10数年前、日本人を父とする3歳の男の子を連れた、
妊娠しているフィリピン人の女性の母子をを受け入れたことがあります。
男の子は日本で生まれ、戸籍はもちろん、国籍もありませんでした。
彼女は岐阜市民病院で二人目の男の子を生み、
多く人の善意に支えられて、フィリピンに帰っていきました。
そのとき、法や制度を調べたりあちこち走り回り、
法律にも守られず、なんの権利もない人たちが
制度の谷間におとしいれられ、日本にいることに、
強いいきどおりを感じていました。
法律に見捨てられ、存在しないことにされている、
無戸籍、無国籍の人たちは、今も日本にたくさんくらしていることでしよう。
天童荒太さんの「私なりの二つの矛盾した結論」に共感します。
「一つは、各地域で小さな共助・共生社会をつくっていくこと。
無戸籍だけでなく、虐待、貧困、介護、孤独死など、あらゆる問題の一つの解として、
小回りのきくネットワークが必要になってくるでしょう。
競争社会が人を孤立・分断化させていく方向にあるなかで、
人々を結びつけていく社会を狭い範囲でつくっていく。・・・」
「もう一つは、そんな人の思いやりや優しさを諦めることです。
今まで人は、個人のおせっかいと優しさに頼ってきた。
逆説的だが、それが本当に助けを求めている人たちに手を差しのべることを遅らせ、鈍らせている。
たまたま役所にいい人がいた、たまたま付き添ってくれる弁護士がいた。
そんな人が全市町村に一人ずつでもいるなら別ですが、そういう人は特別です。
日本中どこでも救いの手を伸ばせるようにするには、法律で人々のおせっかいや優しさを担保しなければ無理です。・・・」
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妊娠しているフィリピン人の女性の母子をを受け入れたことがあります。
男の子は日本で生まれ、戸籍はもちろん、国籍もありませんでした。
彼女は岐阜市民病院で二人目の男の子を生み、
多く人の善意に支えられて、フィリピンに帰っていきました。
そのとき、法や制度を調べたりあちこち走り回り、
法律にも守られず、なんの権利もない人たちが
制度の谷間におとしいれられ、日本にいることに、
強いいきどおりを感じていました。
法律に見捨てられ、存在しないことにされている、
無戸籍、無国籍の人たちは、今も日本にたくさんくらしていることでしよう。
天童荒太さんの「私なりの二つの矛盾した結論」に共感します。
「一つは、各地域で小さな共助・共生社会をつくっていくこと。
無戸籍だけでなく、虐待、貧困、介護、孤独死など、あらゆる問題の一つの解として、
小回りのきくネットワークが必要になってくるでしょう。
競争社会が人を孤立・分断化させていく方向にあるなかで、
人々を結びつけていく社会を狭い範囲でつくっていく。・・・」
「もう一つは、そんな人の思いやりや優しさを諦めることです。
今まで人は、個人のおせっかいと優しさに頼ってきた。
逆説的だが、それが本当に助けを求めている人たちに手を差しのべることを遅らせ、鈍らせている。
たまたま役所にいい人がいた、たまたま付き添ってくれる弁護士がいた。
そんな人が全市町村に一人ずつでもいるなら別ですが、そういう人は特別です。
日本中どこでも救いの手を伸ばせるようにするには、法律で人々のおせっかいや優しさを担保しなければ無理です。・・・」
無戸籍の人々 国は法改正含めた救済を 2014年09月07日 西日本新聞 想像できるだろうか。戸籍を持たないまま社会で生きていくことを。学校教育から住居、医療、就職、運転免許取得まであらゆる面で制約され、不自由極まりない。 実際にそうした境遇にある人々が各地で記者会見を開いて窮状を訴えたり、関係機関を訪ねて制度の改善を求めたりしている。法務省もようやく重い腰を上げ、初の実態調査に乗り出した。まずは早急に全容を把握してほしい。 どうして無戸籍になるのか。最大要因は離婚後300日以内に生まれた子どもは前夫の子と推定する民法の規定だ。夫の暴力(DV)などで離婚した女性は別の男性との間に子どもができても、300日以内だと戸籍上は前夫の子となるため、出生届を出さない場合がある。夫から逃げていて正式な離婚が遅れるという事情もある。 戸籍を取得するため実父との親子関係を確定させる調停などの手続きもある。だが前夫の協力や費用も必要で諦める母親も少なくない。支援団体によると、毎年約3千人が無戸籍となり、うち約500人が長期化して総数は現在1万人を超す。看過できない数字だ。 支援団体は民法改正を求めている。民法の規定は子どもの親子関係を早期に確定し保護するのが目的だ。しかし明治時代に制定された法律の規定であり、離婚・再婚やDVの増加といった社会の変化に対応すべきだ-という主張である。出生届の父の欄が空白の場合は民法の推定規定の例外にするという改正案も公表されている。 法務省は、あくまで個別の夫婦の事情で生じた問題であり、無戸籍状態を脱する手続きもあるとして法改正には慎重だ。確かに法務省のホームページには手続きの説明もある。にもかかわらず無戸籍の人は増え続けている。現行制度の限界ではないのか。 戸籍がなくても住民票は自治体の裁量でつくれる。だが、そんな仕組みも知らずに家族で孤立し、学校に通えない子どももいる。背景にある貧困問題も見逃せない。 国は民法の改正を含めた幅広い救済策を検討すべきだ。 =2014/09/07付 西日本新聞朝刊= |
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(インタビュー)見えない子どもたち 作家・天童荒太さん 2014年9月11日 朝日新聞 出生後、親が戸籍を作らず、学校に通わせてもらえず、社会の枠外に置かれた“見えない子どもたち”がいる。子どもの権利が保障されているはずの先進国日本で、なぜそんな境遇に置かれるのか。私たちはどうすればいいのか。家族や親子関係を通して現代社会に向き合ってきた作家の天童荒太さんに聞いた。 ――現代の日本で、政府からも自治体からも存在を認知されていない子どもたちがいることは驚きです。 「私もこうした子どもの存在をほとんど知りませんでした。国や社会による救済は進まず、成人して就職、結婚、出産など、様々な面で苦しんでいるに違いありません。なぜ彼らの存在が表面化しないのか。まず親に後ろめたさがあり、積極的に知ってもらおうとしない。子ども自身はどうしていいかわからない。そして政治も、当事者意識が乏しく、選挙の争点にもならないから動きが鈍い。それらが重なり合って、問題が顕在化しないのでしょう」 「行政の現場で、感づいている人もいないわけではないでしょう。実際に事件などで表面化しているケースもあります。にもかかわらず対応が遅れているのは、かなり情緒的な、人間くさい理由が立ちはだかっていると感じます」 ――人間くさい理由とは。 「彼らの救済には新規立法や法改正が必要でしょう。しかし法律は条文こそ冷たくて理知的だが、実は怒りや悲しみなど、立法者の感情や欲求が原動力になっています。無戸籍・不就学児の問題は、立法を担う人たちの精神的共感性を阻むものがあるのです。親のDV(家庭内暴力)や離婚が原因の場合は、男女の好いた好かれたの性愛の問題が根っこにあるという受け止め。親の経済力のなさや無知が原因なら、もっとしっかりしろという親の責任論。不利益を被る子どものことを忘れてしまって、感情的に深く共感できないことが、法整備に踏み出せないハードルになっているのだと思います」 ■ ■ ――子どもの問題は親の自己責任なのでしょうか。 「誰しも他人の身になって考えるのはすごく苦手で、基本、自分を基準にして考えます。とりわけ、頑張って勉強して働いて、キャリアを築いてきた人にとっては、頑張らない人は怠け者に映る。でも、頑張りたくても頑張れない人がいるんです。生命体はすべて同じ形に作られているわけじゃない。どうしても生まれてくる時に差異が生じる。みなが完全ではないし、同じ条件下で成長していくわけじゃない。それを認めないといけない。頑張れる性格とか集中力は、自分でつかんだと思われていますが、実はそれはとても恵まれたギフトなんだという認識がない。結果として頑張れなかった人を責めてしまう」 「出生届一つ出すのにも『なんとなくできなくて』という人がいるんです。『なんで?』と思うでしょうが、怠けているんじゃありません。できないんです。親自身が子ども時代にネグレクト(育児放棄)や貧困にさらされる状況があったのかもしれない。引っ込み思案になったり世間が怖くなったりして、自分の権利をしっかり主張したり、子どもの権利を得ようとしたりすることができない人たちが確実にいます。その人たちを責めても仕方がないんです」 ――親の自己責任でなければ、どうとらえればいいのでしょうか。 「国や社会の原則に戻ることです。子は国の宝であり、人は社会の礎であるということについて、政治家や立法にかかわる皆さんは『その通り』と答えるでしょう。でも実際に国の宝として子どもたちを育む態勢がとれているか。親任せにしていないか。子どもたちをみんなで大切にすべきものという共通原則を持てていない、あるいは失っているんです。子どもたちが不利益を被っているのをただ黙認しているような姿勢は、あえて厳しい言葉を使えば、国や社会が子どもをネグレクトしているに等しいと言えるのではないですか。親をみるのではなくて、みんなの子だという感覚で、しっかり法律で保護すべきだという意識の転換がとても大切です」 「無戸籍・不就学の子どもたちは、これからもっと増えます。これは児童虐待にも通じる問題です。虐待が増えているのは、虐待を減らす政策をとってないからです。児童虐待防止法ができて、児童相談所の人員を増やし、警察・病院・学校の連携を心がけるようにしていますが、それは虐待を減らそうとしているのではなくて、虐待が起きた後の対処なんです。たとえるなら、上流のダムが壊れて水があふれてきている時に、下流で土嚢(どのう)を懸命に積もうとしているようなものです。土嚢の積み方が多少悪かったり、積む人が足りず現場が疲弊したりした時に悲劇が起きる。社会やマスコミは下流での対応が悪いと非難するが、問題の根本は上流のダムの決壊を放置していることなんです」 ■ ■ ――社会の何が決壊しているのでしょうか。 「日本など先進国は経済を優先する形で、共助・共生社会から競争・格差肯定社会へとかじをきってきました。学校時代から能力によって分けられ、格差を付けられる。それによって人々は孤立化し、閉じ込められる。子どもたちは思春期のころから、生存できるかどうか、自己肯定できるかどうかの瀬戸際に追い詰められる。でも、誰もが競争に勝てるわけではない。自己肯定感を奪われる子どもたちがこれからますます増える社会を、政府および経済界は選択したのです。国民の半数以上もそれを是認するか、無関心の中で受け入れてきている。その前提を、私たちは改めて意識した方がいい」 「このままだと、この国は早晩、滅びの道に入っていく気がしてなりません。共助と共生を忘れた社会、自分の能力や存在を肯定できない人間を大勢生み出している社会に、どんな希望があるのか、むしろ教えてほしいくらいです。自分たちを受け入れようとしない社会に、だったら戸籍もあえて入れない、年金も税金も払わない、という人が増えても不思議ではないでしょう」 ――修復するにはどうすればいいのでしょうか。 「私なりの二つの矛盾した結論を言います。一つは、各地域で小さな共助・共生社会をつくっていくこと。無戸籍だけでなく、虐待、貧困、介護、孤独死など、あらゆる問題の一つの解として、小回りのきくネットワークが必要になってくるでしょう。競争社会が人を孤立・分断化させていく方向にあるなかで、人々を結びつけていく社会を狭い範囲でつくっていく。隣近所や仲間同士で自分たちを肯定して、能力や経済力以外にも様々なあり方を認めたり受け入れたりするグループをつくる。互いにおせっかいをやけるグループをつくっていくのです」 「もう一つは、そんな人の思いやりや優しさを諦めることです。今まで人は、個人のおせっかいと優しさに頼ってきた。逆説的だが、それが本当に助けを求めている人たちに手を差しのべることを遅らせ、鈍らせている。たまたま役所にいい人がいた、たまたま付き添ってくれる弁護士がいた。そんな人が全市町村に一人ずつでもいるなら別ですが、そういう人は特別です。日本中どこでも救いの手を伸ばせるようにするには、法律で人々のおせっかいや優しさを担保しなければ無理です。たとえば役所に戸籍の相談に来る人がいたら、問題解決まで一緒に動く。おせっかいに法的根拠を与え、予算をつけるのです。法律が迎えにきてくれないと救われない人が多い。役所の現場でも、おせっかいをやきたいけどやける根拠がなくて困っている人が多いのではないですか」 ■ ■ ――法律を作らなければおせっかいは期待できないのですか。 「児童虐待防止法も当初は必要ないと思われていたはずなんです。虐待を疑われる子を見つけたら通報して、救うなんてことは当たり前だと思われていた。でも現実はそうではなかった。通報を義務にしないと、人はおせっかいや優しさを発揮できなかった。義務とした今でさえ、通報をためらって手遅れになるケースが次々と生まれています」 「競争・格差肯定社会ですから、自分たちだけ能力を持てば幸せを維持できると思われています。だから問題が起きた時、他人が入ってくることを面倒くさがり、自分たちだけでなんとかしようとする。人が入ってくる経験がないから、助けを求めることを想像できず、回復不能なまでに悪化させてしまう。社会、家族がどんどん閉じてきているんです。社会も家族も外へ開いていかないと、生きづらくなるばかりです。虐待が明らかになった時、なんで『助けて』って言わなかったのかと言われますが、社会が閉じてきているから、言えなくなっているんです」 「いまは短期的に見て、損をすることを嫌がる社会ですが、みんなで負担を分かち合った方が社会は長く持つのです。自分以外で困っている人がいても無関心のまま放っておけば、社会の出費がかえって増えて、いずれ自分の不利益になることに早く気づかないといけません」 (聞き手・中塚久美子) * てんどうあらた 1960年、愛媛県生まれ。「家族狩り」で山本周五郎賞、「悼む人」で直木賞。著書は他に「永遠の仔(こ)」「歓喜の仔」など。 |
「無戸籍者」の窮状を救え 法務省が実態調査を開始 仕事限られ、生活に支障 小中学校に入学できない場合も 2014年09月09日 BLOGOS 法務省は、役所に出生届を出さないままに暮らす、いわゆる「無戸籍者」の実態調査に乗り出した。無戸籍者の中には住民票がないために、仕事や住む場所を限られるなど不自由な生活を強いられる人が多くいるとみられ、救済対策の実施が求められている。 出生届ないまま暮らす 法務省は7月末から、生活保護の申請などで自治体の相談窓口を訪れる無戸籍者の情報を各地の法務局に集約し、法務省に報告する体制を敷いている。 国が自治体と連携して調査に動き出したことで、実態の解明が進むと期待されている。 無戸籍者は一定の条件を満たせば自治体の裁量により住民登録ができるが、中には住民票のない人も多い。住民票がなければ、行政サービスを十分に受けられず、生活にさまざまな支障を来す。 身元を証明する公的な証明がないため、健康保険への加入や携帯電話の契約、銀行の口座開設もできない。国家試験などの受験も制限され、資格の取得も難しいため仕事も限られる。学齢期になっても公立学校への就学案内が届かず、小・中学校での学習機会を逃す人もいる。 今年6月には、戸籍がないまま41年間暮らしていた男性が大阪市内で記者会見し、マスコミの注目を集めた。男性は、住宅の賃貸契約ができないために不安定な生活を強いられ、結婚にも影響が出ているという。 民法の「300日規定」が壁 無戸籍者が生まれる背景には、家庭内暴力(DV)や離婚の増加など家族環境の変化と民法の規定が関係している。 民法772条は、離婚後300日以内に生まれた子どもは前の夫の子どもと推定すると規定している。このため、女性が離婚後300日以内に別の男性との間に子どもを産んだ場合、出生児が前夫の戸籍に入るのを避けるため出生届を提出せず、結果的に無戸籍になってしまう。 また、夫のDVから逃れるために別居した女性が、居場所を知られるのを恐れて婚姻関係を解消できないまま歳月がたち、夫以外の男性の子を産み、出生届を出さないケースもある。 無戸籍者が戸籍を取得するためには、実父から子どもと認めてもらう親子関係の認知調停・裁判などの方法がある【イラスト参照】。しかし、調停や裁判の場で前夫との接触を恐れたり、手続きに費用が掛かることから、断念する人も多い。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(以下略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
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