天がうっすらとしたスカイブルーから深いるり色の輝きに変化し
一刻 一刻と移ろっていく。
金星がゆっくりと 太古と同じ角度から
地平線に突き出した岩山 妙義山の上方に姿をあらわす。
ねぐらへと急ぐ鳥たちの影 影。
ぼくは利根川のほとりの水いろ駅にたたずんでそれを見あげている。
十年前にも 二十年前にも 三十年前にもそんなことがあった。
記憶の後頭部にある 関東ローム層。
どんな解釈をもはじき返す硬質なイメージの薄片が
何千枚ものセピア色の写真のようにそこかしこにうもれている。
そして 小さな古い駅も。
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ベートーヴェンの最後の方のピアノ・ソナタを何曲か聴いているとき
彼が結婚し子どもがいたら
ずいぶん違った音楽が生まれてきたんじゃないかと考えたことがあった。
ブルックナーのシンフォニーだって
単独者の音楽以外のものじゃない。
たったひとり じつに堂々と 神というか
この大宇宙と向かい合っておのれの存在理由を問いかけている。
生活感情がうすいための落魄感と 自己自身への子どものような熱狂と
流行遅れのよれよれ外套。
こころにかかっている重力がすごい。
いつもなにか考えこんでいて
ぼくがここにきているのに気がつかない。
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――Kさんへの鎮魂歌
なにか大きなまちがいであったような生涯がある。
クリの木の下で ぼくはその家と男に遭い
無用なほこりが舞い上がったりしないよう
しずかにためらいがちに ことばを交わしたのだ。
八十になってから 数千万の借金を背負い
そのほかのもろもろを
およそひとりの人が背負いきれるはずのないものを背負い
崖っぷちに立たされた男。
彼の眼の奥に光るのは
鋼のようなもであるかもしれぬ
――いたるところ錆のういた。
涙のようなものであるかもしれぬ
――港 港を彩った女たちの。
愚かしさのようなものであるかもしれぬ
――ボタンをかけ違えたまま脱ぐことができなかった作業着の。
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ペンタックスから、ニューコンセプトの新型カメラが発表になった。
その名は「ナノ一眼 ペンタックスQ」。
マニアごころをくすぐるユニークなシステムカメラ。
ただし、撮像素子は、ソニー製の1/2.3型の裏面照射型CMOSである。
http://www.pentax.jp/japan/products/q/
はたして写りはどうなんだろう。
<雅、ポップチューン、ほのか、銀残し>などというペンタックス独自のアートフィルターは以前から気になっていた。
外装に凝っている分、価格設定はお高い(^^;)
実機にはやくふれてみたいが、発売は7月下旬となるようだ。
6月30日には、オリンパスからも新機種の発表がおこなわれるらしい。
しかも3機種まとめて・・・などと噂されている。
しばらくこういったカメラメーカーの動向から眼がはなせないなあ(@_@)
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24日は、関西、関東など広域にわたって熱波に襲われ、
県内では館林市で6月気温の、観測史上最高記録39.9℃をマークした。
前橋地方気象台によると、この日は前橋で38.3℃。省エネにつとめてはいるけれど、さすがにこの日はエアコンに頼らざるをえなかった。暑すぎて仕事にならず、大渡橋の下へいって木陰にクルマを止め、2時間ほど休憩(^^;)
このまま人間がふえていくと、2050年ごろに100億の大台にのるという。
この熱波は、地球環境が危機的な状況へと向かっている証拠のひとつだろう。放射線による広範囲の汚染が、さまざまな生命を脅かしている。
わたしはかつて、住宅業界に身を置いていたのだが、「エコ住宅」だとか「省エネ性能が高い」とか「高気密高断熱の家は環境にやさしい」とかいうキャッチフレーズは、ほぼ90%はまことしやかな、俗耳に入りやすいウソである。住宅界はいずれも「冬温かい家」の性能をきそってきた。
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オレンジのTシャツを着たうら若き乙女が
さっきから 川のほとりに立っている。
いろいろなものがその川を流れていく
・・・のを彼女は見ている。
どうやらその光景をケータイで撮影し だれかに送付しているらしい。
小鳥がさえずっているみたいな着メロが鳴り
その表情が輝く
・・・のをぼくは見ている。
ああ なんて可愛いのだろう。
そのしぐさや ほっそりしたうなじ。
ふくらみのたりない 少年のような胸。
ぼくの祖母や母にもあんな時代があったのだ。
川は夢のように流れる。
小さな夢は より大きな夢に流れ込み
さらに大きな夢へとつながっている。 . . . 本文を読む
身体は数十万年もの太古にその淵源をもち
幾世代となく 一本 または数本の糸のようなもので
その淵源につながっている。
ぼくのからだは 突然意味もなく現世に出現したのではない。
ある日 雷にうたれたようにそんな思念にうたれる。
かすかなうめき声をあげる。
それから買っておいたカレーを温めて食べ
ウィスキーの水割りを飲んで一夜を過ごしてから
いつもの場所へ いつものように出かけていく。
「ああ どうもお世話になります」
「おはようございます」
「おさきに失礼します」
「ありがとうございます」
そんなことばにまみれて過ごす一日。
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わたしは自分のことを、サイレント・マイノリティだと考えている。
このことばは、塩野七生さんの発明であるが、わたしがここでいうのは、
彼女の文脈の中でしばしば言及される保守主義者のことではない。
その概念を敷衍し、もう少し広い意味性のなかで使用したいのだ。
ときおり「なんてミーハーなんだろう」と自己嫌悪にかられることもあるが、
やっぱり基本はマイノリティなのだ。
日本人は「他者志向性がたいへん強い」とよく指摘される。
買い物の動機は「よく売れているから」。
映画はまず「話題作」に飛びつくし、ベストセラーだよといわれると、店頭に平積みされた本が気になって仕方ない。
そういう傾向はいくらかはある。それを知らないと、周辺の「村社会」から疎外される。
人の話についていけない。
島国根性ともいえるし、他者追随を美徳とする伝統もある。
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榛名高原は標高およそ1100m。榛名湖周辺に拡がっている森である。
数年前、この森がいろいろないのちを養う豊かな森だと気がついて、通うようになった。
地上(高崎、前橋あたり)と比較し、季節の進行が1ヶ月あまり遅れている。
ゼフィルスの出現は7月上旬。
その様子を見ながら、午後になって榛名高原を目指した。クルマを飛ばして、1時間と少々かかる。群馬南部は、35℃の猛暑日。
はじめに姿を現したのは、ミヤマセセリ。
雑木林などに棲息し、棲息地、個体数ともそれほど多くはない。
それからついに、偶然の神様が微笑んでくれないと、なかなか逢うことのできないギンイチモンジに遭遇。ツイていた。
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1
降りていく。
慎重に 足をふみはずさぬように。
ぼくをとりまく人たちのいわばこころの底へと。
手すりはない。
視界はブレたり ボケたりする。
降りていく。
触れると火傷するような手をした麗人のかたわらへ。
一心不乱に無意味な仕事をする裁判所書記官の書類の上へ。
かつて同僚だった男のまばたきの内側へ。
大いなる悲しみをかかえてよたよた歩く掃除夫の背後へ。
降りていく ぼくは降りていく。
あるいはのぼっていく・・・といってもいいのだけれど。
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