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眠れない夜にはよく寝返りを打つ。
右を下にして寝たり 左を下にしたり。
腹が鳴る
腰がギクッと音をたてる。
二度寝の悪習がついちまって
酔いがさめ 深夜ひとりだけ目覚めていると
身よりのない老女のように なぜか悲観的なことばかり考える。
「さあ はやく寝なければ」
明日やらなければならないことが 心の隅っこで
金属でできた薔薇の刺のようにチクリ チクリと動く。
ぼくはいつだって やりたいことよりも
やらなければならないことに追われている。
大人たちは 皆そうなんだろうか。
子どものころは やりたいことを
心ゆくまで 味わうための時間があった。
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わたしの写真のお仲間では、自然の景物を写真にしている人が圧倒的な数にのぼる。
アマチュアは花や、名勝地の写真を撮りたがる・・・と昔から、相場が決まっている。
わたしが写真をはじめた70年代初頭から、現代にいたるまで。
大きく高価な一眼レフをもってうろうろしていても、人の不審をかうことはないし、
写真にたいして関心がないような人に見せても「まあ、きれいねぇ」とほめてもらえる。
ポストカードっぽい写真に執念を燃やしているような方々もずいぶんいる。
アマチュアでシリアスな写真、ドキュメンタリー写真、コンテポラリー写真をやっている人は極めてまれ。モノクロとなると、さらに数がへる。
ところで、マイミクにpita~☆さんがいる。
わたしはこの方の写真が、以前から気になっていた。
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きみに語るべきことはなにもない。
先人たちがすべて語ってしまったし
ほとんどは 書物の中にすでにある。
偉大なる書物とは 聖書や仏典やマルクスやフロイトばかりじゃない。
北からの風が ぼくの湿った肌を意味もなく吹いてすぎる。
生と死について
愛について
歴史や戦争について
健康や金銭や友情や親子について。
・・・すべてがいいつくされてしまったいま。
携帯電話を持った中年男が向こうからやってきて
熱心に何事かキカイに対して話しながらすれ違っていく。
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カメラをもって ふらふら歩く。
とても気むずかしげなblack&whiteのクルマが通る。
セクシーだけれど頭の弱そうなミニスカートのお姉さんが通る。
だれも乗っていない循環バスが通る。
野良犬 野良猫が通る。
昔はかれらにも名前があったんだろうか?
くるくる忙しそうに
いかにも大事な用件をかかえて目的地へ急いでいるかのように。
野良犬や野良猫には いまやらなければならないことがあるんだろうか?
傍観者のぼくを無視し 路地の奥に消えていく。
帰るべきところ 帰るべき透明な時間のほうへ
足音もたてず そそくさと。
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「櫂」の同人として出発し、戦後屈指の女性詩人として活躍された茨木のり子さんが亡くなったのは、2006年のこと。
死亡をつたえるあの新聞記事を眼にとめてから、すでに5年余が過ぎ去っている。
光陰矢のごとし・・・というほかない年月(としつき)をへて、昨日、一冊の本とめぐりあった。今日はその本の紹介。
わたしは高校生のころから詩を書きはじめ、「現代詩手帖」「ユリイカ」にさかんに投稿し、たまに選に通って掲載されたりなどしていた。
大学時代は、瀬尾育生、清水哲夫(鱗三)らと、同人誌「夜行列車」を結成し、いっぱしの詩人のつもりで詩を書いていたものであった。
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花は生殖器であると、作品のなかではっきり書いているのは、戦後詩を代表する詩人、田村隆一さん。普通はそんなことをいえば、
「まあ、なんてはしたない」
「いや、まあ、そこまで露骨にいわなくても」
なんてリアクションが返ってくる。
田村さんは、金子光晴さんとならぶ「反骨詩人」の一面を、その詩魂の奥にやどしている。
しかし、同時に彼らは遊びの名人で、女性遍歴も華やかだったはず・・・。
田村さんが翻訳したポルノ小説を読んだことがあるが、男のわたしですらちょっと眉をひそめたくなるほど、いやらしさ全開だった(^^;) 一方の金子さんは、いわずと知れた「愛情69」の詩人で、孫ほど歳のはなれた愛人とのベッドシーンを巧みな歌にしている。
また「軽み」の新境地ともいえる、わたしの大好きな「花とあきビン」の詩人なのである。
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近所のばら園で、薔薇が見頃を迎えているので、午前中時間をとって、ふらりと一回りしてきた。
平日にもかかわらず、駐車場も園内も、けっこうな混雑。
わたしの狙いは「雨上がりの薔薇」。
雨滴をあしらった写真を、いろいろと撮ってみたかった。
薔薇としずくの組み合わせには、耽美的といっていいような妖艶さがある。
・・・と、以前から考えていたのだ。
だけど、いざ取り組んでみると、そううまくはいかない。
CX4のクリエイティブ・モードを使って、変化を出してみた。
これといった特徴のない、幾何学的なガーデンなので、どうしてもクローズアップ中心の展開になってしまう。
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わけのわかるもののとなりに
必ずわけのわからないものが存在する。
死のとなりに 生が存在するように。
男のとなりに女がいるように。
眼のとなりに手があるように。
じゃがいものとなりに包丁があるように。
それらは 一対となって何事かをなす。
この光景から学ぶべき 多くのこと。
ぼくは自分が写したj-peg画像を さっきから つぎつぎ見ている。
音楽のような写真。
絵のような写真。
詩のような写真。
写真のような写真・
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市警の刑事一課から、けさ、わたしのケータイに電話が入った。
相手はFさんという、女性刑事。
昨日、前橋市K町で強盗事件が発生したので、某所に設置された防犯カメラの記録画像を見たいというのである。
以前にも、似たような警察からの問い合わせがあった。
しかし、近隣でタイヤが盗まれたという類の軽微な犯罪だったので、とりあわなかったら、それっきり。
ことし1月に、わたしが管理を引き継いだマンションの一つに、防犯カメラが設置されているのである。
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人間という商売を長らくやっていて
ふと気がつくと あっちもこっちも傷だらけ。
傷みがひどく だれも買い手がつかない果物か野菜 みたいにね。
箱ごとすてられそうになって かろうじて 逃げ出したキュウリ
さもなければ ナス。
きみもわたしも どこかにそんな面差しをやどしている。
今日は5月で風がすずしい。
・・・と書いて つぎのことばがつづかない。
午後も夏日になるそうな。
その場つなぎの一汗をかきながら
畝起こしをおえて 草の家に帰る。
縁の欠けた 古い茶碗みたいな家へね。
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