尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「内政不干渉」と国際人権法ー安保理常任理事国の責任

2021年04月02日 23時07分49秒 |  〃  (国際問題)
 中国の抱える問題を書いてきたが、最後に中国やロシアが主張する「内政不干渉」という原則について考えてみたい。「内政不干渉」とは19世紀以後の国際法の中で確立された考え方で、もちろん今も生きている。もともとは弱小国が強国から不当に干渉されることを防ぐ決まりである。しかし、現実にはアメリカはずいぶん弱小国に「干渉」してきた。発展途上国が自国の資源を国有化するようになると、アメリカ資本を守るためにCIAが介入して政権転覆を謀るのである。一方、ソ連や中国も他国の共産党の反乱を支援していたから「内政干渉」していた。
(「内政不干渉」を主張する中国報道官)
 歴史的に見ると、今ではすべての国は「主権国家」として平等ということになっているが、19世紀段階ではそうじゃなかった。「欧米列強」が一番上で、その次に日本のように不平等条約の対象の「準文明国」、そして国家形成前の「未開」と分かれていた。しかし、20世紀になると2つの世界大戦を経て「民族自決」の考えが確立され、植民地だった地域もどんどん独立していった。それらの国々は国際連合に加盟して、国連加盟国として平等な地位を持つようになった。

 国際連合は単なる主権国家の集まりではない。第二次世界大戦のあまりにも悲惨な出来事を経て、もはや単なる「内政不干渉」ではいけないと思われたのである。例えばナチスドイツによる「ユダヤ人迫害」を内政問題として見過ごして良いものだろうか。だからこそ、国際連合憲章では基本的人権人間の尊厳を守ることを目的として国際連合を組織すると明記された。1948年には世界人権宣言が国連で制定された。だから、加盟国で重大な人権侵害が起きている時に、そのことを批判するのは今は「内政干渉」ではない。批判しない方が国連憲章違反だ。
(「内政不干渉」をめぐる国際法の歩み)
 宣言では法的拘束力がないから、それをもっと拘束力のあるものにしようと国連で検討が進められた。その結果「国際人権規約」が1966年の国連総会で採択された。二つあって、「社会権規約」と「自由権規約」である。正確に書けば「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」と「市民的及び政治的権利に関する国際規約」である。どちらも1976年に発効した。なお二つの「選択議定書」が後に採択された。一つは「個人通報制度」を認めるもので、もう一つは「死刑廃止条約」である。日本は選択議定書は未締約だが、人権規約本体は締約国になっている。
 
 ところで、この人権規約の加盟国を調べてみると興味深いことが判る。まず「自由権規約」から見る。これは思想・信教・集会などの自由、参政権、法の下の平等、拷問の禁止などを幅広く規定している。国連加盟国のうち、173国が締結しているのに、未だ署名はしているものの批准していない国の中に中華人民共和国がある。署名もしていない国にミャンマーサウジアラビアなどがある。それらの国の人権状況が厳しいのは当然だろう。中国がミャンマーやサウジを支援するのもなるほどと判る。

 一方、「社会権規約」を見てみれば、そこでは労働組合結成の権利教育や医療を受ける権利社会保障結婚の自由などが規定されている。こちらには何とアメリカが署名しただけで批准していない。公的な医療保険もないのは当然なのである。こっちには中国やミャンマーも加盟している。サウジアラビア、マレーシア、南スーダンなどはどちらも未加盟。ロシアやサウジを除くイスラム諸国はどちらも入っているが、現状は規約が守られているとは言えない。入っているだけで人権が守られるわけではない。

 だけど、国連安保理の常任理事国として国連内で特権を持っている中国やアメリカが、国際人権規約に入っていないのはおかしいのではないか。中国とアメリカがやり合ったけれど、アメリカは本当は中国に自由権規約を批准するべきだと迫るべきだった。しかし、社会権規約未批准のアメリカは中国にそういうことを言えない。だけど、そういう米中が常任理事国でいいのだろうか。特権には義務が伴うのではないか。ここでは中国が言う「内政不干渉」は、今ではその国の人権状況への批判には通用しない概念なのだと確認したい。

 日本政府の対応も感心しないことが多い。日本の場合、入ってない人権条約も多いし、なにより個人通報制度を一切無視している。これは人権侵害に対して、個人で国連に通報出来るものである。人権規約に入ると、人権状況の審査がある。外国人問題や刑事裁判での人権問題などが特に指摘されることが多い。だけど、日本政府も人権規約を認めているんだから、中国やアメリカを批判してもいいだろう。なお、中国に批判的なことを書いたが、中国の軍事的脅威を強調してアメリカと軍事的一体化を進める動きも危険だ。そのことももっと書きたかったが、長くなったので一端この問題は終わりにしたい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする