尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「何者」をどう見るか

2016年11月07日 23時09分52秒 | 映画 (新作日本映画)
 朝井リョウの直木賞受賞作品「何者」が、東宝映画、三浦大輔監督・脚本で映画化されて公開されている。この映画「何者」をどう見るか。好きに見ればいいんだけど、映画(原作)の設定はつい中身を論じたくなっちゃう。また、若手人気俳優がズラッと出ているので、それを見に行くのもいい。

 だけど、映画自体のつくり、映画としての完成度はどうなんだろうか。近場のシネコンで見たんだけど、観客はほとんど大学生ぐらいの人だった。カップルも多く、終わった後に「誰は〇〇タイプ」「いや、佐藤健かも」などと言い合っていた。拍手してる人が一人いたけど、そこまで行かなくても大体は満足そうだった。中学生らしき集団が一部で「わかんない」と言ってたけど。(「シン・ゴジラ」では連れてこられた子供が泣いていた。「君の名は。」では小学生たちが「どうなってんの?」とブツブツ言っていた。)

 僕は三浦大輔監督の演出力は、なかなか大したもんだと思った。特にマンションのセットが、舞台上に作られている場面。演劇出身の監督っぽいが、設定のすべてを相対化する視点を示して興味深かった。三浦大輔(1975~)は早稲田大学で劇団「ポツドール」を結成し、2006年に「愛の渦」で岸田國士賞受賞。商業映画としては「ボーイズ・オン・ザ・ラン」(2010)、「愛の渦」(2014)に続く3作目。

 「愛の渦」は見たけど、話がいやになってしまった。大根仁監督「恋の渦」の原作も三浦だが、同じく「いや系」の話。今回の「何者」も、実は同じような「いやな話」である。冷え冷えとした人間観照が全編を貫いている。でも、話そのものは原作に負っている。読んでるので展開が予想できるので、いや感が薄れる。そうしてみると、若い人気俳優をうまく演出して、どこにも破綻がない。よく出来ている。

 俳優に関しては、それぞれの役どころを違和感なく演じ切っている。役名は省略するが、佐藤健(たける)の風貌や雰囲気は原作から思い描くままではなかろうか。菅田将暉(すだ・まさき)は、昔のスターシステム時代のように出ずっぱり。(いま公開中の映画だけでも、「溺れるナイフ」と「デスノート」。今年で何本目か。)ここでは歌いまくって絶好調。一方、二階堂ふみは相変わらずうまくて、今回は珍しく優等生役だけどそつなく演じている(と僕は思うけど。)案外難役だと思うのが、有村架純。何気ない演技力をうまく発揮している。そこに岡田将生(まさき)が絡んでくる。みな現実の大学生に見えてくる。

 さて、この後は中身の話。原作に関しては、前に「『横道世之介』と『何者』」(2013.3.17)を書いた。書き落としがある気がして、翌日に「何者2」を書いた。前者はちょうど吉田修一「横道世之介」を読んだので、合わせて感想を書いている。比べると、数十年の間に「日本の青春」がガラッと変わったことがよく判る。それはいいことなのか。インターネットや携帯電話が普及して、一体若者は幸福になったのか、不幸になったのか。まあ、そういうことを考えてしまうわけである。

 小説に関しては、一種の叙述トリックがあって、最後の方でなるほどと思う展開になる。登場人物が「イタイ」感じで傷つけあうが、「シュウカツ」「ツイッター」という「装置」を生かして、いかにも現代の青春像である。何事か語りたくなる。年長世代だと、「これがイマドキのシュウカツってやつか」と慨嘆(感心?)しつつ見る人が多いだろう。大変な時代になっちまったもんだと同情半分、批判半分で「上から目線」で見てしまう。「昔はこんなじゃなかったんだよ」と語りたくなってしまう。

 でも、大体の展開が判って見たせいか、これは「世代を超えた人間の本質」だと思った。いつの時代にも、皮肉な観察屋もいれば、優等生の頑張り屋もいる。家庭を背負っている人もいれば、天然で生きている人もいる。同じなんだと思う。ただ、昔はもちろんツイッターはなかった。なかったから、瞬間的に反応することはできなかった。日記かなんかにブツブツ書いてただけである。でも、今だって「つまらない」「くだらない」以上の反応をすぐにまとめて発信する人は少ないだろう。「才能」が必要だから。

 物語の世界に没入していると、「物語の設定」そのものには関心が向きにくい。物語(小説、演劇、映画、マンガ等)には、仕掛けがあって初めて存在できる。「何者」では「シュウカツ」の怒涛の展開に付き合ってしまうけど、彼らにはそれまでの大学生活があるし、大学以外の世界もある。「プリンターが壊れてる」から、たまたま1階上の女子部屋を「就活対策本部」にするというと、盛り上がって納得してしまう。けど、パソコン本体じゃなくて、プリンターだけ壊れてるってありか? バイトしてるんだから、安いプリンター買えるだろ。いや、買うべきだよね。そこら辺から始まって、実際にはけっこう変である。

 5人いて、全員が東京で民間企業ばかりというのも、ある意味おかしくないか。地元に帰って公務員試験受ける人はいないのか。大学院に進む人はいないのか。僕は佐藤健演じる青年の観察力は、ある種「研究者向き」ではないかと思う。若い時期はみな恥ずかしい間違いを繰り返す。この小説、映画の登場人物は、皆まっとうに生きているではないか。企業に入って、長時間労働などで苦しんでいないだろうか…とつい思ってしまうわけである。
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