尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

フィデル・カストロ死す

2016年11月26日 23時23分16秒 |  〃  (国際問題)
 キューバ革命の指導者、フィデル・カストロが亡くなった。1926年8月13日~2016年11月25日、90歳。政治の第一線から離れて長かったし、病気もした。年齢が年齢だけに、驚きはないけれど、特に最近容体が危ないといった情報はなかったから突然の訃報という感じもある。
 
 国際情勢に大きな影響を与えるわけではないけど、やはり「英雄の死」として大きく取り上げられるだろう。少し書いておきたいと思う。国家の肩書としては、キューバ国家評議会議長(国家元首)と閣僚評議会議長(首相)を1976年から2008年まで務めた。それ以前も革命後はずっと首相だけど、1976年に新憲法が制定されて、その現体制下でずっとリーダーだったということ。また党の方では、キューバ共産党中央委員会第一書記を1965年から2011年まで務めた。

 カストロの人生とキューバ革命史には、いくつかの焦点がある。以下にいくつか挙げてみると、
なぜキューバ革命が成功したのか
②その後の反米、親ソ路線をどう評価するか。
国家建設の実態をどう評価するか。
④80年代までの「革命輸出」路線をどう評価するか。
⑤90年代の「ソ連崩壊」後のキューバのかじ取りをどう評価するか。

 ぼくはキューバ革命にそんなに詳しくないから、以上の問題に答えを持っているわけではない、。だけど、アメリカにあんなに近いところ、実質的にアメリカ資本に支配されていたところで、どうやって革命ができたのかという驚きはよくわかる。同時代的に知っているわけではないけど、「キューバ革命幻想」といったものは僕の若いころにはまだ感じられたものである。

 でも、革命のロマンティックな部分は、チェ・ゲバラが代表してしまい、フィデル・カストロは政治を実際に進める非ロマン的な政治家という印象になってしまった。カストロの統治は「一党独裁」で、国内に自由はなく、多くの国民が外国に脱出したというのも間違いない。だけど、同時に福祉や医療、教育などは充実し、格差が少ない社会を作ってきたとも言える。
 (右がゲバラ)
 政治家は誰でも大体、毀誉褒貶(きよほうへん)が付きまとうけど、カストロも一方から見れば英雄で、もう片方から見れば独裁者だった。後継者も弟のラウル・カストロである。だけど、ラウルは革命運動をともに進めてきた同志であり、革命後はずっと政府高官(国防相、党や国家の第一副議長など)を務めてきた。フィデルもラウルも男子があるが、党や政府で重要な地位には付いていない。アジアやラテンアメリカ各国に多いネポティズム(縁故主義)にならなかった。キューバ共産党も、「腐敗」が大問題になったりしていない。それを重視すれば、キューバ革命とカストロ兄弟はうまくやったと言うべきか。

 フィデル・カストロは裕福な農場主の家に生まれ、ハバナ大学を出て弁護士をしていた。バティスタ大統領独裁に抵抗し、武装組織を作り、1953年7月26日にモンカダ兵営襲撃事件を起こした。懲役15年となったが、恩赦で出獄後にメキシコに亡命。1956年12月にキューバに密航し、革命運動を開始した。国内外の強力な支援なしに、アメリカの支援を受ける政府軍を打倒したことは、「奇跡」だった。実質的にアメリカの「植民地」と言えるキューバで、なんで革命が成功したのか、僕はよく知らない。

 その時のカストロは、明確な共産主義者じゃなかったと言われる。アメリカも直ちに承認したが、訪米したカストロをアイゼンハワー政権は冷遇した。その後、次第に反米路線になっていくと言われるが、革命後にアメリカ資産を国有化することは当然だし、避けられなかった。そして、アイゼンハワー政権もそれを黙認するわけにはいかなかった。だから、いずれにせよ、米国との対立は避けがたかったと思う。のちに完全に「親ソ路線」となっていくのは、様々な理由やきっかけがあったんだろう。でも、68年のソ連によるチェコスロバキア侵攻を支持したり、70年代後半にアフリカのアンゴラに派兵したりしたのは、やはり間違っていたと思う。

 革命後のキューバ経済は、ソ連に市場価格より高い価格で砂糖を買ってもらうことで成り立っていた。だから、ソ連が市場価格での取引を求め、その後91年には崩壊してしまったら、キューバは持たないはずである。多くのソ連圏の国々は、一党独裁を放棄し、事実上の資本主義化を行って、経済を立て直した。キューバ経済もかつてない停滞に落ち込み、国外脱出者が多くなった。土地の私有化信仰の自由(国民は基本的はカトリック)を認め、1998年にはローマ教皇がキューバを訪問した。

 そうやって経済的苦境を乗り切って、今もなお一党独裁体制を堅持しているんだから、カストロ兄弟には政治的能力があるんだろうと思う。フィデルには国民を魅了するカリスマ性が、ラウルには実務家的才能があるんだろう。それをどう評価するかは別にして。でも、レイナルド・アレナス原作を映画化した「夜になる前に」(2000)を見ると、キューバで同性愛者がいかに厳しい環境に置かれてきたか、キューバ政治犯の実情も伝わってくる。人権上の問題はやはり否定できないけど、アメリカ資本に飲み込まれない国づくりを半世紀以上継続してきたということはすごいと思う。僕の評価はアンビヴァレント(二律背反)的なものになってしまう。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする