prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「フリックストーリー」

2008年09月17日 | 映画

主演スターでアラン・ドロンくらい犯罪者の役をよくやり、しかもサマになる役者もあまりいないと思うが、それが警官の側にまわったあたりで、デカも犯罪者も大して違わないという作りであることがわかる。事実、ドロンの同僚の刑事は平気で容疑者を拷問するし、拷問をたしなめるドロンも密告者・警察のイヌを仕立てるのにはためらわない。密告したために殺される奴も出てくるのだし。
以前、ドロンの秘書が謎の死をとげたいわゆるマルコビッチ事件の時、実際にドロンが警察でぎゅうぎゅう言わされた恨みが出ている気がする。

警察バッジの代わりに「POLICE」と書かれたメダルを見せるのが珍しい。「スーパー刑事」という設定なので、叙勲されたメダルなのだろうか。

冷酷非常な殺人鬼役のジャン=ルイ・トランティニャンが好演。つかまえた後、奇妙に仲がよくなるというのも説得力がある。
ドロンがタバコを吸いっぱなしというのも'75年の映画らしい。

ドライブ・インの小さなレストランでの捕り物が、ドロンの情婦が何の気なしに弾くピアノのエディット・ピアフのメロディが殺人鬼の心を一瞬解かす描写や、井戸みたいに手動で入れるガソリンスタンドなどフランス映画らしい世話物的感覚が入っていて面白い。
ずうっとドロンがトランティニャンに背を向けっぱなしでどう接近するのかという人物配置と動かし方、キッチンに出入りするドロンを追うカメラが自然に壁に並んだ包丁を捕らえるなど、演出もなかなか冴えている。

抗生物質が不足しているのを密告者を仕立てるのに利用したり、やたら組合運動が盛んな世相など、戦争が終わってまだ間もない雰囲気がところどころに出ている。
(☆☆☆★)