尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

アメリカのシリア攻撃をどう考えるか①-トランプ政権の問題

2017年04月13日 21時19分33秒 |  〃  (国際問題)
 4月7日、アメリカがシリアのアサド政権軍を巡航ミサイルで攻撃した。その前に、4日シリア北西部のイドリブ県で、化学兵器(毒ガス)による爆撃が行われた(とみられる)。それがアサド政権軍によるものとアメリカは断定し、ミサイル攻撃を加えた。この事態をどう考えるべきだろうか?

 本当は昨日から書くつもりだったんだけど、つい浅田真央記者会見を書いてしまった。数回かかると思うから、つい面倒な気がしてしまうのである。でも、まあ大事なことだから、国内問題を差し置いてまず書いておきたい。この攻撃そのものは、「国際法違反」だろう。それが本質だという人もいると思うけど、ここではその問題は一番最後に回したいと思う。

 今回の事態で思い出すのは、1998年にクリントン政権によって行われたアフガニスタンやスーダンへのミサイル攻撃である。これも無謀なものだったけど、その直前にアル・カイダが関与したとみられるケニア、タンザニアの米大使館爆破事件が起きていた。それに対する「報復」として、「自衛権の発動」という名目でミサイル攻撃が行われたわけである。(もっともスーダンの「化学兵器工場」は間違いだったとされるが。)それに対して、今回はアメリカへの攻撃がどこにもない。

 トランプ大統領は「アメリカは世界の警察官ではない」と言い、「アメリカ・ファースト」を唱えていた。かつてオバマ政権が同じく毒ガス使用が疑われたアサド政権を攻撃しそうになった時、在野時代のトランプは口を極めてオバマ批判を繰り返していたという。今回は全く逆の立場となり、赤ちゃんが殺されているなどとシリア攻撃の正当性を主張している。そんなに世界の悲惨事に同情できるんだったら、他の問題の対応も変わって然るべきではないのか。

 今回のトランプ政権の対応は、その直前の4日に起こった、バノン首席戦略官のNSC(国家安全保障会議)が常任メンバーから外れるという出来事と密接な関連があると観測されている。バノンは白人至上主義の陰謀論者とよく言われる危険人物だけど、だからこそ外国の紛争に「人道的介入」をすることには反対する立場と考えられる。バノンはトランプの娘婿のクシュナーと対立していると言われる。トランプ大統領は娘のイバンカを無給の補佐官にして、イバンカとクシュナーの影響力はますます強まっていると思われる。イバンカがシリア攻撃正当化に力を注いでいることを見ても、とりあえず「クシュナー路線」が大統領を動かしていると見て取ることが出来そうだ。

 トランプ政権はずっと低空飛行が続いていたが、最高裁判事に保守派を任命することに成功し、今回のシリア攻撃も国内的には支持されるとみられる。(政界では議会民主党も反対していない。国民世論の動向はまだ報じられていない。)「国内で行き詰ったら、国外で戦争をする」という古典的な戦略を取っているのではないだろうか。今回は限定攻撃になるだろうが、東アジア情勢にも大きく影響していて、トランプ政権の一挙一動に世界が注目せざるを得ない。

 今回は中国の習近平国家主席訪米中にシリア攻撃が行われた。これも計算されたものだとしたら、ずいぶん仕組んだものである。トランプ政権は中国に貿易問題で厳しいことを言ってきた。北朝鮮問題でも中国を批判している。党大会を控えて訪米の失敗を許されない習近平は、冒頭でシリアをめぐってトランプ政権と完全対立する道を選べない。支持はしないまでも、「暗黙の了解」的な対応になる。そして、国連安保理の採決では、中国は今回は棄権した。ロシアが拒否権を使ったため否決されたものの、中ロの間にひびを入れるという外交的得点を挙げたのは確かである。

 アメリカのティラーソン国務長官はちょうど訪ロしていたが、シリアに関する認識は完全に正反対である。トランプ政権は、米ロ関係は冷戦終結後最悪だとまで言っている。これはトランプ政権に関して、事前に言われていたことと違っている。トランプは公然とオバマ政権の対ロ政策を批判していたし、プーチンを持ち上げていた。実際に今回の化学兵器問題が起きる直前には、アサド政権存続でロシアと協調する動きを見せていた。それがあっという間に事態が急転した。今は米ロ対立が言われている。

 ロシアが米大統領選に介入し、トランプに肩入れしたという疑惑がある。それが本当なら、ロシアがトランプ政権の命運を握っているはずである。今回のようなことを見れば、トランプ政権側には後ろ暗いことはないということにも見える。この問題をどう考えるべきだろうか。もし実際にロシアが選挙に介入していたとしても、ロシアはそれを公にはできないと思われる。道義的問題もあるし、介入方法を公表できるものではない。責任者の処罰などを求められても困る。

 アメリカ国内的に言えば、ロシア寄りを警戒されていたトランプ政権は、ロシア寄りの政策を打ち出しにくい。今回もどこかで妥協するのかもしれないが、ロシア強硬路線の方が国内的には支持されると思われる。じゃあどうなると言われても、今後シリアに地上軍を送るなどは考えられない。ただアメリカのアサド政権否認は続く。ロシアのアサド政権擁護も続く。よって、シリア内戦は出口が見えない状況が続く。ということにならざるを得ない。つまり、シリア内戦を続行させるという意味が今回の事態を通して見えてくる真相なんだと思う。じゃあ、アサド政権側やロシアなどの対応をどう見るか、東アジアへの影響、国際法の問題などは次回以後に。
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