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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

二度、出会う

2006-11-13 16:08:38 | 好きな本

 俳句の世界に居た友は、23歳の時に、春夏秋冬をしっかり感じるために、金沢という地を選びました。そこで彼女は「工芸」に出会います。

 私が、ひとりのともだちとして知っていたことも、まるで知らなかったことも、この本には書かれていました。


   
  『手しごとを結ぶ庭』
     稲垣早苗 文


 文章を書くことで、どうにかして自分というものを表現していこうと試みた日々に、とても近くにいた人が、ある日、本を出す事に決ったという知らせ。
 それは、幼い頃大切にしていたものが、ひょっこり見つかったのは嬉しいけど、蓋の角が欠けていて、元のようには直せないと知った時の、胸に広がる蒼い影に似ていました。ちくっと刺さるトゲも、感じなかったといえば嘘になります。
 しかし、彼女が過してきた年月と、わたし自身が送ったきた日々を、はかりにかけてどちらが重いかなんて比べることはできません‥。
 
 
 山本祐布子さんが装丁した美しい本を手にとり、種・芽吹き・施肥・切り戻し・花と名づけられた目次を追っていくだけで、その趣向に楽しくなりました。よく知っている友が書いたという意識はしだいに薄らぎ、工芸について、人の手が作ったものについて、もっと知りたいという気持ちが増している自分に気が着きました。そして、残しておきたい文章の書かれたページの端を、そっと折りました。

 たとえば、「美しいもの」というタイトルがつけられたページで、漆作家の赤木明登さんの言葉を紹介しています。

 「僕は今、心から美しいものを作りたいと思う。人が毎日見ているもの、人が毎日使っているものは、人の心の奥深いところに必ず影響を与える。
 美しいものは、人を幸せにできると信じている」

 
この文は、まっすぐに、いきなり胸を突きました。
 美しいものを、美しいといえる心を持ちたいと願いながら、実際の暮らしはどうなんだろう、日々使うものを、安易な理由と安価だけで選んでいなかっただろうか?
 美しいものをしっかりと見極め、美しいものと暮らしているにちがいない稲垣さんが、俄かに羨ましくなりました。それは、胸に刺さっていたちっぽけなトゲの痛みなどふっとぶ程のものでした。

 また「よきもの」のところでは、弟の棺に何を入れてあげようかの問いから、こんな答えを引き出しています。

 どんなに「よきもの」を作っても、それを持って旅立つことは出来ない。どんなによきものを得ても、それは生きている者が使ってこそ存在出来るだけだ。(中略)
 人もいずれ土に還る。ならば、共に土に還るもので、よきものに出会いたい。それは永遠に持ってはゆけないものだけれど、よきものと結ばれた時間の幸福は、生きている者の心を確かに照らす。
 

 早苗さんが経験し、早苗さんが想ってきたこと通して、私は今まで気付かなかったこと、見落としていたこと、知らなかったことを、深く感じることができるようになっていきます‥。

 二度、出会う。

 稲垣早苗さんという人に、私は「また」出会ったのだと思います。
 細いけれど、切れずに繋がっていた一度目の出会いを大切にしつつ、心が感じた二度目の出会いも、大切にしていきたいと願っています。

 
 最後に。自分への戒めにしたい言葉をひとつ、いただきます。

 作家を紹介する文章を、短くともじっくり書こう。浅い気持ちを深く装わないように。

 

 

コメント (4)
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