清明を過ぎ、春らしい陽気になった。妻と連れ立って、裏の丘に春の若菜摘みに出かけた。目指すはヤマニンジン、葉がニンジンの葉に似ているのでこう呼ばれるが、せり科の植物でいい香りがする。芽吹きだした雑木林に少し入ると、すぐに伸び始めたばかりのヤマニンジンが見つかった。付近には、花ワサビの出ているので確認すると、食用になる花茎はまだ出ていない。フキノトウで春の到来を確認し、ヤマニンジンの香りと食感で、春の味覚を喜ぶ。
令和と元号が発表されて、万葉集に注目が集まっているらしい。野辺に出て、春の新芽を摘む習慣は、この万葉集の冒頭の歌に詠まれている。
籠もよみ籠持ち 堀串もよみ堀串持ち この丘に
菜摘ます子 家告らせ名告さね
と野辺に出て、若菜を摘む乙女に向かって名を聞いているのは、この地の支配者である雄略天皇である。乙女も一人で菜摘みをしているわけではない。付近の女たちが連れ立った、若菜摘みを楽しんでいる。その中で、ひときわ美しく、女たちをまとめているように見える女性である。一族を代表して神を祭る立場の女性であると見た天皇は、家と名を問う。この時代、これは女性へ結婚の申込みを意味している。万葉集の冒頭にこの歌が置かれていることは、この妻問に始まって、万世にわたって子孫が繁栄していくこと意味している。
我が家では、この野遊びは、妻問いの意味もないが、かってここでノビルや花ワサビ、ヤマニンジンを採って春の味覚を楽しんだことを思い出し、二人で今晩食べる分だけのものを収穫した。野辺にはキクザキイチゲが群落をなして満開、小さな流れの辺りにナズナの可愛い花が咲いていた。