
5月3日の憲法記念日を前に、ポレポレ東中野で上映中の映画「誰がために憲法はある」を観てきました。
お笑い芸人・松元ヒロさんが舞台で続けてきた一人語りを女優の渡辺美佐子さんが受け継いだ形で演じる「憲法くん」は、冒頭「わたしというのは、戦争が終わった後、こんなに恐ろしくて悲しいことは、二度とあってはならない、という思いから生まれた理想だった」と自己紹介。
そこから場面は、渡辺美佐子さんと高江敏江さん、寺田路恵さん、日色ともゑさん、山口果林さんらベテラン女優陣の原爆朗読劇に移っていきます。
渡辺さんは、初恋の人が広島への疎開中に原爆によって死んだことを知り、鎮魂の気持ちから、33年間この朗読劇を続けてきたといいます。
渡辺さんが広島平和祈念公園を訪れ、初恋の人の名の刻まれた記念碑に花を手向ける様子や、被爆して死ぬ間際にある子供たちの悲痛な叫びを語る女優たちの魂のこもった朗読は、見ている者の心を揺さぶり、客席のあちこちから鼻をすする音が聞こえてきました。
終盤、場面は再び「憲法くん」の一人語りに戻り、渡辺さんが「憲法・前文」を語ります。
『日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民と協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。・・・』
すくっと背筋を伸ばして「前文」を語る渡辺「憲法くん」の姿は凛として美しく、柔らかく豊かな声で語られる『憲法に込められた願いと理想』が、私たちの胸に真っすぐに伝わってきました。


映画終了後、監督の井上淳一さんと渡辺美佐子さんが壇上に上がり、渡辺さんの演劇人としての歴史や、お二人がこの映画に込めた思いを話してくれました。
映画の中でも触れていますが、渡辺さんたちの原爆朗読劇は、時代と共に演じる場が減り、演者の高齢化もあって、今年が最後となるそうです。こうしてあの戦争が過去のものとなり、時の流れと共に忘れ去られていくのかと思うととても残念ですが、渡辺さんは「この映画ができたことで、自分たちが朗読劇で伝えてきた歴史が引き継がれ、末永く残っていくと安堵し、感謝している」と語っていました。
館内は補助席を含め満席で、上階の食堂での鑑賞者もでる状態でしたが、観客の多くはやはりシニア世代、、、。監督の井上さんも言っていましたが、戦争体験者が身近にいなくなりつつある今、これからの時代を生きていく若い人たちにも、というか若い人たちにこそ、是非一度見てもらいたい映画でした。(三女)
