尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

クリントンとトランプの得票は-数字で見る米大統領選②

2016年11月13日 23時02分18秒 |  〃  (国際問題)
 前回に引き続き、アメリカ大統領選挙の結果を数字で見てみる。日本の新聞にはさすがに載ってないので、またニューヨークタイムズのHPで「ELECTION 2016」をクリックしていってデータのページを出す。「クリントンとトランプ」と書いたけど、そう今回はクリントンの得票の方が多かった

 全米の得票数は、以下の通り。
Hillary Clinton    62,391,335votes (48.0%)
Donald J. Trump  61,125,956 votes (47.0%)
 94万7584票ほど、クリントンの方が多い。全体票に比べたら小さいが、ついに126万票を超えた。獲得選挙人数は今回は72ほど違ってきそうだ。(数字は、11.19現在で改定)

 得票と選挙人数の多数が不一致になることは、19世紀に2回あった。その後ずっとなかったが、2000年の選挙で再び起こった。その時は、ブッシュが選挙人271、ゴアが選挙人266と5人差だった。
 得票は、ゴアが50,999,897票、ブッシュが50,456,002票で、543,895票差である。得票でも獲得選挙人数でも、差は今回より小さい。連邦国家の特殊性ということで、何となく「そんなもんかな」と思ってしまう程度に収まっていた。

 だけど、ブラジルロシアなどの連邦制国家では、大統領選挙は全土の得票で実施している。(ドイツやインドなども連邦制国家だが、議院内閣制なので大統領は議会で選出することになっている。)州ごとの独自性を重んじる連邦国家と言えど、州ごとに移住したり、経済活動を行うのは自由なんだから、「州ごとに選挙人を総取りする」という現行のやり方は、あきらかに時代に反している。他国の制度とはいえ、やはりおかしいと思う。これでは負けた側が納得することができない。

 どうしてそうなるかというと、各州の選挙人数の決め方に理由がある。僕も今度初めて知ったのだが、各州の選挙人は「その州が選出している上下両院議員数と同じ」と決められている。下院議員の数は、一応人口比で決まっている。最多のカリフォルニアは、下院議員を53人選出する。(53の小選挙区がある。)上院議員は2人だから、合わせて55人がカリフォルニアの大統領選挙人となる。上院議員は人口に関係なく、各州で2人と決まっている。だから、下院議員1人の人口の少ない州、ワイオミングやモンタナ、アラスカなんかの州でも、「選挙人3」を与えられるのである。

 そして、人口の少ない農村部の州は、軒並み共和党の地盤である。都市部の州は、確かに下院議員数は多く、そのため選挙人数も多いように見える。でも、上院議員2人分のプラスが、小さな州に有利なので、全体としては共和党に多く配分されることになる。言ってみれば「アメリカ版一票の価値の不平等」という問題があるのだ。

 先ほど2000年の得票数を見たけれど、ブッシュもゴアも同じく5千万票台だった。今回はトランプもクリントンも6千万票台である。2000年は投票率が51.3㌫と低かったし、その後人口増もあるんだろう。でも、「どっちも嫌われ者」と言われた割には、双方ともに結構得票が多かったのである。

 2004年には、ブッシュが6200万票と大きく得票を伸ばし、ケリーの5900万票に差をつけた。あの時は「ブッシュでなければ誰でもいい」(ABB)と言われつつ、イラク戦争があっても現職の強みは大きかったのである。2008年のオバマはさらに得票を伸ばし、6949万8516票を獲得した。ほとんど7千万票に迫るこのときの得票は米大統領選挙史上の最多得票である。この時は直前にリーマンショックがあり、経済がガタガタになっていたことが大きく、共和党のマケインに約1千万票差を付けた。

 2012年の前回は、オバマが6591万5795票で、共和党のロムニーが6093万3504票だった。リバタリアン党のジョンソンは、約127万票。そうすると、今回クリントン票は、民主党としてみると500万票ほど減っているが、オバマ票自体が2008年に比べて350万票も減らしていた。オバマ票は定着せず、その後の「ティーパーティー」運動などに足を引きずられていった。

 今回民主党は、前回獲得したフロリダ(29)、ペンシルバニア(20)、オハイオ(18)、ウィスコンシン(10)、アイオワ(6)を失った。カッコ内は選挙人の数。この5州が、言ってみれば全世界を変えたのである。そこでこの5州の得票を前回と今回で比べてみたい。

フロリダ  (リバタリアン党=2.2%)
民主 2012 4,237,756  ➡  2016 4,487,657 (約25万票増)
共和 2012 4,163,447  ➡  2016 4,607,146 (約44万票増)
ペンシルバニア (リバタリアン党=2.39%) 
民主 2012 2,990,274  ➡  2016 2,817,409 (約17万票減)
共和 2012 2,680,434  ➡  2016 2,890,633 (約21万票増)
オハイオ  (リバタリアン党=3.16%)
民主 2012 2,827,710  ➡  2016 2,320,596 (約50万票減)
共和 2012 2,661,433  ➡  2016 2,776,683 (約11万票増)
ウィスコンシン  (リバタリアン党=3.61%)
民主 2012 1,620,985  ➡  2016 1,383,926 (約24万票減)
共和 2012 1,407,966  ➡  2016 1,411,432 (ほぼ同じ)
アイオワ  (リバタリアン党=3.77%) 
民主 2012 822,544   ➡  2016 650,780  (約17万票減)
共和 2012 730,617   ➡  2016 798,923  (約7万票増)

 フロリダは両党ともに伸ばしている。しかし、オハイオ、ペンシルバニア、ウィスコンシン、アイオワなどの民主票の減少は非常に大きい。これらの州はリバタリアン党の得票が比較的少ない。5%以上を取っている州もかなりあるが、これらの州は2、3%である。極端な「小さな政府」を主張するリバタリアン党は、共和党により近いと言えるから、リバタリアン党が少ないと共和党に有利になるように思う。

 全部の州をこうやって比べてみるのは大変すぎてできない。一応、大きな州ということで、民主が強いカリフォルニアとニューヨーク、共和が強いテキサス州を見ておきたい。
 カリフォルニア州は前回の民主党は、7,854,285票。今回は5,488,261票なので、200万票以上減らしている。共和党は4,839,958票から2,969,532票へ。こちらも200万票近く減っている。リバタリアン党は倍増させ、緑の党も1%以上取っているが、合わせても数%。結局カリフォルニアでは「どうせ民主が勝つ」ということで、どっちも棄権が増えたんだろう。
 ニューヨーク州は、民主は4,485,741票から4,145,376票へ。共和は2,490,431票から2,638,135票へ。トランプの地元だけあって、勝敗に影響は与えないけど、共和党は増やしている。
 
 テキサス州は、民主は3,308,124票から3,867,816票へ。共和は4,569,843票から4,681,590票へ。テキサスはゴリゴリの保守州のように思ってしまうが、下院選などはそこそこ民主党も取っている。「国境に壁を作る」という政策で一番影響を受ける地帯である。トランプ票も少し増えているが、クリントン票は50万票以上伸びている。ヒスパニック系を中心に、反トランプ票が相当出たということが判る。このようにアメリカ各地でかなり違いが見られることが判る。では、この票の出方の背景には何があるのか。次にはその問題を考えてみたい。
コメント (2)
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