常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

藤沢周平の句

2017年01月22日 | 読書


図書館から『藤沢周平句集』を借りてきた。奥書きを見ると平成11年の初版であるからそれほど古いものではない。しかし収めてある藤沢の句は昭和28、9年の句である。それは、藤沢周平がこの頃に句会に入り、1年半位句誌に投稿していたが、その後句作から遠ざかったという事情による。藤沢は昭和26年に教職についていたが、学校の集団検診で結核感染が発覚、休職して療養するも、なかなか完治せず、知人の勧めで東京の北多摩にある篠田病院に入院して手術を受けた。そこで、入院仲間がやっていた句会「のびどめ」に入会、初めて句づくりに励み、句誌『海坂』に投稿するようになった。因みに藤沢は時代小説で海坂藩を舞台にしたものを書いたが、この名称はこの句誌からいわば無断で借用したものである。

藤沢は講演などで地方に出かけ、求められて書く色紙にいつも決まったように書く句がある。

軒を出て犬寒月に照らされる 周平

この句は、投稿した句誌『海坂』の選者百合山羽功の眼鏡にかない褒められたものだ。藤沢には学生のころ詩作に励んだことがあるが、俳句はこのとき初めてであった。闘病で時間があったこともあり、現代俳句の切れのよさに目を開かれて句作に没頭した。病が癒えたが、教職への復帰は叶わず、東京で業界新聞の記者の生活に入る。あまりの環境の変化に句作から遠ざかることになるが、俳句から離れたわけではない。句作することによって句への理解力も増し、俳人の句集に親しみつつ、評論を読むようになっていった。

寒鴉鳴きやめば四方の雪の音 周平

この本の序にあたる文章のなかで好きになった俳人に、秋桜子、素十、誓子、悌二朗の名をあげ、なかでも篠田悌二朗の自然詠の句に執する、と語っている。藤沢の身体に流れている血には、若き日を育んだ自然の力が融け込んでいる。この作家がいつまでも故郷に目をそそぎ続けた理由でもある。藤沢にはもうひとつ唐の詩人、耿湋の「秋日」がある。

返照閭巷に入る、
憂い来って誰と共にか語らん。
古道人の行くこと少れに
秋風禾黍を動かす

この詩もまた藤沢好みの自然詠ということになろう。俳句と関わって、藤沢の文章には、簡潔で奥深い自然描写が随所に見られる。



コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする