かぐはしき桜の花の空に散る
春のゆうふべは暮れずもあらなむ 良寛
国上山(くがみ山)の五合庵に、良寛が入庵したのは1797年(寛政9)である。良寛40歳の時であった。折にふれ、実家や知人の援助を受けながら生活であったが、その基礎は山の麓の集落へ托鉢に出ることであった。越後の冬は雪深い、ここで過ごすことは、覚悟のうえであったものの厳しいものであった。それだけに、春を迎えた良寛のよろこびは一入であった。「暮れずもあらなむ」と詠んだのは、そのよろこびを端的に表した詞である。
春になると、良寛のもとへ、近隣の子どもたちが遊びにきた。子供たちと一緒になって、手毬をつき、童歌を歌った。しかし遊んでいた子供たちは夜になってそれぞれ家に帰って行く。庵に住む良寛は、老いの身を、ひとり淋しく嘆くばかりである。
今よりは野にも山にもまじらなむ
老いの歩みの行くにまかせて 良寛