Norah ; Of course, I knew you never loved me as much as I loved you.
Philip ; Yes, I'm afraid that's usually the case. There's usually one who loves and one who is loved.
モームもの、今回は“映画で英会話--人間の絆 Of Human Bondage”(朝日出版社、2000年)。
今でも、アマゾンに中古本が500円くらいで出ているから、《お宝》度はあまり高くはないかもしれない。
レスリー・ハワードとベティ・デイビスのビデオ(CD-ROM)2枚に、英文と日本語の対訳シナリオが載った本がついたもの。
この本、実はキム・ノヴァクが出演していた“人間の絆”だとばかり思って注文したのだが、届いてみると何と、1934年製作の古いものだった。
若い頃のモームと思しき医学生が思いを寄せる女ミルドレッドを演じているのが、キム・ノヴァクでなくて、ベティ・デイビス。
あの“何がジェーンに起ったか?”の、薄気味悪いお婆さんである。
しかし、このベティ・デイビス演じるミルドレッドがちっとも魅力的に見えない。こんな女に一途に思いを寄せる若きモームがただのお人好しの馬鹿に見えてしまうのである。
先日BSでヒチコックの“めまい”をやっていたが、あの映画でジェームス・スチュアートをだます女を演じたキム・ノヴァクこそ、「魔性の女」である。
ベティ・デイビスはただの“ヤな女”にしか見えなかった。
やっぱり、キム・ノヴァクでなければ。
ということで、途中で放っぽり出したままになっていたが、今年のゴールデン・ウィークは“サマセット・モーム週間”(?)ということで、義務的に見てしまうことにした。
そして予想通り、つまらなかった。
ミルドレッドより、後から出てくる未亡人ノラや、結局フィリップが結婚を申し込むことになるサリーのほうが100倍好ましい女に描かれている。
途中のどこかで、「何かに捕われている」というニュアンスで“bondage”という台詞が使われていたような気がするが、原作の“bondage”はそんな意味ではないだろうか。
(後でシナリオを探してみると、ノラがフィリップにむかって、「あなたはミルドレッドに縛られている」という台詞があった。おそらく、ここの“you were bound to her”を“bondage”と聞き間違えたのだろう。)
ずっと放っておいたのが気になっていたので、とにかく見終わってホッとした。
* 写真は、“映画で英会話--人間の絆 Of Human Bondage”(朝日出版社、2000年)の表紙。向かって左がベティ・デイビス、右がサリー役のFrances Deeという女優さん(らしい)。勝負は明らかだと思うのだが…。
冒頭の台詞は、本書の76頁にある。
※ この言葉はモームの恋愛観を示すもので、「赤毛」におけるニールソンのサリーに対する思いも、「人間の絆」と同様に、実現することのなかったモーム自身の相思相愛への憧憬が描かれていると、行方行夫「英文精読術 Red」の解説に書いてあった(25頁以下。どこかに「人間の絆」のこの文章への言及もあったが見つからない)。
行方によれば、モームが理想とした女性は「お菓子と麦酒」のロージーと、「人間の絆」のサリーだったとある(「モームの謎」岩波現代文庫77、85頁)。ぼくはロージーも忘れがたいが(ハーディーの「テス」を読んで乳搾り娘に恋したというモームの前書きが印象的だった)、上にも書いたように「人間の絆」のノラが今でも印象に残っている。
※2024年5月16日 追記