タイで開かれていたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の貿易相会議で、ロシア代表の演説中に日米を含む5ヶ国の大臣が会議を退席したというニュースがあった。退席したのは、日本、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5ヶ国。その後、韓国とチリが加わった7ヶ国で声明を発表し、「ロシアに対し、直ちに武力行使を中止し、ウクライナから無条件で軍部隊を完全に撤退させることを強く求める」と主張した。
こういう報道があると、何かロシアが国際的に強く非難されているかのように感じられるのだが、APECの参加国・地域は全部で21である。つまりロシア非難国は、数で言えば圧倒的に少数ではないか。1989年発足時の原加盟国の中では、ASEAN諸国のインドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ブルネイ、タイはすべて加わっていない。これは開催国のタイ、G20議長国のインドネシアなどを抱えるASEANとして足並みをそろえているということか。後に台湾、中国、香港、さらにメキシコ、パプアニューギニア、チリ、ペルー、ロシア、ヴェトナムが加わった。こうしてみると、東南アジアを中心に中国やロシアにも配慮せざるを得ない国々が相当多い現実が明らかだろう。
そんな現実がある中で、ロシアのラブロフ外相は北アフリカのアルジェリアとアラビア半島のオマーンを最近訪問した。下記に天然ガスと原油の産出国のグラフを載せておいたが、2014年段階でアルジェリアは9位となっている。天然ガスに関しては、1位がアメリカ、2位がロシアである。このロシアと取引しないということになると、西欧諸国は地理的に近いアルジェリアの天然ガス、あるいはリビアの原油をもっと輸入したいという思惑がある。
(ラブロフ外相とアルジェリアのテブン大統領)
そこでラブロフ外相が何しに行ったかというと、アルジェリアが生産量を増やして西欧諸国へ輸出を増やすことを牽制するためだろう。この間、天然ガスの先物価格は前年末から比べて4倍ぐらいになっている。増産余力があるならば、むしろ少し増やして輸出にまわしてもおかしくない。いつ戦争が終わって価格が下がるか判らないんだから、この間に西欧諸国との信頼感を強めておく方が得策とも言える。そこでロシア企業がアルジェリアとの共同事業に関心があるというような話を持ち込んで、牽制しているわけである。アルジェリアは独立戦争以来、ソ連の武器援助を受けてきて、ロシア製兵器への依存が強い。国連総会でも棄権に回った国である。そういうところをロシアがてこ入れしているのである。
(ラブロフ外相とオマーンのハイサム国王)
それが5月10日のことで、翌11日に今度はオマーンを訪問した。オマーンはOPEC(石油輸出国機構)に入ってはいないが、原油と天然ガスの産出国である。サウジアラビアやアラブ首長国連邦の隣国だが、イエメン内戦には関わらず、イスラエルとの関係も良好という中東アラブ諸国の中では独自の外交姿勢を保ってきた。そこではOPECの合意(今回の事態を受けた原油の増産はしない)を確認したという。ラブロフ外相はあえて西欧諸国を困らせようとしているのである。「どうして貧しくなるのか、国民に対して弁明させればいい」と述べたという。ロシアへの経済制裁によって、国民生活の悪化を招くのだと言いたいわけである。
(天然ガス産出国)
(原油産出国)
天然ガスが一番だが、原油もロシアの産出量は大きい。自国の産出が多いアメリカはいいけど、西欧諸国にとってはロシアからの輸入を止めるのは痛い。量的には可能だとしても、価格上昇にどこまで耐えられるか。日本は、ロシアの侵攻を見逃せば中国に何も言えなくなるという波及を恐れて、アメリカに付いていくしかないということだろう。純経済的観点からは無理なことをやりきるしかないという問題だろう。日本の報道ではロシアが苦戦しているということがよく報じられるが、軍事的にはともかく、ロシア経済が崩壊寸前だとは思えない。「肉を切らせて骨を断つ」ような恐竜の対決みたいなことになってしまった。
このままでは、米欧は持ちこたえるかもしれないが、ロシアより先に音を上げる中小諸国が出て来そうだ。スリランカやエクアドルなどは、もうすでに政情が混乱しているようだ。もっとも自分の政権運営の問題ではなく、ロシアやアメリカが悪いんだなどと責任転嫁出来る側面もあるだろう。それにしてもエネルギーや小麦の価格高騰は、普通ならいくつかの政権が吹っ飛ぶレベルになるだろう。この夏から秋にかけて次第に世界的な食糧危機などが現れてくると思われる。その前にウクライナ戦争が終結する可能性はないと見て、準備しておく必要がある。
こういう報道があると、何かロシアが国際的に強く非難されているかのように感じられるのだが、APECの参加国・地域は全部で21である。つまりロシア非難国は、数で言えば圧倒的に少数ではないか。1989年発足時の原加盟国の中では、ASEAN諸国のインドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ブルネイ、タイはすべて加わっていない。これは開催国のタイ、G20議長国のインドネシアなどを抱えるASEANとして足並みをそろえているということか。後に台湾、中国、香港、さらにメキシコ、パプアニューギニア、チリ、ペルー、ロシア、ヴェトナムが加わった。こうしてみると、東南アジアを中心に中国やロシアにも配慮せざるを得ない国々が相当多い現実が明らかだろう。
そんな現実がある中で、ロシアのラブロフ外相は北アフリカのアルジェリアとアラビア半島のオマーンを最近訪問した。下記に天然ガスと原油の産出国のグラフを載せておいたが、2014年段階でアルジェリアは9位となっている。天然ガスに関しては、1位がアメリカ、2位がロシアである。このロシアと取引しないということになると、西欧諸国は地理的に近いアルジェリアの天然ガス、あるいはリビアの原油をもっと輸入したいという思惑がある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/7a/91/86685b96abfa02ec885dba1366af510e_s.jpg)
そこでラブロフ外相が何しに行ったかというと、アルジェリアが生産量を増やして西欧諸国へ輸出を増やすことを牽制するためだろう。この間、天然ガスの先物価格は前年末から比べて4倍ぐらいになっている。増産余力があるならば、むしろ少し増やして輸出にまわしてもおかしくない。いつ戦争が終わって価格が下がるか判らないんだから、この間に西欧諸国との信頼感を強めておく方が得策とも言える。そこでロシア企業がアルジェリアとの共同事業に関心があるというような話を持ち込んで、牽制しているわけである。アルジェリアは独立戦争以来、ソ連の武器援助を受けてきて、ロシア製兵器への依存が強い。国連総会でも棄権に回った国である。そういうところをロシアがてこ入れしているのである。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/6a/6f/9b81675605a49b2bd141565efb6c2cb6_s.jpg)
それが5月10日のことで、翌11日に今度はオマーンを訪問した。オマーンはOPEC(石油輸出国機構)に入ってはいないが、原油と天然ガスの産出国である。サウジアラビアやアラブ首長国連邦の隣国だが、イエメン内戦には関わらず、イスラエルとの関係も良好という中東アラブ諸国の中では独自の外交姿勢を保ってきた。そこではOPECの合意(今回の事態を受けた原油の増産はしない)を確認したという。ラブロフ外相はあえて西欧諸国を困らせようとしているのである。「どうして貧しくなるのか、国民に対して弁明させればいい」と述べたという。ロシアへの経済制裁によって、国民生活の悪化を招くのだと言いたいわけである。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/7b/24/b6ce1b6c2b465430395e752958afc26c_s.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/5b/b5/4724b4819dfbdfe2fa584ccab7bb4ebb_s.jpg)
天然ガスが一番だが、原油もロシアの産出量は大きい。自国の産出が多いアメリカはいいけど、西欧諸国にとってはロシアからの輸入を止めるのは痛い。量的には可能だとしても、価格上昇にどこまで耐えられるか。日本は、ロシアの侵攻を見逃せば中国に何も言えなくなるという波及を恐れて、アメリカに付いていくしかないということだろう。純経済的観点からは無理なことをやりきるしかないという問題だろう。日本の報道ではロシアが苦戦しているということがよく報じられるが、軍事的にはともかく、ロシア経済が崩壊寸前だとは思えない。「肉を切らせて骨を断つ」ような恐竜の対決みたいなことになってしまった。
このままでは、米欧は持ちこたえるかもしれないが、ロシアより先に音を上げる中小諸国が出て来そうだ。スリランカやエクアドルなどは、もうすでに政情が混乱しているようだ。もっとも自分の政権運営の問題ではなく、ロシアやアメリカが悪いんだなどと責任転嫁出来る側面もあるだろう。それにしてもエネルギーや小麦の価格高騰は、普通ならいくつかの政権が吹っ飛ぶレベルになるだろう。この夏から秋にかけて次第に世界的な食糧危機などが現れてくると思われる。その前にウクライナ戦争が終結する可能性はないと見て、準備しておく必要がある。