尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ガザの人道危機をめぐる情勢、中東世界は変わるか

2023年10月20日 22時14分46秒 |  〃  (国際問題)
 ガザ地区をめぐる情勢、続報。イスラエルの地上侵攻の準備は整ったとされるが、まだ始まっていない。国連安保理では2つの決議案が採決され、どちらも否決された。議長国ブラジルによる停戦決議は日本も賛成したが、(予想されたことだが)アメリカの拒否権で否決された。ウクライナで戦闘を続けているロシアが停戦決議を出した(否決)のも白々しいが、ウクライナでロシアの拒否権を非難するアメリカも自ら拒否権を行使する。米ロとも、あからさまなダブル・スタンダードである。

 バイデン米大統領がイスラエルを訪問する18日直前には、ガザ地区北部の病院で爆発が起き、471人の死者が出たと報じられた。死者数はその後も増えている。患者だけでなく、多くの地域住民が病院中庭に避難していたという。その原因をめぐって、イスラエルの空爆とするハマスと、(ガザ地区にあるハマスとは違う組織)「イスラム聖戦」によるロケット弾の誤射だとするイスラエル側が対立している。どっちが正しいかは自分には決めがたいが、それは一番の問題ではない。近隣アラブ諸国では大規模な民衆デモが起こっているが、アラブ側からすれば「真の原因はイスラエルの占領」だということになるだろう。
(病院爆発)
 今回の事態で改めて思うことは、「ガザ地区」の特殊性だ。93年のオスロ合意でパレスチナ自治政府が成立して、ガザ地区でも「自治」が始まった。当初はパレスチナ解放機構主流派のファタハが優勢だったが、ファタハの腐敗もあり2006年の第2回選挙ではハマスが第1党になった。ファタハ出身のアッバス議長と内閣は度々対立し、武力衝突が起こってガザ地区はハマスが武力で制圧した。これが「ガザ地区を実効支配するハマス」と呼ばれる理由で、その後暫定統一内閣が出来ているが選挙は行われていない。つまり、ハマスは最初は選挙で支持されたが、「実効支配」は正当なものではない。僕はそのように判断している。
(ガザ地区周辺)
 そもそもガザ地区はイスラエルに基本的なエネルギーを依存していて、「自治」の根本をなしていない。今回イスラエル側はガザ地区へ通じる検問所を閉鎖して「兵糧攻め」を行っている。食糧や水、エネルギーが尽きつつあり、こういうやり方は許されない。イスラエルに通じる地区だけでなく、エジプトに通じるラファ検問所も未だに開放されていない。エジプトはシナイ半島にイスラム原理主義者勢力が多いため、検問所を厳格に運営してきた。今回バイデン米大統領の働きかけで、エジプトは検問所を開放するとされているが、まだ実現していない。完全な開放はガザ地区から大量の住民がエジプトになだれ込みかねないので、実現しない。
(ラファ検問所)
 世界ではイスラエル支持、非難双方の動きが広がっている。今回は日本人の人質がいなかったため、他人事ではないか。人質がいたとしたら、イスラエルにもハマスにも人質救出を優先するように求めるだろう。調べてみると、今回死者、行方不明(人質)が出ている国は、イスラエルを筆頭に、タイ(20人死亡、14人人質)、アメリカ(14人死亡、人質も?)、ネパール(10人死亡)、フランス(8人死亡、20人不明)、アルゼンチン(7人死亡、15人不明)、ロシア(4人死亡、6人不明)、ウクライナ(2人死亡)、イギリス(2人死亡)、カナダ(数人拉致)、ドイツ(数人拉致)、フィリピン(5人不明)、チリ(3人死亡、1人不明)、ペルー(2人死亡、3人不明)、他カンボジアブラジルオーストリアイタリアパラグアイスリランカタンザニアメキシココロンビアアイルランドなど、実に多数の国に及んでいる。

 恐らくハマス側も想定外だったのではないだろうか。これらは音楽祭参加者の他、キブツ(集団農場)に研修に来ていたり、外国人労働者として来ていた人々が多いだろう。相次ぐ空爆で「人質」にも被害が出ているとされる。今「人質」と書いたが、正確には「拉致被害者」だろう。ガザ地区には多くの地下通路があるとされ、どこに隠されているか不明である。イスラエルもこれほど多くの「人質」の存在を無視できないだろうが、そのために攻撃を止めるとは思えない。「テロリストとは取引しない」と宣言して、どこかで強硬策に出るのではないか。「まず停戦を」という声が聞かれるが、僕も出来るなら望ましいと思うけれど、イスラエルもハマスも相手の存在自体を根本的に否定している。従って、「停戦」が実現したとしても、それは「取りあえず」であって、イスラエルが納得出来る条件が提示されるとは思えないので、いずれ本格的な対決になるだろう。
(アラブ諸国の抗議)
 アラブ各国で反イスラエル抗議活動が高揚している。またイランの支持するレバノンのシーア派組織「ヒズボラ」がイスラエルを攻撃している。イエメンのフーシ派組織もミサイルをイスラエルに向けて発射したとされる。イランはヒズボラを通して、南北の二正面作戦を行うだろうか。事態によってはあり得なくないと思うが、なかなか現実には難しいと思う。イランは明確な反イスラエルだが、出来ることは限られる。サウジアラビアはこの事態を受けてイスラエルとの国交正常化交渉を凍結した。前回書いたように、これこそがハマスの今作戦の政治的目標だっただろう。

 反イスラエルの民衆感情は中東諸国を揺るがす事態に発展するだろうか。それは一部諸国を除けば考えにくいと思う。ただペルシャ湾岸のシーア派が多い諸国、例えばバーレーンなどではイスラエルと国交を結んだ王政当局に対する批判が大きくなる可能性がある。ただ、エジプトやシリアなどで政権基盤が揺らぐことはないだろう。一方、イスラエルでは今回の「ハマス掃討戦」終了後に、長かったネタニヤフ時代が終わるだろう。それもまた想定しておくべきことである。
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