鎌倉の鏑木清方記念館で”清方の作品から学ぶ、日本画の描き方”展が開催されている。展示室内に、このテーマに沿った下絵と並べた本作品など、名品が並べられていて、それはそれで、いつもながら楽しく鑑賞させてもらった。ただ、今回は、主展示ではなく、ロビーの副展示ともいうべき作品にも心を惹かれた。
それは、清方の美術評論文である。清方が文筆家であることは良く知られているが、婦人公論の美術欄を担当して、評論を書いていたことは知らなかった。それらの雑誌が、そのページを開いた形でガラスケースの中に展示されている。たとえば、”美人画解説/小林古径作・婦人図”(19巻3号)、勝川春章作・ほととぎす(19巻4号)、土田麦僊作・林泉舞妓(19巻2号)、鳥居清長作・隅田川(19巻8号)である。
昭和9年の雑誌だから活字も小さく、おまけにガラス越しだからメモするのに苦労したが、ひとつだけ、勝川春章論だけ紹介しておこう。この絵は、朱塗りの行燈の下で、栄花物語をひもときながら、ほととぎすの声を聞いている、ふたりの女を描いている。この絵もそうだが、春章の描く女は豊かな気品に溢れている。浮世絵畑で育っているが、英泉、国貞、歌麿と同じ浮世絵師と呼ぶのはどうか、彼らとは違い過ぎている。たとえば、応挙を浮世絵師と呼ぶようなものである。今日の研究者、学者はその辺の理解がない。こう言った主旨の論文である。ちょうどこの絵の、清方による模写が展示室の方にある。”婦女風俗十二か月の内四月 杜鵑”。戻って、この絵をみると、たしかに、そういわれれば、という雰囲気である。その横には、歌麿の三作品、鷺娘、道成寺、三番曳の摸写もある。清方がこの絵師たちに私淑していたことがよくわかる。
ほかの美術評論も、いずれも作者の良さをほめたたえたものばかりで、批判めいたものは一つもない。ときおり、自分の物差しが一番だと誤解して、切りまくる評論家をみかけるが、みっともない。物差しなど無数にあるのだから。
評論だけではなく、”画家には特殊な天分が必要”(婦人世界)といった文章もある。どこか毛色が変わっている、異色がある、個性があるというか、つまり、なんらかの特長をもつ、こういう人が真面目に勉強すれば見込みがある、と書かれ、実際どういう勉強をすればいいかというと、それは次ページになっていて読めなかった(笑)。
ということで、いろいろ楽しめた展覧会でしたよ。
桜もみじ(下絵とともに)
にごり絵、風流線、一葉女史の墓
ここの入場券をもっていくと、そごう美術館の国芳展(8月1日~30日)が200円割引してくれるとのことで、とってある(汗)。