“Mabel”
(“W. Somarset Maugham ; Collected Short Stories Volume 4”(Penguin Book)に収録)
婚約者から逃げ続ける男が主人公というので、どんな話かと思って“Mabel”を読んでみたが、まったくつまらない作品だった。
これでは、だれも翻訳しようという気にはならないのも当然だろう。
東南アジアの植民地で働くイギリス人ジョージがイギリス在住の女メイベルと結婚することになった。しかし、現地の状況が白人娘を迎えるのにふさわしくなるのを待っているうちに7年も経過してしまった。
そのため、いざ彼女が現地に到着する頃には彼の熱はすっかり冷めていた。しかしそのことを言い出すことができず、男は、ビルマからシンガポール、ラングーン、サイゴン、バンコク、香港、と逃げ続ける。
ついには、横浜、さらに再び中国に渡って、上海から揚子江沿いに、重慶、漢口、成都、最後はチベットにまで逃げるのだが、どこに行っても彼女からの手紙が届き、やがて彼女がやってくる。
そして、とうとうチベットで追いつかれて結婚する羽目になり、それから8年後に、ビルマのパガンという港町のクラブで、停泊中の船を下りて一杯引っかけに来たモーム氏と出会う。・・・
それだけの話である。映画では、“パピヨン”や“逃亡者”などといった「逃亡もの」というジャンルがあるが、逃亡ものとしても出来は悪い。
逃亡の理由に説得力がなく、逃げ方にもサスペンスが感じられないのである。
最後にチベットで結婚せざるを得なくなるというのも、工夫がない。
まあ、横浜のGrand Hotelが出てくるのが、ご愛嬌か…。
“Mabel”の中では“Grand Hotel”となっているが、当時外国人が宿泊する横浜のホテルといったら山下埠頭の“Hotel New Grand”だろう。
* 写真は、適当なものがなかったので、主人公ジョージが横浜に逃げてきた時に泊まったと思われるHotel New grandの外観。
ちなみに、この写真に写っている3階の角部屋は、敗戦後の占領初期にマッカーサーが宿泊した、いわゆる「マッカーサー・ルーム」(315号室)である。
** などと書いたのだが、気になってGoogleで“横浜グランドホテル”と検索してみたら、ちゃんと“横浜グランドホテル”というのがあった。
明治22年の創業で、フランス人が経営しており、もっぱら外人を相手としていたが、関東大震災で焼失したという。
“ホテル ニューグランド”は別会社らしい。というより、ホテル・ニューグランドが設立されたために、グランド・ホテルは再建を断念したとある。
でも、せっかくだからニューグランドの写真は残しておこう。