クリスマスの絵本として、最初に載せたかったのは、バーバラ・クーニーが絵を描いている
この本、『おもいでのクリスマスツリー』 です。
お話の舞台になっているのは、北アメリカのアパラチア山脈(ノースカロライナ)のおくにある
小さな村、第1次世界大戦が行われていた頃の話です。
クリスマスのお祝いは国や地方、また時代によっても様々ですが、主人公の女の子、
ルーシーが住むこの村〈松ガ森〉の習慣は、毎年教会に立てるクリスマスツリーを、
村に住む人が順番で、選んでくるというものでした。ある人は、丸くて太いゲッケイジュ選び、
またある人はよい香りのヒマラヤスギ、という具合に。そして、ツリーを持ってきた家の子供が、
教会で行われるクリスマスの劇の中で、天使の役をすることも決っていました。
当番になったルーシーのパパは、ごつごつの岩にそだつけれど、天にとどくほど高くのびて、
クリスマスツリーにはぴったりの木としてバルサミモミを立てようと考えます。
そして、ルーシーと二人で、もうしぶんのない木を見つけ、ルーシーの髪に結んであった
赤いリボンをとって、しるしとして木に結び付けておくことにしました。
(表紙に描かれている赤いリボンをつけた木がそれです)
夏になり、ルーシーのパパが兵士となって戦場へ行ってしまってからが、このお話の
「本当の物語」の始まりと言えるかもしれません。男手がなくなり経済的にも厳しくなった
生活をルーシーのママは、知恵と手先を上手に使ってやりくりしていきます。
(コーヒーのかわりにハッカ茶にはちみつを入れて飲んだり、新しい服が作れないので
つぎ目をきれいな花のししゅうでかくしたり)
秋が来てもパパは帰らず、とうとう教会にツリーを立てる日がやってきます。
心配した牧師さんが、来年のために用意してあるヒマラヤスギを、今年切ってもいいと、
来年の当番が言ってくれた話をしにきます。明日にはどうしても、教会にツリーが
なくてはならないのです。
ルーシーのママはどうしたでしょう? 悲しい顔で牧師さんに詫びるわけでも、
妥協案に応じるわけでもなく、こういうのです。
「トムはやくそくをきちんとまもる人です。今年は、
うちでツリーをたてさせていただきます。」
ママはゆずりませんでした。
毅然としてそう牧師さんに告げたママこそ、このお話の本当の主人公ということが
できるかもしれません。このあとの、夜更けから朝陽が昇るまでの、5ページにわたって
描かれている風景の美しさと、ママの誇りに満ちた表情、ルーシーの満ち足りた顔は数ある
クーニーの描く「素晴らしい場面」の中の1か2に位置するものだと、私は思います。
ほんとうに美しく、ほんとうに素敵です。
ルーシーがようやくベッドに入った頃、牧師さんがやってきて、高い岩山にはえていた
バルサミモミが、教会の鐘楼のところにあったと言いにきます。ルーシーのママは、
だから言ったでしょ、トムはやくそくをまもる人だって。なんてことは言いません。
「まさか! ほんとうですか! なんてふしぎな。」
ツリーはきれいに飾られ、クリスマスの劇も無事終わります。望みとおりのプレゼントを
手に教会を出ようとするルーシーに、もうひとつとてもよいことが待っています。
「おもいでのクリスマスツリー」という題名を決してわるいとは思いませんが、
英語のタイトル『THE YEAR OF THE PERFECT CHRISTMAS TREE』を意識して読み返すと、
物語の力強さが違ってくるような気がして、あらためて、題名の大切さを知らされたようでした。
このクリスマスツリーは、ルーシーという女の子の思い出の木であると同時に、
〈松ガ森〉全体の特別な年の、思い出でもあるのです。
裏表紙を見ると、すっかりきれいに飾られたツリーのてっぺんに、金色の星ではなく、
天使の衣装を着たルーシーそっくりの人形がのっています。これも、この年以来の
〈松ガ森〉の慣わしとなったそうです。今でも、変わらず続いているのでしょうか・・・