昨日は外国ニュースを書こうと思い、米大統領選にしぼって書いていたら、自分でも信じがたいミスをして全部消してしまった。資料を調べていて12時を過ぎてしまい、早く終わりたいという気持ちが強すぎた。もうなんだかトランプ現象などを書く気が失せてしまったけど、資料は面白いと思うので、いずれそのうちに。先に宮部みゆき「ペテロの葬列」(文春文庫、上下)を書いておきたい。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/2f/42/2131a3744606802372e34ee4a70906f5_s.jpg)
宮部みゆきはずいぶん読んでいるが、最近は長すぎるものも多く、文庫で読めばいいやと思ってしまう。映画を見た「ソロモンの偽証」はやっぱり読もうかと文庫全6巻を買ってしまった。(図書館では順番がめぐってきそうもないので。)でも、やっぱり長くて、先に4月に文庫化された「ペテロの葬列」を読んだ。こっちも長いけど、面白くて止められない。そういう本は連休などにふさわしい。
この小説は、「杉村三郎シリーズ」の三冊目。「誰か」という最初の本の段階では、こういう「大河小説」になるとは予想できなかった。2作目の「名もなき毒」が素晴らしい作品で、現代日本を描く大河小説の風格が出て来た。そして、次が今度の「ペテロの葬列」。最後の最後で、主人公に予想もしない転機が訪れる。とっても驚いたが、このシリーズは今後も続いていくようだ。
大規模なテロとか、連続大量殺人とか、絶対に日本で起こらないとは言えないけど、自分が経験することは多分ないと思う。ミステリーやドラマの中では、毎日のように殺人が起こっているけど、殺人などの犯罪は確かに日本は少ない。でも、「職場の中の変な人」(「名もなき毒」)とか「詐欺みたいな電話」(「ペテロの葬列」)はけっこう多い。それなら自分も経験があるという人が多いだろう。実は全国の男性教師のほとんどは、一度は家に変な電話をかけられているのではないか。(生徒や職員と問題を起こしたが、今なら示談で済みそうなのでとかなんとか。僕のところにもあったらしいが、「教頭」と名乗った時点でもうアウトである。理由は東京の教員なら判るはず。)
さて、杉村三郎シリーズは、そういう「ちょっとした犯罪」を扱うが、奥はものすごく深い。杉村という人は、好きになった女性が、実は「日本を代表するコンツェルン会長の愛人女性の娘」だった。結婚の条件として、児童書の編集者を辞めて義父の会社に入り、広報誌の副編集長をしている。だけど、時々会長の特命で「調査」という名の探偵みたいなことをすることがある。という絶妙のポジションで、会社と妻の一族を通して日本社会を見ている。
今回はその編集の仕事で、引退した財務担当元重役のインタビューを取りに、編集長とともに千葉まで出かける。その帰りにバスジャックに合う。このバスジャック犯が奇妙な人物で、何となく乗客の気持ちをつかんでしまう。が、いつもは気丈な女性編集長が何故か途中から様子がおかしい。ということで、このバス内には老若男女相集い、そこで現代日本の縮図ともなっている。バスジャック事件の描写は緊迫したもので、どうなるどうなると思いつつも、やはり決着は訪れるわけである。だが、それで本はまだ上巻の半分程度。残りが4分の3もあって、一体どうなるんだろう。心配することもなく、実に破天荒な展開となっていくのである。まあ、少し書いてしまうとバス内で「冗談」のように語られていた「乗客への慰謝料」が本当に送られてくるのである。
一体、犯人の真の素性は何なのか。杉村の調査が始まる。そうすると、この事件がある「大規模詐欺事件」と関わっているらしいことが判る。そして詐欺集団の黒幕として、昔の「企業戦士」を作るためのトレーニングに関わりがあるらしいことも。「人格改造」トレーニングなどが今も昔もあるが、そのような「人を思いのまま動かす」スキルをインチキ商法などに利用した人物がいたという設定である。いかにもホントらしい。そして、マルチ商法みたいなやり方の場合、「被害者であり加害者」という立場もある。自分もトータルとしてはつぎ込んだ金が戻ってないけど、その過程で友人知人を多数引き込んでしまい「加害者」でもあるような人である。この小説は、詐欺をめぐる重層的な人間模様をじっくり考える。
ストーリイ展開に乗せられてあっという間に読んでしまうが、実に面白いと同時に怖い。昔「豊田商事事件」というのがあった。老人をだましていく悪徳商法が問題となったが、そのさなかに肝心の会長が「右翼」を名乗る人物2名により刺殺された。その場面がテレビで撮影されていたという衝撃的な結末だった。1985年のことである。大分昔になるから、この小説の中の杉村もよく覚えてないと語っている。皆がよく知っていた事件もどんどん忘れられる。そして人をだます手口は巧妙化して無くならない。
その意味で、ミステリーとして面白いという理由ばかりではなく、このような「詐欺商法」をちゃんと知っておくためにも、ぜひこの本を若い人に読んで欲しい。そして、ミステリー以外の「人間観察」面で、老人も若者も、中小企業経営者も大学中退青年も、この小説は実によく書けている。人生で出会う人の数は限られる。本や映画を通して、自分の人間観察の技量を磨いておくほうがいい。上下巻合わせて、1390円。これを勧めても詐欺にはならない。元は十分取れる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/00/00/d2b62cf28bf62d3a771feef66e08ff44_s.jpg)
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宮部みゆきはずいぶん読んでいるが、最近は長すぎるものも多く、文庫で読めばいいやと思ってしまう。映画を見た「ソロモンの偽証」はやっぱり読もうかと文庫全6巻を買ってしまった。(図書館では順番がめぐってきそうもないので。)でも、やっぱり長くて、先に4月に文庫化された「ペテロの葬列」を読んだ。こっちも長いけど、面白くて止められない。そういう本は連休などにふさわしい。
この小説は、「杉村三郎シリーズ」の三冊目。「誰か」という最初の本の段階では、こういう「大河小説」になるとは予想できなかった。2作目の「名もなき毒」が素晴らしい作品で、現代日本を描く大河小説の風格が出て来た。そして、次が今度の「ペテロの葬列」。最後の最後で、主人公に予想もしない転機が訪れる。とっても驚いたが、このシリーズは今後も続いていくようだ。
大規模なテロとか、連続大量殺人とか、絶対に日本で起こらないとは言えないけど、自分が経験することは多分ないと思う。ミステリーやドラマの中では、毎日のように殺人が起こっているけど、殺人などの犯罪は確かに日本は少ない。でも、「職場の中の変な人」(「名もなき毒」)とか「詐欺みたいな電話」(「ペテロの葬列」)はけっこう多い。それなら自分も経験があるという人が多いだろう。実は全国の男性教師のほとんどは、一度は家に変な電話をかけられているのではないか。(生徒や職員と問題を起こしたが、今なら示談で済みそうなのでとかなんとか。僕のところにもあったらしいが、「教頭」と名乗った時点でもうアウトである。理由は東京の教員なら判るはず。)
さて、杉村三郎シリーズは、そういう「ちょっとした犯罪」を扱うが、奥はものすごく深い。杉村という人は、好きになった女性が、実は「日本を代表するコンツェルン会長の愛人女性の娘」だった。結婚の条件として、児童書の編集者を辞めて義父の会社に入り、広報誌の副編集長をしている。だけど、時々会長の特命で「調査」という名の探偵みたいなことをすることがある。という絶妙のポジションで、会社と妻の一族を通して日本社会を見ている。
今回はその編集の仕事で、引退した財務担当元重役のインタビューを取りに、編集長とともに千葉まで出かける。その帰りにバスジャックに合う。このバスジャック犯が奇妙な人物で、何となく乗客の気持ちをつかんでしまう。が、いつもは気丈な女性編集長が何故か途中から様子がおかしい。ということで、このバス内には老若男女相集い、そこで現代日本の縮図ともなっている。バスジャック事件の描写は緊迫したもので、どうなるどうなると思いつつも、やはり決着は訪れるわけである。だが、それで本はまだ上巻の半分程度。残りが4分の3もあって、一体どうなるんだろう。心配することもなく、実に破天荒な展開となっていくのである。まあ、少し書いてしまうとバス内で「冗談」のように語られていた「乗客への慰謝料」が本当に送られてくるのである。
一体、犯人の真の素性は何なのか。杉村の調査が始まる。そうすると、この事件がある「大規模詐欺事件」と関わっているらしいことが判る。そして詐欺集団の黒幕として、昔の「企業戦士」を作るためのトレーニングに関わりがあるらしいことも。「人格改造」トレーニングなどが今も昔もあるが、そのような「人を思いのまま動かす」スキルをインチキ商法などに利用した人物がいたという設定である。いかにもホントらしい。そして、マルチ商法みたいなやり方の場合、「被害者であり加害者」という立場もある。自分もトータルとしてはつぎ込んだ金が戻ってないけど、その過程で友人知人を多数引き込んでしまい「加害者」でもあるような人である。この小説は、詐欺をめぐる重層的な人間模様をじっくり考える。
ストーリイ展開に乗せられてあっという間に読んでしまうが、実に面白いと同時に怖い。昔「豊田商事事件」というのがあった。老人をだましていく悪徳商法が問題となったが、そのさなかに肝心の会長が「右翼」を名乗る人物2名により刺殺された。その場面がテレビで撮影されていたという衝撃的な結末だった。1985年のことである。大分昔になるから、この小説の中の杉村もよく覚えてないと語っている。皆がよく知っていた事件もどんどん忘れられる。そして人をだます手口は巧妙化して無くならない。
その意味で、ミステリーとして面白いという理由ばかりではなく、このような「詐欺商法」をちゃんと知っておくためにも、ぜひこの本を若い人に読んで欲しい。そして、ミステリー以外の「人間観察」面で、老人も若者も、中小企業経営者も大学中退青年も、この小説は実によく書けている。人生で出会う人の数は限られる。本や映画を通して、自分の人間観察の技量を磨いておくほうがいい。上下巻合わせて、1390円。これを勧めても詐欺にはならない。元は十分取れる。