尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「でんげい」でわかること-部活映画の構造②

2017年04月24日 22時51分18秒 | 映画 (新作日本映画)
 ドキュメンタリー映画「でんげい~私たちの青春~」という映画が新宿のケイズ・シネマでモーニングショーされている。(28日まで、朝10時20分のみ)これは大阪の建国高校という韓国系の学校の「伝統芸能部」が全国高等学校総合文化祭(高校総文)に出た時の記録である。非常に面白くて是非多くの人に見てもらいたい作品だけど、上映が少ない。今後の各地での上映に期待したい。

 どっちかというと、社会問題的な関心もあって見たんだけど、これはすぐれた「部活映画」になっていた。しかし、その話をする前に少しいくつかの説明をしておきたいと思う。まず、この映画だけど、これは韓国のMBCテレビのチョン・ソンホという人が作ったテレビドキュメンタリーだという。それが2016年の大阪アジアン映画祭で「いばらきの夏」の題で上映された。正式な公開を望む声が高まり、あらためて「でんげい」とタイトルを変えて公開されている。

 旧題名にある「いばらき」は、2014年の高校総文が開催された茨城県のことである。ちょっと総文祭の説明をすると、1977年から開催されている全国の高校文化部の祭典である。毎年夏に開かれ、今年は宮城県で行われる。運動部の全国高校総合体育大会(インターハイ)に対して、文化部のインターハイなどと呼ばれ、最近は知名度も上がってきた。

 細かくなるけれど、毎年行われている部門を紹介すると、演劇、合唱、吹奏楽、器楽・管弦楽、日本音楽、吟詠剣詩舞、郷土芸能、マーチングバンド・バトントワリング、美術・工芸、書道、写真、放送、囲碁、将棋、弁論、小倉百人一首競技かるた、新聞、文芸、自然科学の19部門ある。書き写していて、こういうことをやっている高校生がいて、全国大会もあるんだということに心が揺さぶられた。(なお、演劇、日本音楽、伝統芸能部門の優秀校は、8月末に東京の国立劇場で上演される。)

 ちょっと細かく書いてしまったけど、この総文祭には文化部独特の悩みもある。運動部の場合、例えば野球部だったら、甲子園を目指す地方大会が終われば、普通は3年生は引退していく。勝てばその夏の甲子園である。一方、文化部の場合、多くは秋に大会がある。夏休みがないと、大会に出すだけのものを作れない。全国を目指すような部は別にして、多くの高校では秋の文化祭に発表することが当面の目標だろう。ということで、地方大会で優秀校に選ばれても、全国総文祭は次の夏であり3年生は卒業している。大会出場を勝ち取った先輩がいなくなり、代わりに1年生が出ることもある。

 「でんげい」で出てくるのは、まさにその悩みである。誇りを持って伝統芸能部に入部したけど、それにしても夏に全国とは大変だ。そういう悩みをていねいに追っている。ところで、この「学校法人白頭学園建国高等学校」とは何だろうか。関東圏の人はほとんど知らないだろう。調べてビックリしたことに「韓国人学校」ではない。もとは確かに戦後に作られた民族学校なのである。日本にある「外国人学校」「インターナショナル・スクール」はほとんどが法的には「各種学校」である。(東京韓国学校もそうである。)でも「建国高校」は学校法人を設立し、正式に日本の私立高校となった。だから高校を卒業すると、日本の大学はもちろんだが、韓国の延世大や高麗大、梨花女子大などにも進学している。

 「日本の高校」なので、当然日本の検定教科書を使って学習するが、韓国語、韓国文化も学習する。幼稚園からあって、小学校では1年から英語を学習し、「トリリンガル」として英・韓・日の三か国語を使える人材を育てるという。ほう、そういう学校があったのかと思って、これもまたつい細かい説明をしてしまった。映像を見ると、親にも日本人や中国人もいる。基本は韓国系の学校なんだろうけど、単に民族教育を行うことを目標とする学校ではない。そういう中で「伝統芸能部」があるのである。

 全国大会に出る郷土芸能は、和太鼓や民謡、舞などがほとんどである。(和太鼓部門と伝承芸能部門がある。)当然そうなのだが、そこに韓国の伝統芸能が出る。それを他の学校も当然のように受け入れている。(最初はどうだったか知らないけど、今は毎年出てくる名門校なので、驚きはないだろう。)この映画でも、そういう活躍をしている在日同胞がいるんだと遠くから応援するようなスタンスで見ている。当日までには、苦しいこと、悩むことも多い。そういう青春ドラマを心を込めて撮影している

 部員が取り組んでいるのは、「地神パルギ」という厄払いの伝統芸能である。それと「サムルノリ」と呼ばれるようになったもの。今ではほとんど「伝統芸能」の一般名詞になりつつある感じだけど、元は70年代に結成された創作パフォーマンス集団である。伝統的な農楽をもとに、伝統楽器を4つ(ケンガリ、チン.チャング(長鼓)、プク)用いて、踊って声も出すから大変だ。それと白い細長いひものついた「サンモ」という帽子をかぶる。昔何度か見たものだが、このひもの動きが魅力的だった。首を回しているのではなく、膝でリズムを取るんだという。

 五月の連休には先輩もやってきて、柔道室に泊まり込んでが合宿が行われる。そこから夏の全国大会までのドラマは、一言でいうと「チア☆ダン」と同じと言える。技量の差、家族の支え、だんだんうまくなるが、指導者に厳しく叱られる、繰り返して練習する、最後には「突き抜けた」境地に達して何かをつかむ。基本的に「ダンス映画」であるという点で共通しているのである。

 ところで「伝統芸能」と言っても、「サムルノリ」に始まる現代音楽とも言える。ここで行われているのはある種の「作られた伝統」ではないかと思う。それは日本の伝統として行われる「和太鼓」も同じで、この部門は最初から創作も認められているという。和太鼓の勇壮な連打が「伝統」としてあった地区は少なく、鬼太鼓座などから影響されて高校でもやっていると思う。数十年前まで日本人の中で生きていた「伝統芸能」とは、小唄、長唄、義太夫、都都逸、浪花節なんかだと思うけど、さすがに今の高校生でやっているところはないだろう。それでいいんだと思うし、さまざまな「伝統」を認め合う多様性が日本の教育の中にあることがいいと思う。
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