(再現された萩原朔太郎の書斎)
今日の仕事はこれで終わり
では
おやすみ。
・・・と 日本で五本の指に入る偉大な詩人・田村隆一は
「1999」という詩で 蟻について書いている。
蟻にびっくりしているのだ。
一日22時間寝ていて 起きて働くのはたったの2時間。
そのことに心底驚いて
「おれも蟻のように眠っていたい」と感嘆している。
そうか せっせと働いたからな ミステリの翻訳や . . . 本文を読む
(写真と詩のあいだに、具体的な関連はありません)
風が通り過ぎていくように
時間の奥の沼から
小さな神様の跫音が聞こえてきた。
遠くでサギが鳴いている
夜どおし赤い眼を燃して
つめたい沼に立ち通すのか……
神さまは一人二人ではなく
たくさん
たくさんたくさんいるのだ。
サギがわいわい がやがやあつまってきた。
つぎからつぎ。
赤い眼をした小さな神様たちよ。
どこからきて
ど . . . 本文を読む
ああ なんだか朝からくたびれている。
そうさ それが年をとったってことさ。
朝から そして一日中
くたびれている。
輝かしい光と光のようなものは
夢の覚めぎわに脱ぎすててきた。
二十歳になったアルチュール・ランボーのようにね。
そうして一日中くたびれている。
梶井さんがいう冬の蠅。
いやおうなしにそれと似通ってきた。
そうだよ よたよた
よたよた・・・とね。
だれもが七十を過ぎたらこうな . . . 本文を読む
(平成29年ころ撮影)
おーい おい。
そこをゆくのはだれ?
だれだれ だあれ。
いつか離ればなれになってゆくんだね。
父とも母とも いずれは。
いずれは離ればなれになる。
そんなに遠い未来ではなく
どんどんと“その日”は近づいてくる。
独りだから独りになる。
猫も犬も その他の生きものはすべて
そういう運命の下にある。
独りで死んでゆくのだ。
このアスパラガスやジャガイモはう . . . 本文を読む
(画像はわが家のコミスジ)
幸せってものは
じつにささやかなものだと気がつくまで
何十年も要した。
手があって足があって
あまりパッとしないが顔もある。
さっきからスズメどもが鳴いている
ちょこまかと移動しながら
いつもあわただしい隣人たち。
生い茂る草むらの向こうからグラジオラスの黄や赤がこっちを見ている。
あれは昔よく知っていた女性のだれか なのだ。
日常の時間が見えない川 . . . 本文を読む
ああ あ。ああ あ。とつぶやきながら
深夜のベッドで寝返りを打つ。
そうして 深い淵のようなところから
這いあがったり ずり落ちたりしている。
そこに横たわるきみよ
いいかげんにしたらどうかね。
何年こんなありさまですごしている。
何年?
ごわんごわんとブルドーザーのようなものが通りすぎていった。
その轟音がいまでも耳元で響いている。
ムクドリや女たちのざわめきや木の葉をゆらす風。
反響はも . . . 本文を読む
数日前にBOOK OFFへいったら、こんな本が置いてあった。
「宮沢賢治の真実 修羅を生きた詩人」今野 勉 (新潮文庫)
なるほど、そうでしたか、知らなかったけど、文庫になったのが令和2年。
中古好きのわたしが知らなくてあたりまえだなあ(笑)。
どちらかといえば、童話より詩の方が好きである。
大学時代に「夜行列車」という詩の同人誌をやっていたころ、友人たちはほとんど全員宮沢賢治を、緻密によく . . . 本文を読む
ふと気がついた
ことばにも舌さきがあるんだと。
本を読んでいると 否応なしに
否応なしにそれがわかる。
近ごろよくというか ほぼ毎日本を手にして帰ってくる。
何だ またか!
・・・と 自分で自分にあきれている。
五千冊か六千冊の本が
わが家のあちらこちらに積み上げてある。
本に遠慮しているわけじゃないが
ぼくの居場所がだんだん狭くなる。
何てこった。
ことばの舌さき。
本物の舌とは違って
ず . . . 本文を読む
※飯島耕一さん(1930~2013年)はフランス文学者、シュルレアリスムの詩人として出発したが、このころは、こういうとてもわかりやすいプリミティブな詩を書くようになっていた。
この「ゴヤのファースト・ネームは」(青土社 1974年刊)で1973年高見順賞を受賞。
わたしが群馬県人であるため、とくにこの一篇「前橋へ」はインパクトはないが、忘れることができない秀作であると思う。彼はうつ病に悩まされて . . . 本文を読む
(写真は翅の傷みが激しいキタテハ。2021年6月撮影)
定義は他人がするもの。
だから自分が何者であるかはわからない。
鳥も虫も花も
おのれが何かはわからない。
わかったとてどうなる?
生きものは 神さまのまな板の上に身を横たえている。
鳥も虫も花も 皆そうなのさ。
神さまは料理したいように包丁をお使いなさり 塩をふる。
声のない血なまぐさい阿鼻叫喚。
巌頭に押し寄せる波乱万丈の夢の . . . 本文を読む