ちょっと一日休もうかと思ったんだけど、今日見た日本映画「湯を沸かすほどの熱い愛」が素晴らしかったので、紹介。宮沢りえがものすごく良くて、今年一番「勇気をもらえる」映画(こういう表現は嫌いだけど、あえて)になっている。中野量太(1973~)監督の商業映画デビュー作で、とても面白い自作のオリジナル脚本を映画化したもの。監督の名前は知らないと思うけど、ぜひ記憶しておきたい。
題名がなんかトンデモっぽいけど、この名前になる理由は最後の最後に判る。地方都市の銭湯、幸の湯。旦那(オダギリ ジョー)は一年前に家出して行方不明。妻・双葉(宮沢りえ)は風呂屋を閉めて、パン屋のパートで家計を支えている。娘・安澄(杉咲花=とても魅力的)は学校でいじめられている。そんな日々の様子がテキパキと描写されていくが、その演出や編集のリズムが素晴らしい。映画世界にあっという間に飲み込まれる。大した力量である。
ところが、双葉は体調不良で倒れてしまう。検査すると、もう末期ガンで余命僅かという。(これはちょっと作り過ぎの設定だろうが、これなくてはドラマが成立しないから、見ているときに違和感はない。)双葉には生きている間にやらなければいけないことがいっぱいあった。まず、探偵に依頼して、夫を探す。すぐに見つかったが、他の女との間にできた女の子と一緒にいる。二人とも引き取り、銭湯を再開する。子どもたちに熱く語りかけ、「新しい家族」を作り上げていく。
ラスト近く、双葉は二人の子を連れてドライブに出かける。途中で出会ったヒッチハイクの青年(松坂桃李)に対しても、生き方を示していく。それにしても、重い病を抱えながら、なんでけっこう長いドライブ旅行に娘を連れて行くのか。それはここでは書かないけど、双葉には大きな背負っていたものがいくつもあったのだ。そして、生きたいという強い思いを抱きながら、今生でやらなければならないことをやりきろうとしている。登場人物たちも「すごい人」と呼んでいる双葉の姿は、見る者の心に深く響く。
何と言っても素晴らしいのは、主演の宮沢りえ。演技力を超えた、熱い思いで登場人物たちの人生を変えていってしまう。舞台やテレビでも活躍し、映画でも昔の「たそがれ清兵衛」「父と暮らせば」、最近だったら「紙の月」などがすぐに思い浮かぶが、今後はまずこの映画が思い浮かぶことになると思う。そのぐらいの存在感で、見る者の心を動かす。
最初は学校に行きたがらず、不登校寸前に見えた安澄が、途中から自ら「戦う」ことに踏み出していく。それもこれも、双葉の存在があってのこと。「勝負下着」の場面は、学校映画史上に残るすごい名場面だと思う。また、道で困っていた人の手話を手助けするシーンがある。何となく見ていると、実はこれが大変な伏線だった。真相を知ってみると、感動という言葉では済まない人生の重さに圧倒される。そんな強い双葉にも、それまで生きてきた人生の謎があったのだ。そこで最近亡くなったりりィが、ほんのチョイ役だけど出ていて、人生のむずかしさを示している。これが遺作。
撮ってる町はどこかなあと思ってみていると、途中で「とちぎ」ナンバーの車が出てくる。何となく山の様子なんかから足利かなあと思うと、やっぱり町の部分のロケは足利だった。足利市のサイトにロケ地情報が出ている。ただし、物語の肝心かなめの銭湯は、内部は東京都文京区目白台にあった「月の湯」が使われた。2015年5月に営業を停止して、その後の期間に撮影され、現在はもう解体されてしまった。銭湯の外見は足利市にある「花乃湯」が使われたという。カニを食べに行くシーンは西伊豆の戸田(へた)港だという話。
脚本・監督の中野量太という人は、去年「チチを撮りに」という自主製作した長編が評判を呼んだ。僕は見てないけど、名画座でも上映してたから名前は知ってる。日本映画学校卒業後、映画やテレビで仕事しながら、自主製作で短編映画をたくさん作ってきたという。最近は新しい才能がどんどん出てきて、追いかけるのが大変なぐらい。奇をてらうような作りは全くなくって、ウェルメイドな映画の楽しさを堪能できる。と思うと、ラストにアッと驚く「奇想」が出てくる。これがやりたかったのか。相当の才能である。確実に人生の宝物になる映画。
題名がなんかトンデモっぽいけど、この名前になる理由は最後の最後に判る。地方都市の銭湯、幸の湯。旦那(オダギリ ジョー)は一年前に家出して行方不明。妻・双葉(宮沢りえ)は風呂屋を閉めて、パン屋のパートで家計を支えている。娘・安澄(杉咲花=とても魅力的)は学校でいじめられている。そんな日々の様子がテキパキと描写されていくが、その演出や編集のリズムが素晴らしい。映画世界にあっという間に飲み込まれる。大した力量である。
ところが、双葉は体調不良で倒れてしまう。検査すると、もう末期ガンで余命僅かという。(これはちょっと作り過ぎの設定だろうが、これなくてはドラマが成立しないから、見ているときに違和感はない。)双葉には生きている間にやらなければいけないことがいっぱいあった。まず、探偵に依頼して、夫を探す。すぐに見つかったが、他の女との間にできた女の子と一緒にいる。二人とも引き取り、銭湯を再開する。子どもたちに熱く語りかけ、「新しい家族」を作り上げていく。
ラスト近く、双葉は二人の子を連れてドライブに出かける。途中で出会ったヒッチハイクの青年(松坂桃李)に対しても、生き方を示していく。それにしても、重い病を抱えながら、なんでけっこう長いドライブ旅行に娘を連れて行くのか。それはここでは書かないけど、双葉には大きな背負っていたものがいくつもあったのだ。そして、生きたいという強い思いを抱きながら、今生でやらなければならないことをやりきろうとしている。登場人物たちも「すごい人」と呼んでいる双葉の姿は、見る者の心に深く響く。
何と言っても素晴らしいのは、主演の宮沢りえ。演技力を超えた、熱い思いで登場人物たちの人生を変えていってしまう。舞台やテレビでも活躍し、映画でも昔の「たそがれ清兵衛」「父と暮らせば」、最近だったら「紙の月」などがすぐに思い浮かぶが、今後はまずこの映画が思い浮かぶことになると思う。そのぐらいの存在感で、見る者の心を動かす。
最初は学校に行きたがらず、不登校寸前に見えた安澄が、途中から自ら「戦う」ことに踏み出していく。それもこれも、双葉の存在があってのこと。「勝負下着」の場面は、学校映画史上に残るすごい名場面だと思う。また、道で困っていた人の手話を手助けするシーンがある。何となく見ていると、実はこれが大変な伏線だった。真相を知ってみると、感動という言葉では済まない人生の重さに圧倒される。そんな強い双葉にも、それまで生きてきた人生の謎があったのだ。そこで最近亡くなったりりィが、ほんのチョイ役だけど出ていて、人生のむずかしさを示している。これが遺作。
撮ってる町はどこかなあと思ってみていると、途中で「とちぎ」ナンバーの車が出てくる。何となく山の様子なんかから足利かなあと思うと、やっぱり町の部分のロケは足利だった。足利市のサイトにロケ地情報が出ている。ただし、物語の肝心かなめの銭湯は、内部は東京都文京区目白台にあった「月の湯」が使われた。2015年5月に営業を停止して、その後の期間に撮影され、現在はもう解体されてしまった。銭湯の外見は足利市にある「花乃湯」が使われたという。カニを食べに行くシーンは西伊豆の戸田(へた)港だという話。
脚本・監督の中野量太という人は、去年「チチを撮りに」という自主製作した長編が評判を呼んだ。僕は見てないけど、名画座でも上映してたから名前は知ってる。日本映画学校卒業後、映画やテレビで仕事しながら、自主製作で短編映画をたくさん作ってきたという。最近は新しい才能がどんどん出てきて、追いかけるのが大変なぐらい。奇をてらうような作りは全くなくって、ウェルメイドな映画の楽しさを堪能できる。と思うと、ラストにアッと驚く「奇想」が出てくる。これがやりたかったのか。相当の才能である。確実に人生の宝物になる映画。