常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

深い霧と蝉しぐれ

2019年06月10日 | 登山

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昨日、飯田地区の瀧山登山会。23名の人が参加した。この会の歴史は古い。私は40周年の記念登山に参加してから4回目になる。昨日の雨はあがり、予報には晴れマークもついた。だが、見上げる瀧山は、すっぽりと雲に覆われている。飯田公民館をマイクロバスで6時出発。登山口は西蔵王の放牧場である。バスに乗ること15分、登山口にバスが着く。そこで靴を履き替え、嗽場へ向かう。放牧場には、放牧されたばかりの牛たちが、朝の草を食む姿が見えた。牧場に残されたオオヤマザクラやどっしりと根を張った大木が目をひく。放牧のために植えた牧草の中の所々に樹を残したためであろうか、太くたくましい名木の姿である。加えて、蔵王山噴火で吹き飛ばされてきた、巨大な石が所々に見えている。自然の力の巨大さを物語っている。

嗽場から姥神コースを取る。登山道の左脇には牛たちを遮るバラ線が張り巡らされている。そこから、ブナを含む雑木林だが、今朝は霧に包まれて幻想的である。

山友会は同じメンバーで気ごころが知れていて、人間関係で緊張することはないが、年一回の登山会では初めてお会いする方が多い。4回目ともなると、顔見知りの方も少しづつ増えてきた。昨年のブログを見ると山中の静寂さが強調されていたが、今年は春ゼミの蝉しぐれで、人の会話をかき消すような大音響である。土から這い出たばかりの蝉が、まだ飛ぶ力もなく、木の葉の裏にしがみついている。体長2㌢ほど、こんな小さな体で、どこから大きな鳴き声を出すのか不思議だ。手にとって腹のあたりに触れると、ジ、ジーと音を出す。

やがて尾根道にある姥神のところに着く。姥神は三途の川で、死者に着替えをさせて着ていた着物を川に流し、その浮き沈みで、地獄へ行くか極楽へ行くを判断する役目を果たしていた。そんな話をしながら、いよいよ急坂の登りにとりかかる。山の道は何度歩いても新しい発見がある。1200mを越えたあたりから、春に咲くイワカガミが可憐な花を咲かせている。このあたりでは、雪がとけて間がないことを教えてくれる。

深い霧を背景に、シルエットのような女性の姿が現れた。スタイルも身につけた山の服も見事な若い女性だ。聞けば仙台からここの一人で登ったという。思わず、「かっこ良かったよ」と声をかけた。深い霧、三途の川、イワカガミ、そしてめったに見かけない若い女性。山の楽しさは極まっていく。

少しづつ霧が晴れてくる。見晴らしのよいところで、ベールを剥ぐように美しい新緑が現れる。足元は昨夜の雨でぬれてはいたが思ったほどには滑らない。長い休憩、要所、要所での記念撮影。それでも、10時過ぎには頂上に着く。そこだけが霧が晴れ、強い陽ざしがさしている。ここで、冒頭の蝉しぐれ動画を撮った。ツツジの赤、新緑。霧が上がって、次第にはっきりとしてくる蔵王の連山。

この会のもう一つの楽しみは、蔵王温泉「かわらや」で行う懇親会だ。メインは採れたての笹竹に鯖缶で出汁をとるタケノコ汁だ。山菜の天ぷら、焼き肉。そして風呂上りのビール。持参した地酒も冷えていて。ワイワイと盛り上がる話に、つい飲み過ぎるのも人情だ。今年も出会った新しい山友達と、フエイスブックの友達となって帰路に就いた。

 

 

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福田蘭堂

2019年06月08日 | 

笛吹童子 尺八

福田蘭堂という作曲家がいた。明治38年画家の青木繁の第一子として生まれるが、母の福田たねは同じ画塾で学ぶ画学生であったが結婚して籍を入れることはなかった。父は2歳の蘭堂を残して家を去り、母も父を追って九州へと家を出た。翌年、父は肺結核のため28歳の若さでこの世を去った。そのため蘭堂は、母の弟として届けられ、教師であった祖父に養育され父母を知らずに育った。13歳の時に上京、たまたま同郷の知人の家にあった尺八に興味を持ち、琴古流の師範に師事し尺八の奏者へと進み、修行して尺八の師範となった。

父の青木繁は不遇の画家であった。19世紀イギリス絵画の影響を受け、古事記を愛読してそのモチーフは神話によるものが多かった。代表作に「海の幸」「わだつみのいろこの宮」「黄泉比良坂」などがある。その絵が認められたのは、死後のことである。蘭堂は尺八の奏者として活躍するかたわら、ピアノやフルートを学び、やがて作曲を手掛けるようになる。ラジオの放送が始まるとドラマ「笛吹童子」のオープニングの曲を作曲し、一躍国民に知られる作曲家となった。

私の本棚には福田蘭堂の書いた随筆『志田直哉先生の台所』という文庫本がある。尺八や作曲の仕事のかたわら、料理や釣りを趣味として、戦後まもなくの時代、多くの作家と交流があった。中でも志賀直哉とは仲がよく、猟銃で撃った野鳥や釣った魚を持参して、食料のない時代、志賀直哉の食欲を満たした。

そんな二人の交流を、志賀直哉は『山鳩』という短編に書いている。志賀は熱海の大洞台の山荘に住んでいたが、そこで目にするのは、いつもつがいの二羽で飛ぶ山鳩であった。その二羽のうち一羽を蘭堂が仕留め、それは調理されてすでに志賀の腹に収まっていた。

「翌日山鳩が一羽だけで飛んでいるのを見た。山鳩の飛び方は妙に気忙しい感じがする。一羽が先に飛び、四五間あとから、他の一羽が遅れじと一生懸命に随いて行く。毎日それを見ていたのだが、今はそれが一羽になり、一羽で日に何度となく私の目の前を行ったり来たりした。(中略)幾月かの間、見て馴染になった夫婦の山鳩が、一羽で飛んでいるのを見ると余りいい気持ちがしなかった。」

そんな志賀の気持ちに、蘭堂は「そんなに気になるのでしたら、残った方も片づけてあげましょうか。」などと、平然と言った。鳥にとっては恐ろしい男だと志賀は書いている。そんな蘭堂が、結婚詐欺事件を起こしている。7人もの女性を誘惑して金を借り、別れるということを繰りかえし、訴えられえて逮捕された。映画の撮影では、主演女優を強姦するという事件を起こし、監督から「責任を取れ」といわれ、妻と離婚し、その女優と結婚をしている。鳥だけでなく世の女性にとっても恐ろしい男であった。今の時代では、想像もできないような時代であった。クレイジーキャッツの石橋エータローは、このとき別れた妻との間の子である。

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梅雨入り

2019年06月07日 | 日記

気象庁から東北南部の梅雨入りが発表された。雨を待っていた野菜たちには朗報だ。しかし予定していた山行は雨のため、中止になった。日本は雨が多い。年間降水量で見ると一番多いのが高知県で、3600㎜、ここ山形県は1300㎜。ヨーロッパなどの雨の少ないロンドンやパリでは5、600㎜というから高知県は6年分の雨という計算になる。雨極という言葉がある。地球で最も雨の多い地域を意味するが、インドのアッサムが雨極で、ここの年間降水量は11000㎜、過去のレコードには3万㎜を超えているから驚きである。

ただしインドの雨は気まぐれである。夏の季節風をモンスーンというが、この風が吹いてインドの雨期が始まる。この風が吹くのは、その年によって変動が多い。少し時期が早まると洪水が起き、遅れると干ばつになる。ヒマラヤ登山は、この雨期の前、5月半ばから6月10日までとされている。登山の適期は短い。そのためか、ときどき登山渋滞が起きる。狭い隘路に登山者が溢れ、登りも下りも同じルートを使うので、危険極まりない。

梅雨の蝶たまたま迷ひ来て黄なり 久保田万太郎

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ジャガイモの花

2019年06月06日 | 日記

に咲く花を見るのも楽しいが、鑑賞する花と違って、観察という側面をもっている。野菜は元気か、花粉のくる蜂はどうか、手で受粉する必要はないか、これからやってくる収穫の豊凶を見ることでもある。しかし、そのような心配のない通りすがりの人が、単純にジャガイモの花を見ると、その美しさに感動するだろう。

登呂村も馬鈴薯の花も覚めしばかり 能村登四郎

今日は、24節季の芒種にあたる。この季節は麦を刈って、稲などの穀物植える時期である。私は、畑に行って、小松菜とニラを採り、鞘えんどうを収穫した。昨夜降った雨が、畑に湿気をもたらした。稲ではないが、水さいに入れて根を出したトマトの脇芽5本、定植した。ジャガイモの花に加え、コリアンダーが花盛り。カボチャも一番花をさかせた。ナスの花も元気がいい。

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家族

2019年06月05日 | 日記

スマートフォンのラインの機能にグループというのがある。離れて住んでいる娘や孫でグループを作り、「家族」と名付けた。加齢が進むと、老人だけの世帯が増えていく。ラインでつながることで、日々の動向を子や孫と共有して、声掛けもできる。現代の新しい家族の姿なのだろうか。

中原中也に『家族』という小品がある。この家族は、東の空の紫色の雲の中に住んでいる。この家で一番早く目を覚ますのはお婆さんだ。お婆さんは掃除が大好きで、家中の掃除を始める。女中さんもいるが、掃除はけして女中さんにまかせるということはない。そこで女中さんは台所で、竈の下の火を焚き付ける。

お母さんは、鏡台の前で髪を結い始める。次に起きてくるのはお父さん。咳払いをしながら、煙草盆の音を立てると、家中が活気づいてくる。歯を磨き、ご飯を食べて、洋服を着ると、子供は学校へ、お父さんはお役所へ出かける。だが、ここは雲のなか、学校やお役所がどこにあるか誰も知らない。

スマートフォンの中の家族も、どこかこの雲の中の家族と似ているような気がする。「今日は暑くなる。熱中症に気をつけて」と書き込むと、「かしこまりましたぞっ」という孫のスタンプが貼られた。

コメント (2)
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