ロシアの批判は今後も書かないといけないが、他の大国である中国がおかしいだけでなく、アメリカ合衆国もとても変で、おかしなことが多すぎる。内政問題は不干渉であるべきだが、それにしても今頃「銃規制」でもめているなんて、まともな国と言えるだろうか。何回悲劇が起こっても、銃規制が進まない。「銃の保持の権利」が憲法で認められているといっても、自衛用なら普通のピストルで十分だろう。テキサス州の小学校襲撃事件で使われたようなM16自動小銃(製品名はアーマライト社のAR-15)をなぜ18歳の少年が合法的に買えるのか。この銃は「ゴルゴ13」が使用しているものである。
(AR-15)
アメリカで銃規制が進まない原因は、全米ライフル協会(NRA)という強大なロビー団体があるからだと言われる。たまたま銃撃事件の起きたテキサス州で、NRAの大会が開催された。そこにトランプ前大統領が出席し、「銃を規制するのではなく、教師が銃を持つことで学校のセキュリティーが強化される」などと持論を述べた。また、「銃を持った悪人を止める唯一の方法は銃を持った善人」とも述べた。こんなことをアメリカ以外で政治家が演説したら、すぐに失脚するに違いない。「銃を持った悪人を止める唯一の方法」は、「悪用されるかどうか事前に判らないのだから、一般人の銃の購入を厳格に規制する」こと以外にはない。
(NRAでのトランプ演説)
子どもが子どもに発砲するような事故も何度も起きている。何も解決への道を探らないアメリカという国は、一体どうなっているのだろうか。何でも銃の購入規制を今までより厳重にする法案はすでに下院を通過しているという。しかし、上院で採決の見通しが立たない。上院は民主党50、共和党50なので、共和党の議事妨害を跳ね返して採決するための「60人」が確保出来ないのである。NRA大会では、トランプは学校に警察官や武装した警備員の配置など警備強化なども求め、ウクライナに巨額の援助をするよりこっちに金を使えというような発言までしている。未だにトランプが共和党支持者の間で人気があるというのが実に不思議だ。
この秋の「中間選挙」では、上院議員の3分の1、全下院議員が一斉に改選される。今回の改選は、2016年選挙での当選組で、現職は共和党20人、民主党14人の全34人である。ところで、中間選挙は大統領の与党に厳しいことが多く、バイデン政権の支持率もアフガニスタンでタリバン政権が成立した辺りから低迷を続けている。はっきり言ってしまえば、民主党に厳しいと予測されていて、このままではバイデン政権は上院を抑えられなくなる。その場合、2024年の大統領選挙にバイデンが出られるかという問題も浮上するだろう。すでに諸外国はバイデン政権後半は国内的に行き詰まるということを前提に考えているだろう。
「上院の過半数」がアメリカにとって重要なのは、単に予算や法案を成立させられないというだけではない。最高裁判所判事の任命に影響するということが大きい。最高裁判事は大統領が指名して、上院の承認が必要となる。一端認められれば「終身」で務めるから、大統領は最長8年しかやれないのに対し、むしろ何十年も米国を拘束してしまう最高裁判事の方が重大とも言える。「終身」の判事が死亡または辞職した場合、次の判事を決めることになるが、これが何故か共和党大統領が指名した判事が6人、民主党大統領が指名した判事が3人と、現時点で「保守派」が「リベラル派」を圧倒している。
大統領の所属党派は、過去半世紀ぐらいでは、民主、共和がほぼ同じ年数である。1972年以来の大統領を見ると、ニクソン(共)→フォード(共)→カーター(民)→レーガン(共)→レーガン(共)→ブッシュ父(共)→クリントン(民)→クリントン(民)→ブッシュ子(共)→ブッシュ子(共)→オバマ(民)→オバマ(民)→トランプ(共)→バイデン(民)である。フォードはニクソン辞任後の昇格で選挙を経ていない。選挙だけでは、共和党7回、民主党6回になる。
最高裁判事の名前を全員書いても詳しすぎるだろう。そこで任命時の大統領を挙げると、現時点ではブッシュ父(1人)、クリントン(1人)、ブッシュ子(2人)、オバマ(2人)、トランプ(3人)ということになる。終身在職だから、大統領を2期やった人でも2人ぐらいしか最高裁判事指名の機会がない。それなのに、たまたま4年しかやってないトランプ時代に3人も欠員が出てしまった。その一人が映画にもなって日本でも知られたルース・ベイダー・ギンズバーグ(2020年死去、クリントン大統領指名)である。
RBG(ギンズバーグ判事)が最高裁にいた意義は大きかったが、87歳で亡くなったことを考えると、結果論だけどオバマ時代に辞職していた方が良かったのではないかと言われたりする。そのような議論もあって、同じくクリントン大統領指名のスティーブン・ブライヤー(83歳)に中間選挙前の辞職を求める声が強くなった。その結果、本人も辞職を選んで、後任には初の黒人女性判事、ケタンジ・ブラウン・ジャクソン(1970~)が指名され、上院で53対47で承認された。6月17日に就任予定である。
ところで「保守派」判事の年齢を見てみると、70代前半2人、60代1人、50代3人となっている。トランプ時代の3人がすべて50代なので、後30年ぐらい務める可能性が高い。健康状態がどうなるかは誰にも予測出来ないが、まあ80代前半ぐらいまで務める判事が多い。だからバイデンが再選されたとしても、もう最高裁判事指名は行われない可能性が高い。そこで、「ここ20年ほどは保守派優位の最高裁」を前提にして、妊娠中絶訴訟で今までの判例が覆る可能性が高い。判決要旨がリークされるというあり得ないような事態が起こって、アメリカでは賛成、反対両派の対立が激化している。ポーランドのように他国にもこの問題でもめている国はある。だが、超大国アメリカがこれほど宗教票に左右されるという事態は普通には考えられない。
(「女性の選択権」を擁護するデモ)
米政治では、中絶禁止派を「プロ・ライフ」(生命重視派)と呼ぶが、僕にはそのネーミングが全く理解出来ない。本当に「生命を大切にする」という意味で妊娠中絶に反対するんだったら、銃規制に賛成、死刑制度に反対でなければ、論理が一貫しないではないか。ところが実際は銃規制反対、死刑制度賛成で、かつ「レイプでの妊娠中絶にも反対」なのである。僕の感覚では全く意味が判らない。(なお、中絶賛成派は「プロ・チョイス」(選択権重視派)と呼ばれる。)
その背後にあるのは、右派的なキリスト教福音主義団体である。アメリカはもともと建国からして、「宗教国家」的な側面があるけれど、最近ではイランと同じような「原理主義」がはびこっている。しかし、日本はアメリカとも中国とも付き合わないわけにはいかない。せめて注目していくことしか出来ないが、アメリカも「おかしな社会」だなと思う。それは日本が「普通」だという意味ではないけれど。
(AR-15)
アメリカで銃規制が進まない原因は、全米ライフル協会(NRA)という強大なロビー団体があるからだと言われる。たまたま銃撃事件の起きたテキサス州で、NRAの大会が開催された。そこにトランプ前大統領が出席し、「銃を規制するのではなく、教師が銃を持つことで学校のセキュリティーが強化される」などと持論を述べた。また、「銃を持った悪人を止める唯一の方法は銃を持った善人」とも述べた。こんなことをアメリカ以外で政治家が演説したら、すぐに失脚するに違いない。「銃を持った悪人を止める唯一の方法」は、「悪用されるかどうか事前に判らないのだから、一般人の銃の購入を厳格に規制する」こと以外にはない。
(NRAでのトランプ演説)
子どもが子どもに発砲するような事故も何度も起きている。何も解決への道を探らないアメリカという国は、一体どうなっているのだろうか。何でも銃の購入規制を今までより厳重にする法案はすでに下院を通過しているという。しかし、上院で採決の見通しが立たない。上院は民主党50、共和党50なので、共和党の議事妨害を跳ね返して採決するための「60人」が確保出来ないのである。NRA大会では、トランプは学校に警察官や武装した警備員の配置など警備強化なども求め、ウクライナに巨額の援助をするよりこっちに金を使えというような発言までしている。未だにトランプが共和党支持者の間で人気があるというのが実に不思議だ。
この秋の「中間選挙」では、上院議員の3分の1、全下院議員が一斉に改選される。今回の改選は、2016年選挙での当選組で、現職は共和党20人、民主党14人の全34人である。ところで、中間選挙は大統領の与党に厳しいことが多く、バイデン政権の支持率もアフガニスタンでタリバン政権が成立した辺りから低迷を続けている。はっきり言ってしまえば、民主党に厳しいと予測されていて、このままではバイデン政権は上院を抑えられなくなる。その場合、2024年の大統領選挙にバイデンが出られるかという問題も浮上するだろう。すでに諸外国はバイデン政権後半は国内的に行き詰まるということを前提に考えているだろう。
「上院の過半数」がアメリカにとって重要なのは、単に予算や法案を成立させられないというだけではない。最高裁判所判事の任命に影響するということが大きい。最高裁判事は大統領が指名して、上院の承認が必要となる。一端認められれば「終身」で務めるから、大統領は最長8年しかやれないのに対し、むしろ何十年も米国を拘束してしまう最高裁判事の方が重大とも言える。「終身」の判事が死亡または辞職した場合、次の判事を決めることになるが、これが何故か共和党大統領が指名した判事が6人、民主党大統領が指名した判事が3人と、現時点で「保守派」が「リベラル派」を圧倒している。
大統領の所属党派は、過去半世紀ぐらいでは、民主、共和がほぼ同じ年数である。1972年以来の大統領を見ると、ニクソン(共)→フォード(共)→カーター(民)→レーガン(共)→レーガン(共)→ブッシュ父(共)→クリントン(民)→クリントン(民)→ブッシュ子(共)→ブッシュ子(共)→オバマ(民)→オバマ(民)→トランプ(共)→バイデン(民)である。フォードはニクソン辞任後の昇格で選挙を経ていない。選挙だけでは、共和党7回、民主党6回になる。
最高裁判事の名前を全員書いても詳しすぎるだろう。そこで任命時の大統領を挙げると、現時点ではブッシュ父(1人)、クリントン(1人)、ブッシュ子(2人)、オバマ(2人)、トランプ(3人)ということになる。終身在職だから、大統領を2期やった人でも2人ぐらいしか最高裁判事指名の機会がない。それなのに、たまたま4年しかやってないトランプ時代に3人も欠員が出てしまった。その一人が映画にもなって日本でも知られたルース・ベイダー・ギンズバーグ(2020年死去、クリントン大統領指名)である。
RBG(ギンズバーグ判事)が最高裁にいた意義は大きかったが、87歳で亡くなったことを考えると、結果論だけどオバマ時代に辞職していた方が良かったのではないかと言われたりする。そのような議論もあって、同じくクリントン大統領指名のスティーブン・ブライヤー(83歳)に中間選挙前の辞職を求める声が強くなった。その結果、本人も辞職を選んで、後任には初の黒人女性判事、ケタンジ・ブラウン・ジャクソン(1970~)が指名され、上院で53対47で承認された。6月17日に就任予定である。
ところで「保守派」判事の年齢を見てみると、70代前半2人、60代1人、50代3人となっている。トランプ時代の3人がすべて50代なので、後30年ぐらい務める可能性が高い。健康状態がどうなるかは誰にも予測出来ないが、まあ80代前半ぐらいまで務める判事が多い。だからバイデンが再選されたとしても、もう最高裁判事指名は行われない可能性が高い。そこで、「ここ20年ほどは保守派優位の最高裁」を前提にして、妊娠中絶訴訟で今までの判例が覆る可能性が高い。判決要旨がリークされるというあり得ないような事態が起こって、アメリカでは賛成、反対両派の対立が激化している。ポーランドのように他国にもこの問題でもめている国はある。だが、超大国アメリカがこれほど宗教票に左右されるという事態は普通には考えられない。
(「女性の選択権」を擁護するデモ)
米政治では、中絶禁止派を「プロ・ライフ」(生命重視派)と呼ぶが、僕にはそのネーミングが全く理解出来ない。本当に「生命を大切にする」という意味で妊娠中絶に反対するんだったら、銃規制に賛成、死刑制度に反対でなければ、論理が一貫しないではないか。ところが実際は銃規制反対、死刑制度賛成で、かつ「レイプでの妊娠中絶にも反対」なのである。僕の感覚では全く意味が判らない。(なお、中絶賛成派は「プロ・チョイス」(選択権重視派)と呼ばれる。)
その背後にあるのは、右派的なキリスト教福音主義団体である。アメリカはもともと建国からして、「宗教国家」的な側面があるけれど、最近ではイランと同じような「原理主義」がはびこっている。しかし、日本はアメリカとも中国とも付き合わないわけにはいかない。せめて注目していくことしか出来ないが、アメリカも「おかしな社会」だなと思う。それは日本が「普通」だという意味ではないけれど。