米大統領選のデータは大体見たので、その意味を考えてみたい。書いていて思ったけど、僕はやっぱりデータを調べているのが好きだと思う。そうじゃなきゃ、あんなに書かないし。もっとも票の出方だけではよく判らない点が多い。いずれにせよ、今回は両候補とも6千万票を獲得した。リバタリアン党の得票も相当伸びたけど、それでも「二大政党」なのである。
というか、「アンチ」が過熱して、反対票を入れにいったということかもしれない。カリフォルニアの得票で見たように、結果がほぼ見えている州では、棄権も増加していた。もし、全米での得票総数で決まる選挙だったら、もっと多くの人が投票したのは確実だろう。
今回は僕もクリントン優勢かと踏んでいた。現地の様子はマスコミでしか判らない。マスコミ報道では、事前の調査結果に基づき、クリントン優勢の州が過半数近いという話だった。「接戦州を全部取る」のが「トランプ勝利に必要」だということだった。それ自体は確かに間違いではなかった。「クリントンが過半数を押さえた」という報道ではなかった。そして、現実に「トランプが接戦州をほとんど押さえる」ということが起こったのである。
そういう情勢報道もあるけど、もう一つ大事なことがあった。それは現職のオバマ大統領の支持率が5割を超え、経済指標も決して悪くないということである。ブッシュ政権末期の「リーマンショック」から政権を引き継ぎ、オバマ政権を通してアメリカ経済は着実に回復基調にあるとされる。もちろん、「アベノミクス」によく言われるように、日本でもアメリカでも「景気回復の恩恵に浴さない」層がたくさんいるだろう。それでも、こういう時は「とりあえず現職の後継者を選ぼう」という意識が働くのではと思った。
トランプのセクハラ問題などがあり、一時は支持率に相当の差がついた時期があった。その後、クリントンのいわゆる「メール問題」が再燃し、支持率の差が急速に縮まった。今回は「期日前投票が4割」と言われるから、ちょうど期日前投票に一番人が行く時期に、トランプの「支持率急増」がぶつかった可能性が高い。そう考えると、今回は「奇跡の逆転」ということになり、FBIの対応が選挙のカギになったことになる。だけど、そうではないという見方も強い。
もともと「隠れトランプ票」というのがあり、各マスコミの支持率調査の数字そのものに誤りがあったという理解である。そうなると、「クリントン有利」とされた時期も、実は「両候補伯仲」が実際の情勢だったということになる。そんなことがあるのだろうか。東京新聞でトランプ有利説を打ち出していたコラムニストの木村太郎氏は、「隠れトランプ票」は存在し、約3%程度だと述べている。そうなると、ペンシルバニアやフロリダなどの接戦州の結果は「隠れトランプ票」が決めたということになる。
このような「マスコミ調査に答えない支持者」というのは日本にもいるとされている。だから、各新聞社などは今までの調査と実際の選挙結果を見て、独自の調整係数のようなものを作っているらしい。特に昔は共産党や公明党の支持者は隠れていると言われていた。まあ、今は公明と自民の選挙協力も長くなったし、共産党も他党と選挙協力する時代だから、前ほどは隠さないかもしれないが。それでも、日本の職場環境では、「思想」や「宗教」はあまり人前では語れないことではないか。
アメリカでは、マスコミや芸能人でも党派的な支持を公然と打ち出すのが普通である。「自分の意見を言わない」という方がおかしく見られるのだろう。でも、一般庶民はそうでもない。特に誰にも意見を聞かれない普通の人は、周りに合わせたふりをして、実は反対党に入れるということになる。「隠れトランプ」はトランプが移民排斥、セクハラ疑惑などで、人種差別主義者、性差別主義者と激しく非難されたときに、特に多くなったのだろう。だから、「隠れトランプ」は「反移民」だったり「反女性大統領」である可能性が高いだろう。(反対に農村部に住む同性愛者など、「隠れ民主党」もいるだろう。)
だけど、接戦と言われたオハイオやウィスコンシンなどは相当に差がついていて、「隠れトランプ票」だけでは説明できない。そこで言われるのは、「白人中産階級の反エスタブリッシュメント反乱説」である。オバマ政権の進めるTPPなど自由貿易志向は、アメリカの中産階級を没落させると恐れを抱いて、政界の異端児トランプの「ホンネ」に希望を託したというのである。これは一定の説得力はある。でも、そういう理由なら隠れている必要もなく、事前調査にもっと反映されてもいいのではないか。
それぞれの州の独自の政治風土があり、一律には語りにくい。ウィスコンシンはここ何回かは大統領選では民主が勝っているが、知事はしばらく共和党強硬派である。下院議長ポール・ライアンの地元で、ライアンはトランプを批判していたが、傾向としては共和党に支持が傾きつつあるのかもしれない。そういう事情を各州ごとに詳しく調べてみないと、なんとも言えないところがある。
ここしばらく、現職が2期務めて、その後反対党に政権が渡るということが続いている。クリントン、ブッシュ、オバマという具合。1期目の現職は「現職の強み」がある。もう一期はやらせてみるかとなる。政策の継続性の訴えが効く。しかし、アメリカを取り巻く情勢は厳しく、経済も外交も完全にうまく行くことは考えられない。そうすると、現職大統領の任期8年(憲法で規定されている)が終わると、有権者はそれまでの失敗をずべて与党に負わせて、反対党をリーダーに選ぶという「法則」かもしれない。
「白人中産階級反乱説」に立つと、民主党はヒラリー・クリントンではなく、バーニー・サンダースを選んでいたら勝利の可能性が高かったのではないかという人もいる。それはどうなんだろうか。「隠れトランプ」票があるという政治風土で、明確に「より左」のサンダースを立てていたら、南部、中西部ではもっと大差で敗れていただろう。カリフォルニアやニューヨークは勝てるかもしれないが、では今回サンダースだったら共和党から奪えたと思える州はどこなんだろう。オハイオやペンシルバニアはそうだと言うかもしれないが、やはり選挙人の過半数は見通せないのではないか。
ぼくはそれより「PC疲れ」票もあるのではないかと考えている。PCというのは、パソコンではなく、「ポリティカル・コレクトネス(政治的に正しい言動)」のことである。「クリスマス」はキリスト教行事だから、政治的には「シーズンズ・グリーティング」と言わなければならない、とか。オバマ政権は大統領自身が有色人種なんだから、「理想主義」的であり、「平等主義」的な言動が多くなる。いや、オバマ支持者からすれば、バラク・オバマは政治的に妥協しすぎる現実主義者だと非難され続けたが、共和党支持者から見れば「タテマエ重視」の8年間に耐えてきたのである。
前回2012年は、オバマの2期目である上に、対立候補のロムニーがモルモン教徒だった。正統的な白人優先主義者的な世界観からすれば、ある意味オバマ以上に異端とも言える存在だった。ところが、今回オバマの後継者がヒラリー・クリントンである。まあ、「ぶっちゃけトーク」するならば、「黒人の次に女かよ」という人々も一定程度いたはずである。民主党がそう来るならば、穏健な共和党候補なんかいらない。過激に「ホンネ」を言いまくるトランプが共和党候補になったのは、逆に考えると民主党の候補がヒラリー・クリントンになりそうだという情勢があったからではないか。
こういう情勢を今になって考えてみると、僕はヒラリー・クリントン陣営は選挙戦略を間違えたということが大きいと思い。つまり、情勢有利と見て、「逃げ切り」を図り、仲間内の票固めに集中してしまった。オバマ政権の後継を打ち出さざるを得ないから、「攻めの経済政策」を打ち出せなかった。トランプが候補者としての的確性にあまりにも欠けていたから、テレビ討論も大統領の資質問題に集中してしまった。テレビ討論では勝利したはずだが、「隠れトランプ層」には逆にタテマエ重視のクリントンへの反発を増すだけだったろう。最終盤には、マドンナとかレディ・ガガとかビヨンセとかが出てきて女性に訴えていたが、女性票はもともとクリントン有利なので、かえって保守的男性票を逃すだけだったに違いない。
ところで、テレビ番組で「ラストベルト」(Rust Belt=「さびついた工業地帯」)の白人男性労働者の嘆きを取り上げていたのを見た。ブッシュでもオバマでもダメで、保護主義のホンネを語るトランプに賭けてみたいという気持ちは判らないではない。でも、見ていると明らかに「肥満」という感じの人が多い。アメリカ人の肥満がずいぶん前から問題になっているが、男女ともにずいぶん太っている人が多いように思った。仕事ももちろん大事だが、オバマケアが改悪されてしまったらもっと困るんじゃないのと他人事ながら思ってしまった。(オバマケアはそれ自体としてはずいぶん妥協して作られたものだと思うが、トランプが改悪するのは間違いない。)
というか、「アンチ」が過熱して、反対票を入れにいったということかもしれない。カリフォルニアの得票で見たように、結果がほぼ見えている州では、棄権も増加していた。もし、全米での得票総数で決まる選挙だったら、もっと多くの人が投票したのは確実だろう。
今回は僕もクリントン優勢かと踏んでいた。現地の様子はマスコミでしか判らない。マスコミ報道では、事前の調査結果に基づき、クリントン優勢の州が過半数近いという話だった。「接戦州を全部取る」のが「トランプ勝利に必要」だということだった。それ自体は確かに間違いではなかった。「クリントンが過半数を押さえた」という報道ではなかった。そして、現実に「トランプが接戦州をほとんど押さえる」ということが起こったのである。
そういう情勢報道もあるけど、もう一つ大事なことがあった。それは現職のオバマ大統領の支持率が5割を超え、経済指標も決して悪くないということである。ブッシュ政権末期の「リーマンショック」から政権を引き継ぎ、オバマ政権を通してアメリカ経済は着実に回復基調にあるとされる。もちろん、「アベノミクス」によく言われるように、日本でもアメリカでも「景気回復の恩恵に浴さない」層がたくさんいるだろう。それでも、こういう時は「とりあえず現職の後継者を選ぼう」という意識が働くのではと思った。
トランプのセクハラ問題などがあり、一時は支持率に相当の差がついた時期があった。その後、クリントンのいわゆる「メール問題」が再燃し、支持率の差が急速に縮まった。今回は「期日前投票が4割」と言われるから、ちょうど期日前投票に一番人が行く時期に、トランプの「支持率急増」がぶつかった可能性が高い。そう考えると、今回は「奇跡の逆転」ということになり、FBIの対応が選挙のカギになったことになる。だけど、そうではないという見方も強い。
もともと「隠れトランプ票」というのがあり、各マスコミの支持率調査の数字そのものに誤りがあったという理解である。そうなると、「クリントン有利」とされた時期も、実は「両候補伯仲」が実際の情勢だったということになる。そんなことがあるのだろうか。東京新聞でトランプ有利説を打ち出していたコラムニストの木村太郎氏は、「隠れトランプ票」は存在し、約3%程度だと述べている。そうなると、ペンシルバニアやフロリダなどの接戦州の結果は「隠れトランプ票」が決めたということになる。
このような「マスコミ調査に答えない支持者」というのは日本にもいるとされている。だから、各新聞社などは今までの調査と実際の選挙結果を見て、独自の調整係数のようなものを作っているらしい。特に昔は共産党や公明党の支持者は隠れていると言われていた。まあ、今は公明と自民の選挙協力も長くなったし、共産党も他党と選挙協力する時代だから、前ほどは隠さないかもしれないが。それでも、日本の職場環境では、「思想」や「宗教」はあまり人前では語れないことではないか。
アメリカでは、マスコミや芸能人でも党派的な支持を公然と打ち出すのが普通である。「自分の意見を言わない」という方がおかしく見られるのだろう。でも、一般庶民はそうでもない。特に誰にも意見を聞かれない普通の人は、周りに合わせたふりをして、実は反対党に入れるということになる。「隠れトランプ」はトランプが移民排斥、セクハラ疑惑などで、人種差別主義者、性差別主義者と激しく非難されたときに、特に多くなったのだろう。だから、「隠れトランプ」は「反移民」だったり「反女性大統領」である可能性が高いだろう。(反対に農村部に住む同性愛者など、「隠れ民主党」もいるだろう。)
だけど、接戦と言われたオハイオやウィスコンシンなどは相当に差がついていて、「隠れトランプ票」だけでは説明できない。そこで言われるのは、「白人中産階級の反エスタブリッシュメント反乱説」である。オバマ政権の進めるTPPなど自由貿易志向は、アメリカの中産階級を没落させると恐れを抱いて、政界の異端児トランプの「ホンネ」に希望を託したというのである。これは一定の説得力はある。でも、そういう理由なら隠れている必要もなく、事前調査にもっと反映されてもいいのではないか。
それぞれの州の独自の政治風土があり、一律には語りにくい。ウィスコンシンはここ何回かは大統領選では民主が勝っているが、知事はしばらく共和党強硬派である。下院議長ポール・ライアンの地元で、ライアンはトランプを批判していたが、傾向としては共和党に支持が傾きつつあるのかもしれない。そういう事情を各州ごとに詳しく調べてみないと、なんとも言えないところがある。
ここしばらく、現職が2期務めて、その後反対党に政権が渡るということが続いている。クリントン、ブッシュ、オバマという具合。1期目の現職は「現職の強み」がある。もう一期はやらせてみるかとなる。政策の継続性の訴えが効く。しかし、アメリカを取り巻く情勢は厳しく、経済も外交も完全にうまく行くことは考えられない。そうすると、現職大統領の任期8年(憲法で規定されている)が終わると、有権者はそれまでの失敗をずべて与党に負わせて、反対党をリーダーに選ぶという「法則」かもしれない。
「白人中産階級反乱説」に立つと、民主党はヒラリー・クリントンではなく、バーニー・サンダースを選んでいたら勝利の可能性が高かったのではないかという人もいる。それはどうなんだろうか。「隠れトランプ」票があるという政治風土で、明確に「より左」のサンダースを立てていたら、南部、中西部ではもっと大差で敗れていただろう。カリフォルニアやニューヨークは勝てるかもしれないが、では今回サンダースだったら共和党から奪えたと思える州はどこなんだろう。オハイオやペンシルバニアはそうだと言うかもしれないが、やはり選挙人の過半数は見通せないのではないか。
ぼくはそれより「PC疲れ」票もあるのではないかと考えている。PCというのは、パソコンではなく、「ポリティカル・コレクトネス(政治的に正しい言動)」のことである。「クリスマス」はキリスト教行事だから、政治的には「シーズンズ・グリーティング」と言わなければならない、とか。オバマ政権は大統領自身が有色人種なんだから、「理想主義」的であり、「平等主義」的な言動が多くなる。いや、オバマ支持者からすれば、バラク・オバマは政治的に妥協しすぎる現実主義者だと非難され続けたが、共和党支持者から見れば「タテマエ重視」の8年間に耐えてきたのである。
前回2012年は、オバマの2期目である上に、対立候補のロムニーがモルモン教徒だった。正統的な白人優先主義者的な世界観からすれば、ある意味オバマ以上に異端とも言える存在だった。ところが、今回オバマの後継者がヒラリー・クリントンである。まあ、「ぶっちゃけトーク」するならば、「黒人の次に女かよ」という人々も一定程度いたはずである。民主党がそう来るならば、穏健な共和党候補なんかいらない。過激に「ホンネ」を言いまくるトランプが共和党候補になったのは、逆に考えると民主党の候補がヒラリー・クリントンになりそうだという情勢があったからではないか。
こういう情勢を今になって考えてみると、僕はヒラリー・クリントン陣営は選挙戦略を間違えたということが大きいと思い。つまり、情勢有利と見て、「逃げ切り」を図り、仲間内の票固めに集中してしまった。オバマ政権の後継を打ち出さざるを得ないから、「攻めの経済政策」を打ち出せなかった。トランプが候補者としての的確性にあまりにも欠けていたから、テレビ討論も大統領の資質問題に集中してしまった。テレビ討論では勝利したはずだが、「隠れトランプ層」には逆にタテマエ重視のクリントンへの反発を増すだけだったろう。最終盤には、マドンナとかレディ・ガガとかビヨンセとかが出てきて女性に訴えていたが、女性票はもともとクリントン有利なので、かえって保守的男性票を逃すだけだったに違いない。
ところで、テレビ番組で「ラストベルト」(Rust Belt=「さびついた工業地帯」)の白人男性労働者の嘆きを取り上げていたのを見た。ブッシュでもオバマでもダメで、保護主義のホンネを語るトランプに賭けてみたいという気持ちは判らないではない。でも、見ていると明らかに「肥満」という感じの人が多い。アメリカ人の肥満がずいぶん前から問題になっているが、男女ともにずいぶん太っている人が多いように思った。仕事ももちろん大事だが、オバマケアが改悪されてしまったらもっと困るんじゃないのと他人事ながら思ってしまった。(オバマケアはそれ自体としてはずいぶん妥協して作られたものだと思うが、トランプが改悪するのは間違いない。)