prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ブンミおじさんの森」

2011年04月03日 | 映画
今の主流になっているデジタル技術を駆使した大方のファンタジーは美学的には「くそリアリズム」だが、これは逆に昔の手作り感覚の必ずしもリアルではない技術をあえて採用している。
死んだ人が当たり前のように隣の席に二重露光で現れ(写真↑)、生きている人間がその前に手を伸ばすとその手もバックがだぶって半透明になるなど、技術的なミスと思われかねない「素朴」な技法だ。
猿神のメイクが毛を貼り付けましたというのが丸わかりだったり、ナマズの精が水面に浮かんできてばちゃばちゃやるのが見えそうで見えなかったりするのも同様だが、作り手自身はちっとも「素朴」ではなくて十分西洋的基準でのインテリで、リアリズム(合理主義=西洋にも通じる)離れするために十分計算した上でやっていることだろう。

やはり猿の神が目の光だけが赤く見えるのは「もののけ姫」の猩猩みたいだったり、「天空の城ラピュタ」ののような光る石がいっぱいの洞窟が出てきたり、ちょっと宮崎駿ぽい。ちゃんと時流に目配せしてますという感じ。

共産兵を「虫のように」(というのはこの場合必ずしも軽々しくという意味ではない)殺した、という述懐が出てきたりするのも、合作というばかりでなく西洋の影響とつながりを十分意識しているのだろう。なんだかトライ・アン・ユン(「ノルウェイの森」)あたりと共通する、ヨーロッパのインテリ向けのアジアテイストという気がする。2010年カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作。

本当にシンプルなしかも効果的な技法で作られたファンタジーとしては、インド映画(インド南端のケララ州の映画といった方がいいかもしれないが)、「魔法使いのおじいさん」という大傑作があります。今月24日に川崎ミュージアムでアラヴィンダン監督特集の中で上映されますので、ほかのアラヴィンダン作品とともにぜひどうぞ。
(☆☆☆★)


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