尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

2016年アメリカ下院選挙の結果

2016年11月09日 23時18分11秒 |  〃  (国際問題)
 アメリカ大統領選挙が終わり、ドナルド・トランプが勝利した。現地のメディアも「大番狂わせ」と表現しているらしい。日本でアメリカの報道を見聞きしている限り、トランプは「接戦州」「スイング・ステート」(選挙ごとに民主、共和と揺れ動く州)をすべて取らないと厳しいという話だった。だけど、結果を見るとクリントン陣営の「防火壁」と呼ばれていたニューハンプシャー州でもトランプが僅差ながら(0.1%)リードしている(その後、クリントンが僅差で逆転した。)大統領選については、まだ最終結果が確定していないので、もう少し後にしたい。

 大統領選挙の時は、同時に下院選挙上院選挙(100人のうち3分の1)、一部の知事選、住民投票などが一斉に行われる。下院議員は任期が2年と短くて、次は2018年。大統領任期の半ばにあるから「中間選挙」と呼ぶ。大統領がどっちになろうが、議会で多数を持ってないなら、今後の政策遂行が難しくなる。では、その結果はどうなっただろうか。

 アメリカの選挙に関しては、僕はニューヨークタイムズホームページを見ることが多い。トップページにある合衆国の色分け地図をクリックすると、大統領選挙の各州の結果を見られる。日本ではトランプかクリントンかしか報じられないが、第3党の「リバタリアン党」はどのくらい得票しているのだろうか。それもここで知ることができる。(大体、3~7%程度を取っている。)

 そのページには大きく、「TRUMP TRIUMPHS 」と大見出しがあるが、その右下にある小さな「Senate」を見ると上院議員選挙の結果が判る。51対47(未定2、非改選を含めた数字)で共和党の過半数が続く。今回は民主が過半数を取り戻す可能性もあると言われていたが、それはならなかった。それでも選挙前より1議席増えている。(上院議員は100人で任期6年。50州から2人ずつ選出され、2年ごとに3分の1ずつ改選される。だから、今回も上院選がなかった州が16州ある。)

 上院の下の「House」をクリックすると、下院議員選挙の結果が判る。「239対193」で共和党が過半数を維持している。定数(議決権を持つ議員)は435人なので、3人が未定である。(過半数は218)下院(かいん)と呼んでいるが、英語では「United States House of Representatives」で「合衆国代議員」になるが、普通は下院と呼んでいる。英語では「The House」ということになる。

 ところでNYタイムズの選挙結果地図を見ると、圧倒的に共和党地域が多いことが判る。シンボルカラーの赤になっている地帯が多い。議席が多いというだけでなく、人口が少ない地域で共和党が圧勝していることで、「面積比」では共和党地域が大きくなる。モンタナ、ワイオミング、ノースダコタ、サウスダコタなど全州で1議席の州があり、全部共和党だからアメリカ地図のど真ん中は真っ赤である。

 実は1994年(ビル・クリントン大統領一期目の中間選挙)以来、20年以上ずっと共和党が過半数を取っている。(2008年のオバマ当選時の下院選を除く。)そして、それは今後も続くと見なければならない。今回も共和党過半数は事前に確実になっていた。オバマ大統領が「チェンジ」を唱えて大統領選挙に勝った時だけ、上下両院で民主が主導権を握っていて、「オバマケア」を成立させた。しかし、その後の中間選挙以後はオバマ政権は「ねじれ」議会になすすべがなかった。だから、オバマ大統領は内政面では思ったような施策が不可能になったのである。その「アメリカ版ねじれ」は今回解消された。

 なんで、共和党優勢が続いているのか。大統領選挙では民主が勝った時もあるし、毎回ほぼ民主、共和が拮抗しているんだから、もう少し違った結果になっても良さそうである。というか、逆に言えばなんでそれまでは民主党が過半数を取っていたのか? 現時点では、移民問題、銃規制、同性婚など、民主党の方がリベラルという印象があるだろう。昔のアメリカ人の方がリベラルだったのか? そうではなく、実は南部で「保守的民主党支持者」がいっぱいいたのである。
 
 そもそもリンカーンは共和党なんだから、南部の白人は反共和党だったのである。政策的にも、北部商工業者を代表する共和党に対して、農業重視の民主党の方が近かった。大恐慌時代のフランクリン・ルーズヴェルト大統領時代には「ニューディール連合」といわれる民主党の基盤が形成された。組織労働者、ブルーカラー労働者、マイノリティ、南部白人(農場経営者)、知識人といった、今見ると利害が相反しそうな人々が、「ニューディール政策支持」ということで民主党の支持基盤になったのである。

 その連合は、ベトナム戦争を通して崩壊してゆき、レーガン時代に完全に切り崩されてゆく。南部の保守的白人は共和党に入れるもんだという、現在の通念はこのとき以後に形成されたものである。長年当選してきた有力議員が個人票を持っていたから、なかなか共和党の過半数はならなかったけれど、ついに1994年に過半数を取ったわけである。そして、それは今後も続くと言われる。

 今、アメリカの人口は3億1千万ほどで、7割ほどが白人系とされている。しかし、その割合は漸減していて、やがてヒスパニック系が増え、2050年には白人は5割を割ると予測されている。(ヒスパニックはカトリックだから、基本的には避妊も認めなくて子だくさんが多い。)だけど、アメリカの場合は「有権者登録」をしないと投票できないので、若くて、貧しくて、社会に統合されていない人々の投票率はどうしても低くなる。つまり、有権者比では人口比よりも白人比率が高くなるのである。

 そのうえ、社会の分断が進み、同じような階層の人々が近くに住むことが多くなる。白人富裕層は自分たちの町を作って住み、都市の中心部は貧しいマイノリティが集住する。そういった傾向が進んできたわけである。アメリカの選挙は、完全な小選挙区一本なので、ある程度散らばって住む共和党支持層が勝ちやすい。民主党が強い地域では、圧倒的に民主が勝つ。でも、それ以外の地区では、一票でも多い方が勝ちだからマイノリティ票は勝てない。そういった「それ以外の地区」の方が全米規模では多いということである。今回を見ると、長年の支持基盤の組織労働者も民主を離れた可能性もある。

 今後もしばらくは、大統領は交互、接戦になるだろうが、下院は共和党優位になることを前提にしておかないと、アメリカ政治は理解できない。残念ながら、それが現実である。この現実は、ある意味日本の現状と似ている。「小選挙区」はこうなるということである。もっとも、アメリカの場合、今の共和党議員=トランプ支持ではないだろう。共和党内がどうなっていくは、今後注目していかないといけない。
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