歌笑という落語家は小林信彦の「日本の喜劇人」の渥美清の項で知った。小林は実在の歌笑を知っていて映画の渥美清と比較すると、かなりずれがあるらしい。
たとえば歌笑がジープにはねられて死んだのは1950年で、バックで流れる「銀座カンカン娘」がヒットしたのは1949年といった具合だが、歌笑を知らない身には考証は難しい。YouTubeを検索してみても映像はなく音声しか残っていない。
民衆が歌笑を英雄視していたような描き方は渥美自身「アラビアの ローレンス 」みたいな歌笑だったろ、と小林に言っていたらしいが、歌笑を持ち上げた民衆が同時に引き下ろしもしていた記憶のある人間には違和感があったということか。
生前の歌笑のことは知らず妙な英雄視というのは今の寅さん=渥美清と一周まわって妙に重なっているみたい。
なお1966年のテレビドラマ「おもろい夫婦」で再度歌笑を演じている。
脚本の鈴木尚之は同時期に中村錦之助主演、内田吐夢監督の「宮本武蔵」シリーズを書いていて、腕ひとつ芸一本で底辺から這い上がる男の意地と女性に対する純情という点で渥美清の原型になるキャラクターに共通するところがあったのではないか。
渥美清は顔がおかしい(ファニー)のに対して声と口跡はすごく良い。落語家役などぴったりに思えるのだが、高座に上がるだけでまだ構えた感じになる。
気のせいか、兄弟子役の佐藤慶が立川談志に似て見えた。