六十一歳のぼくが六十二歳のぼくに向かって叫んでいる。ムンクの絵の中の人物みたいに頬のあたりに手をあてて 絶望的な身ぶりで。「そっちじゃない こっち。こっちへいくんだ」と。
ありえたかもしれない過去とありうるかもしれない未来がいまぼくの足許で引き波のようにちぢれながらたわむれている。この秋はどこへいってもガマズミばかり。もう一歩も動きたくないな・・・といっても単に疲れているだけなのさ おそらくは。
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目が覚めると昨夜の夢のカケラがいくつもくっついていてそれが髪の毛みたいにパラパラとフロアに落ちた。そうか こんなにいろんな夢の中をさまよっていたのだ。使いふるした小さなベッドの上で。その中に気になるぼんやりした 老人のうしろ姿もまじっていた。ん?ああ 親鸞さんだったかも知れないな そのうしろ姿。そんなことはよくあることですぐに忘れてしまって もう二度と思い出しもしない。
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