前回は「結婚式のメンバー」の話だけで終わってしまった。新訳のもう一冊、柴田元幸訳「僕の名はアラム」は、ウィリアム・サローヤンの作品。名前で判るんだけど、アルメニア人である。カリフォルニアに住んでいた少年時代の話。昔、「わが名はアラム」として読んだから、今回はまあいいかと思って買ってない。サローヤンは昔はずいぶん訳されていて、僕も何冊か持っている。
次からは復刊作品が6冊出ている。ラインナップが発表されてから、僕が一番期待していたのが、8月末発売の2冊。一つはジェームズ・ディッキーの「救い出される」である。昔「わが心の川」として翻訳が出たけど、文庫化は今度が初めて。映画「脱出」(1972、ジョン・ブアマン監督」の原作である。「脱出」という邦題の映画は、ヘミングウェイ「持つと持たぬと」の映画化作品(ハワード・ホークス監督)もあるわけだけど、今じゃそれをしのぐカルト映画として有名になっている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/0d/60/70276d48195125692a4d9b44252ecc39_s.jpg)
映画を数十年前に見た時から、原作を読みたいと思っていた。でも、文庫にならなかったし、読む機会がなかった。今度読んでみて、時間が経って読みにくいなあというのが実感。「弓術」って何だっていう感じで、多分「アーチェリー」のことだろうと思うわけ。主人公たちが「冒険旅行」に出かけるまでが長くて閉口した。アメリカ南部ジョージア州で広告会社を営む主人公は、友人に誘われて「カヌーイング」に行く。カヌーイングというのは、カヌーで川下りをすることだけど、この本が出た時代にはそういう言葉は日本ではなかったから使われてない。ダムができる前に、地図もない川に出かけるところが、もう無謀としか言いようがないけど、それが思わぬ悲劇的な展開につながっていく。
まあ、その次第を全部書いたら面白くないけど、巻末に村上・柴田の解説対談が付いていて、これが滅法面白い。自然描写の話などもなるほどと思ったけど、結局この物語は「ベトナム戦争の時代」なんだと言われて納得した。同じころに作られたペキンパーの映画「わらの犬」と似た部分があり、「人間の中に潜む暴力性の発見」なのである。また、コンラッドの「闇の奥」、それに基づく映画「地獄の黙示録」なんかにも似ていると言える。ずっしりと読みごたえがあるが、途中でカヌーがどんどん流れていくあたりから、読んでる方も勢いがついてきて止まらなくなる。
同じ時に、リング・ラードナー「アリバイ・アイク」も出た。この本も初文庫化。もともとスポーツ・コラムニストだった人で、自分の書いてるものが「文学」だと思ってなかったらしい。しかし、その饒舌体のユーモアが大評判になり、本にまとめられた。ホントの話なのかどうか、今となってはどうでもいいけど、大リーグの野球に材をとった表題作が笑わせる。しかし、だんだん読んでいくと、シリアスというか、それを超えたブラックユーモア、あるいはほとんどホラーに近い作品もある。たくさんあって、ちょっと飽きてくる感じもするが、この本はアメリカを知るためにも必須の本ではないか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/07/ea/cfe303f7cb521749e1f6eea3c3ed87d3_s.jpg)
これも解説対談が非常に面白く、ラードナーの位置づけがよく判る。マーク・トウェインもジャーナリストから「作家」になったわけだが、同じような経歴だという。ヘミングウェイやフィッツジェラルドら「ロスト・ジェネレーション」以前の作家として、「自我」に悩まずに爆笑トークを繰り広げる。面白いのは間違いない。なお、息子のリング・ラードナー・ジュニアは、脚本家として有名。ロバート・アルトマンが朝鮮戦争を題材に戦争をコケにした「M★A★S★H」の脚色でアカデミー賞を受賞している。
さて、野球を描いたアメリカ小説と言えば、フィリップ・ロス「素晴らしいアメリカ野球」が一番。僕はこの小説が集英社の世界文学全集から出た時に、すぐ読んだものだ。ムチャクチャとしか言えない話で、爆笑に次ぐ爆笑で読み終わった思い出がある。フィリップ・ロスは近年読んでいて、ここに記事を書いた。だから、これも読み直して記事を書こうかと思って、全集を持ち出してきたものだ。だけど、悲しいかな、もう字が小さくて、どうも取り組み元気が出ない。そうこうするうちに、今回新潮文庫で復刊された。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/6a/0a/f95d9d7fa29bdeac9d32d6877e37ae8d_s.jpg)
ああ、でも、ちょっと予想が外れたなあ。現在の僕の「PC」(政治的公正さ)感覚からすると、ちょっと笑えないジョークが多すぎないか。「愛国リーグ」なる第三のメジャーリーグをでっち上げ、架空球団の歴史を物語る手際は実に鮮やか。でも戦時中に手が足りない球団に属する選手たちの設定は、どうも今ではやり過ぎで面白くない。そんな気もしてしまったわけである。でも、読書好きなら一度は読んでおくべき名作(迷作)に違いない。
ところで、前回村上春樹、柴田元幸両氏の新訳本は11月末に出ると書いたけど、今日翻訳堂サイトを見たら、来年2月刊行と延びていた。まあ、翻訳とはそういうもんかと思うが。そういえば、本についてあまり書いてないと昨日述べたけど、映画や教育、政治などの記事に比べて、閲覧数がグッと落ちるんだということを忘れていた。求められてないことは少なくなるということなんだけど、まあブログ順位を競う気もないので、好きなことを書く方がいいなと思う。本の話を書いてる方が、自分では面白い。
次からは復刊作品が6冊出ている。ラインナップが発表されてから、僕が一番期待していたのが、8月末発売の2冊。一つはジェームズ・ディッキーの「救い出される」である。昔「わが心の川」として翻訳が出たけど、文庫化は今度が初めて。映画「脱出」(1972、ジョン・ブアマン監督」の原作である。「脱出」という邦題の映画は、ヘミングウェイ「持つと持たぬと」の映画化作品(ハワード・ホークス監督)もあるわけだけど、今じゃそれをしのぐカルト映画として有名になっている。
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映画を数十年前に見た時から、原作を読みたいと思っていた。でも、文庫にならなかったし、読む機会がなかった。今度読んでみて、時間が経って読みにくいなあというのが実感。「弓術」って何だっていう感じで、多分「アーチェリー」のことだろうと思うわけ。主人公たちが「冒険旅行」に出かけるまでが長くて閉口した。アメリカ南部ジョージア州で広告会社を営む主人公は、友人に誘われて「カヌーイング」に行く。カヌーイングというのは、カヌーで川下りをすることだけど、この本が出た時代にはそういう言葉は日本ではなかったから使われてない。ダムができる前に、地図もない川に出かけるところが、もう無謀としか言いようがないけど、それが思わぬ悲劇的な展開につながっていく。
まあ、その次第を全部書いたら面白くないけど、巻末に村上・柴田の解説対談が付いていて、これが滅法面白い。自然描写の話などもなるほどと思ったけど、結局この物語は「ベトナム戦争の時代」なんだと言われて納得した。同じころに作られたペキンパーの映画「わらの犬」と似た部分があり、「人間の中に潜む暴力性の発見」なのである。また、コンラッドの「闇の奥」、それに基づく映画「地獄の黙示録」なんかにも似ていると言える。ずっしりと読みごたえがあるが、途中でカヌーがどんどん流れていくあたりから、読んでる方も勢いがついてきて止まらなくなる。
同じ時に、リング・ラードナー「アリバイ・アイク」も出た。この本も初文庫化。もともとスポーツ・コラムニストだった人で、自分の書いてるものが「文学」だと思ってなかったらしい。しかし、その饒舌体のユーモアが大評判になり、本にまとめられた。ホントの話なのかどうか、今となってはどうでもいいけど、大リーグの野球に材をとった表題作が笑わせる。しかし、だんだん読んでいくと、シリアスというか、それを超えたブラックユーモア、あるいはほとんどホラーに近い作品もある。たくさんあって、ちょっと飽きてくる感じもするが、この本はアメリカを知るためにも必須の本ではないか。
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これも解説対談が非常に面白く、ラードナーの位置づけがよく判る。マーク・トウェインもジャーナリストから「作家」になったわけだが、同じような経歴だという。ヘミングウェイやフィッツジェラルドら「ロスト・ジェネレーション」以前の作家として、「自我」に悩まずに爆笑トークを繰り広げる。面白いのは間違いない。なお、息子のリング・ラードナー・ジュニアは、脚本家として有名。ロバート・アルトマンが朝鮮戦争を題材に戦争をコケにした「M★A★S★H」の脚色でアカデミー賞を受賞している。
さて、野球を描いたアメリカ小説と言えば、フィリップ・ロス「素晴らしいアメリカ野球」が一番。僕はこの小説が集英社の世界文学全集から出た時に、すぐ読んだものだ。ムチャクチャとしか言えない話で、爆笑に次ぐ爆笑で読み終わった思い出がある。フィリップ・ロスは近年読んでいて、ここに記事を書いた。だから、これも読み直して記事を書こうかと思って、全集を持ち出してきたものだ。だけど、悲しいかな、もう字が小さくて、どうも取り組み元気が出ない。そうこうするうちに、今回新潮文庫で復刊された。
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ああ、でも、ちょっと予想が外れたなあ。現在の僕の「PC」(政治的公正さ)感覚からすると、ちょっと笑えないジョークが多すぎないか。「愛国リーグ」なる第三のメジャーリーグをでっち上げ、架空球団の歴史を物語る手際は実に鮮やか。でも戦時中に手が足りない球団に属する選手たちの設定は、どうも今ではやり過ぎで面白くない。そんな気もしてしまったわけである。でも、読書好きなら一度は読んでおくべき名作(迷作)に違いない。
ところで、前回村上春樹、柴田元幸両氏の新訳本は11月末に出ると書いたけど、今日翻訳堂サイトを見たら、来年2月刊行と延びていた。まあ、翻訳とはそういうもんかと思うが。そういえば、本についてあまり書いてないと昨日述べたけど、映画や教育、政治などの記事に比べて、閲覧数がグッと落ちるんだということを忘れていた。求められてないことは少なくなるということなんだけど、まあブログ順位を競う気もないので、好きなことを書く方がいいなと思う。本の話を書いてる方が、自分では面白い。