ちょうど1年前、パリのカルチェラタン地区にある、国立クリュニー中世美術館を訪ねた。三世紀の(セーヌの船主たちのギルドでつくられた)ローマ公衆浴場の遺跡が現在も残っているが、14世紀に、その遺跡を買い取ったのがグリュニー大修道院長で、遺跡を残しつつ館を建てた。フランス革命後は、美術蒐集家のものになり、彼の死後、国の所有となり、現在の中世美術館となった。そこの、目玉展示が、タピスリーのモナリザと讃えられる”貴婦人と一角獣”だ。まさか、その1年後に日本で再会できるとは夢にも思わなかった。だから、今回の展覧会はとてもうれしかった。
まず、クリュニー中世美術館でのことを思い出してみよう。そのときの、ぼくのブログ記事(2012.5.2)から。
美術館の二階、第13室の”貴婦人と一角獣”という6枚連作のタピスリーがある。このタピスリーは1882年に中部フランスの城で発見された、1400年代の作品で、作家ジョルジュ・サンドが取りあげたことで有名になった。一室をぐるりと囲むように展示されている、6枚のタピスリーにはそれぞれ意味があり、味覚、聴覚、視覚、嗅覚、触覚の五感、そして”欲望”を表現しているという。真紅の地に、角が一つの想像上の動物である一角獣と貴婦人が中心に描かれ(織りこまれ)ている。最後のタピスリーは、貴婦人が首飾りを宝石箱にしまう様子が描かれ、欲望を断ち切るという意味があるようだ。離れてみるのもいいし、近づいて、精密な織りのすばらしさを堪能するのもよい。撮影可能だったのがうれしい。以下、写真で紹介したい。とある。今回の展覧会では写真を撮れなかったので、ついでにそのときの写真も載せてしまおう(笑)。
五感

我が唯一の望み
さて、国立新美術館での展示はどうだったか。まず、クリュニーの展示室より、ずっと広い、明るい部屋でみられたので、よりよく、貴婦人や一角獣の細かな表情や、背景の”千花模様”の植物や動物を観ることができた。一方で、(中世の雰囲気のある)クリュニーの薄暗い部屋に飾られているときに感じた、ある種の気配が、ここでは少し違って感じられるのは、いたしかたがないことだろう。
しかし、それぞれのタピスリーの図柄等の観察に関しては、十分すぎる配慮がされている。まず、高画質の画面でそれぞれのタピスリーの細部を拡大してみせてくれる。そして、別室では、千花模様に描かれている植物のそれぞれを抜き出して、花の名前を教えてくれる。オダマキ、クレマチス、マーガレット、ヒヤシンス、白いハナダイコン、ピンクのハナダイコン、とまだまだ続く・・・そいて、鳥は、カササギ、ハヤブサ、キジ、オーム等。動物はウサギ、キツネ、コヒツジ、サル、シシの子、もちろん犬も。さらに樹木はマツ、ナラ、オレンジ、ヒイラギ。
漠然とみていて、気づかなかったものも多い。で、また、タピスリーの部屋に戻り、それらを確認する。なるほどと、何度か繰り返す。これも、ここだからできる作業。随分、時間をかけて楽しんでしまった。また、最後の”欲望”(我が唯一の望み)の意味は、諸説あるということで、自分流の解釈を考えるのも面白い作業かもしれない。ぼくは、去年のブログ記事の考えでいい(笑)。でも、もしかしたら、そのうち、突如、新説を出すかもしれません(笑)。
昨日、フラワーセンターの帰り、図書館で芸術新潮の最新号を覗いた。”貴婦人と一角獣”特集号だったので。世界三大タピスリーの、残りの二つ、”一角獣狩り”と”アンジェの黙示録”の説明もあった。前者は、”貴婦人と一角獣”と同じ作者であるようで、ニューヨークのクロイスターズ美術館にある。これも、昨年末、観てきたばかり。やはり美術館自身が中世のフランスの修道院の遺構をもとにつくられている。ついでながら、そのとき撮った”一角獣狩り”の写真も載せておきます。

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クリュニー中世美術館の雰囲気
これからは、巴里に行ったときは必ず、ここに寄ることになりそう。現地のガイドさんが言っていた。ここをコースを入れない日本人ツアーが多いんですよ、もったいないと思います。たしかに。
さて、今日は、巴里ではなく、上野にでも行ってこようかな。