽(8代目)が千葉泰樹監督「羽織の大将」(1960)に出ている。落語家を目指すフランキー堺の師匠役で、桂文楽の高座姿もたっぷり出てくる。一方、並び称される古今亭志ん生(5代目)は島耕二監督「銀座カンカン娘」(1949)に落語家新笑役で出ている。落語家の家に、高峰秀子と笠置シヅ子が下宿するという設定で、志ん生の落語も出てくる。一方、落語家役ではなく一般映画に出ていることも結構あり、有名漫画の映画化「博多っ子純情」(1978、曽根中生監督)には桂歌丸、桂米丸が出ている。また、市川崑監督版「細雪」には、四女の恋人(の一人)役で桂小米朝(現・5代目桂米團治)が出ている。直接の落語映画以外にもかなり出ている。
ところで、フィルムセンターの特集は、「生誕百年 木下忠司の映画音楽」である。木下恵介監督の実弟で、兄の作品「二十四の瞳」「喜びも悲しみも幾年月」などの音楽を担当している。同じ姓だから関係あるのかなと思っていて、いつの時からか兄弟だと知った。兄の関係から松竹映画が多いが、その後見ていると東映映画も結構担当していることを知った。藤純子引退映画である「関東緋桜一家」などで、へえと思った記憶がある。今回「生誕百年」ということだが、まだ存命で先にフィルムセンターを訪れた時のことが、共同通信の立花珠樹さんの記事で紹介されてビックリした。
今回紹介した「春だ ドリフだ 全員集合!!」は、6月10日(金)夜7時にもう一回上映がある。
なんでこの映画が見たかったかというと、フィルムセンターの案内文に以下のようにあったからである。「本作では、いかりや長介が落語家いかり亭に扮し、彼の師匠役に三遊亭円生。いかり亭の善意からの行動は思いがけぬ大騒動となり、彼の真打昇進の件も絡んで、師匠(円生)は協会の有力者(柳家小さん)に重大宣言をするに至ってしまう。」
ドリフターズというより、この円生と小さん、この名前に驚いた。それに「重大発言」って何だ。円生と小さんが衝突するんだったら。ほとんど後の「落語協会分裂の予見映画」ではないか。後でウィキペディアを見たら、そこにも「落語界が舞台だが、7年後の落語協会分裂騒動を予見するような内容になった。」と記述されているではないか。
さて、では見た結果どうだったかというと…。いかりや長介演じる二つ目の落語家(最初は「なまづ家源五郎」、その後改名して「いかり亭長楽」)が伊賀上野で小柳ルミ子の知り合いだと大ぼらを吹いて、ルミ子の巡業を請け負って金までもらってくる。もちろん相手にされず、師匠にも説教され改名させられる。腐って飲んでいると、地方から出てきた加藤茶と知り合い強引に弟子にする。師弟は長屋の2階で極貧生活。長楽は隣家の長山藍子に惚れているが、藍子は芸者をしながらヤクザな兄(荒井注)や妹を養っている。その藍子に危機が訪れ、メンバーはそろって箱根へ押しかける。そこでのハチャメチャが、真打昇進を決めるため同じ箱根の旅館にきていた円生師匠と小さん師匠に見つかってしまい…。せっかくの昇進話はチャラになり、かえって弟子だった茶楽(加藤茶)が先に売れ始めてしまう…。もちろん、他のメンバー、高木ブー、仲本工事の役もあって、五人が「全員集合」である。(まだ志村けんはメンバーではない時期。)
円生師匠は怒ってしまって、「お前の真打昇進は取り消しだ」と宣告するのだから、もちろん怒って協会を飛び出したりしない。だから、全然「予見映画」ではなかったけど、円生と小さんが出てくるという意味では貴重なフィルムだろう。ドリフの映画は実は初めて。というか、男はつらいよシリーズも松竹の劇場で見たことがない。東宝や東映も似たようなもので、日本映画の新作は池袋の文芸地下や銀座の並木座で見ていた。ドリフ映画は作品的には評価されず、ほとんど名画座には下りていないはず。東宝は60年代初めからクレージーキャッツの映画シリーズ(「日本一」シリーズなど)を営々と作り続けていた。それに対して、ドリフターズ映画は松竹がほとんど作っている。(東宝にも5本ある。)
しかし、こういうシリーズはグループ全員に役を割り当てなければならず、ストーリイ展開に無理が出てくる。東宝クレージーシリーズは、そのアナーキーなまでの能天気ぶりが後に評価されていくが、ドリフ映画はなんだかちょっと設定が暗く、展開も(この映画を見る限り)ちょっとまだるっこしい。その意味では、やはり今となっては面白さはあまり感じられない。ドリフターズは長い間テレビで大人気だったから、公開当時はスクリーンに出てきただけで大喝采だったのだと思う。「男はつらいよ」シリーズの渥美清や、テレビで絶頂期の「コント55号」(萩本欣一、坂上二郎)なども、ほんとに出てくるだけでおかしかった。そういう時期が終わると、これはどうもというシーンが多くなるのはやむを得ない。
なお、落語協会分裂騒動というのは、五代目柳家小さん会長の真打ち量産に対して、前会長の6代目三遊亭圓生が反対して、その問題が尾を引いていて、1978年に圓生一門が協会を脱退した事件である。一時は立川談志、古今亭志ん朝も含めて大問題となったが、結局席亭の賛成が得られず、圓生一門が「落語三遊協会」を結成した。その後、圓生の没後も弟子の5代目三遊亭圓楽をリーダーにして協会に復帰せず、圓楽没後も「円楽一門会」として活動している。その後、立川談志も協会を脱退、「落語立川流」を立ちあげ、東京では「落語芸術協会」を合わせて4派体制となっている。(円楽一門と立川流は寄席の定席には出られない状態が続いている。)
(中央=圓生、右=小さん)
「昭和の名人」が出てくる劇映画としては、桂文楽(8代目)が千葉泰樹監督「羽織の大将」(1960)に出ている。落語家を目指すフランキー堺の師匠役で、桂文楽の高座姿もたっぷり出てくる。一方、並び称される古今亭志ん生(5代目)は島耕二監督「銀座カンカン娘」(1949)に落語家新笑役で出ている。落語家の家に、高峰秀子と笠置シヅ子が下宿するという設定で、志ん生の落語も出てくる。一方、落語家役ではなく一般映画に出ていることも結構あり、有名漫画の映画化「博多っ子純情」(1978、曽根中生監督)には桂歌丸、桂米丸が出ている。また、市川崑監督版「細雪」には、四女の恋人(の一人)役で桂小米朝(現・5代目桂米團治)が出ている。直接の落語映画以外にもかなり出ている。
ところで、フィルムセンターの特集は、「生誕百年 木下忠司の映画音楽」である。木下恵介監督の実弟で、兄の作品「二十四の瞳」「喜びも悲しみも幾年月」などの音楽を担当している。同じ姓だから関係あるのかなと思っていて、いつの時からか兄弟だと知った。兄の関係から松竹映画が多いが、その後見ていると東映映画も結構担当していることを知った。藤純子引退映画である「関東緋桜一家」などで、へえと思った記憶がある。今回「生誕百年」ということだが、まだ存命で先にフィルムセンターを訪れた時のことが、共同通信の立花珠樹さんの記事で紹介されてビックリした。
今回紹介した「春だ ドリフだ 全員集合!!」は、6月10日(金)夜7時にもう一回上映がある。