新潟市巻の角田浜の背後に位置する角田山。標高481mと高山ではないが、花の名山として知られる。この時期、雪割草、カタクリの大群落は訪れる人々を魅了してやまない。あまりに人気が高いため、週末の混雑を避けるため、この日の山行は平日に組んだ。それでも、登山口についてみると、すでに数十人のチームが列を組んで登って行くのが見える。いわきナンバー、山梨県から、東京からのツーリズム。登山道には熱心に雪割草の写真を撮るグループの姿も見える。
山梨から来た人に話を聞いてみた。「弥彦山に登る計画だったんですが、今朝がたの雪で断念し、国上山とこちらへ来たんです。国上山も雪割草とカタクリが沢山咲いていましたよ。」国上山といえば、その中腹にかの良寛が20年住んだ五合庵のある山である。
たまきはる命死なねばこの園の花咲く春に逢ひにけらしも 良寛
角田山から弥彦山に雪が白く見え、背後に目を転ずると、日本海の西方に大きな佐渡が横たわっているが見えた。山中でふと、鶯の初音を聞いた。弥彦山から国上山は隣り合わせている。良寛が生きていた山中に行き、その様子を聞かせてもらえる人に出会う。この奇跡のような偶然に出会ってまさに感無量であった。
雪割草との再会。実に2年ぶりのことである。あの山の花を、もう一度見ておきたい。ここ数年、山を登りつつ持ち続けた感慨である。山形からこの山の登山口まで、高速に乗っても3時間強の時間を要する。前回より出発を1時間早め、5時とした。参加人数12名、男性は4名。やはり女性には花の好きな人が多いらしい。初めて参加する新人のTさんの姿が初々しい。寒気が居座って、この数日雪が降り続いている。天気予報では新潟が晴れマークがついたものの、国道113号は小国あたりから、雪。道路も10㌢を超える積雪があった。しかし、新潟を過ぎ、角田山が見える辺りから青空が広がった。
登山口8時30分、角田浜の砂の上で準備運動。白い波と、下山の終点となる燈台が白く、青い海の色に映えている。見つけづらい登山口を少し登っていくと、もう懐かしい雪割草のいろとりどりの花。昨夜の雪、今朝の気温も低いせいか、花は少し小さくちぢこんでいるようだ。この山の標高は480m、200mの第一のピークまで雪割草の独壇場。麓にある山の地主の方が花の手入れをしている。
300m付近から空に雪雲が広がり、海から風に吹かれて雪が降ってきた。しばらく、笹薮の中に咲くカタクリを眺めながら、ゆっくりと登る。300m付近から、すこし急な坂の登りになる。明け方の雪が残って、カタクリが寒そうにしている。この時期にしか撮れない貴重な映像でもある。雪はすぐに止み、同時に風も止む。時おりショウジョウバカマが咲くのに出会い、新鮮に感じる。それだけ、この山は雪割草と、カタクリが優勢である。白い花を見たTさんが、「この花なんですか」と聞く。つい失念して答えに窮していると、イカリソウとの声が聞こえる。登った方角を振り返ると、日本海が見え、大きな船が航行している。滅多に見られない景色を堪能する。
頂上着、11時30分。2時間ほどで到着する。距離にして2.5㌔ほどだが、途中撮影をしたりしているので、ペースとしては上々である。頂上は広い広場になっていて、日本海が至近の距離に見てとれる。ここで車座になって昼食になる。さっきまで降っていた雪も止み、観音像の傍であったので風にも当たらない。
たらちねの母がかたみと朝夕に佐渡の島べをうち見つるかも 良寛
頂上からの下りは、燈台コースを取った。雪解けの泥濘に、足を滑らせないないように注意して下る。木道、梯子上状の足場、下りやすいように地区の人々がコースの手入れをしてくれていることに感謝しながら下る。この山には、ツアーで登る人が多い。平日とあって、家族連れには会わない。地元の人は週末に集中するのか。
300m地点から、海が見え、目指す燈台は少しづつ大きくなってくる。海に近づくにしたがって、ユキツバキの花が目立ってくる。木の大きさも目立って大きく、この木には海に近い環境が適しているのか。その紅く、小ぶりな花が少しもの悲しい。ここ出身の歌手小林幸子の歌声が脳裏に浮かぶ。2時20分、下山。全員無事、どの顔にも達成感の喜びがあふれている。