■ドストエフスキー「後期短篇集」福武文庫(米川正夫訳 1987年刊)
福武文庫からは、すぐれた、とても興味深い海外の小説がいくつか刊行されていた。
このドストエフスキー「後期短篇集」もその中の一冊。ほかにヘンリー・ミラー「暗い春」(吉田健一訳)、「アポリネール傑作短篇集」(窪田般彌訳)、コクトー「大股びらき」(澁澤龍彦訳)等がある(福武書店は現在の株式会社ベネッセコーポレーション)。
読もう、 . . . 本文を読む
ネットでさがしてみると、亀山郁夫訳「カラマーゾフ」は、2008年6月の時点で、80万部突破とあるから、いまでは100万部を越えているかも知れない。
本書は小説家、研究者、翻訳家、エッセイストなど、44人あまりのドストエフスキーをめぐる、対談や小論文、エッセイをあつめたMOOK本といっていいジャンルの本。
本書を眺めていると、この亀山さんの訳業で、日本で、にわかにドストエフスキー・ブームがおこったの . . . 本文を読む
若いころにたしか米川正夫さんの訳「永遠の良人」として読んだ気がする。
現行の新潮文庫で311ページ。
大作の多いこの文豪の作品としては、中編に属するといえる。ほかに「貧しき人びと」「分身」「賭博者」などがこの分量になる。もっとも、わが日本では、この程度でも長編あつかいされるだろう。いま大雑把に計算したら、400字づめ換算で470枚もある。
ドストエフスキーが描く「ダメ男」の系譜につながるト . . . 本文を読む
やれやれ、「悪霊」を読みおえた。
いかにもドストエフスキーらしい、圧倒的なシーンがつぎからつぎへと展開するので、無知で怠惰な読者としては、ついていくのがたいへんである。関心をもって手にしても、ライトノベルとか携帯小説とか、はやりものの改行だらけの小説になじんでいる読者は、おそらく途中で投げ出してしまうだろう。
彼は数多くの長編小説を書いたが、そのうち4作は、いずれも「世界の十大小説」に名を列し . . . 本文を読む
たとえば、本書下巻、198ページ。
『「海賊ども!」彼はもっと甲高い、もっとばかげた調子でわめき立てたが、そこでぷつりと声がとぎれてしまった。彼は自分が何をしようとしているのかをまだ知らず、その場に突っ立っていたが、しかし、自分がいますぐ、何かをするであろうことをはっきりと知り、全存在で直感していた。』
「彼」とは、知事のレンプケである。
ドストエフスキーお得意のカーニバルがはじまっている . . . 本文を読む
いやはや、血が滴るようなメガトン級の巨大なビフテキにかぶりついたみたいで、歯ごたえがありすぎ、読みこなしたという風にはとても思えない(^^;)
しかし、重く深刻に考えるばかりがいいわけではないだろう。ドストエフスキーは雑誌経営者でもあったから、ジャーナリストとしてなかなかの才腕を発揮したはず。「賭博者」や「罪と罰」を書いているころ「これはおもしろい小説だから、必ず売れる」とムキになって出版 . . . 本文を読む
読みはじめてからずいぶんと時間がたってしまったが、ようやく読み終えることができた。読みはじめで抱いた感想と、読み終わってからの感想がこれほど違う本は、わたしにはちょっとめずらしい。
一般的に文学者には、こういう仕事はできない、翻訳者、あるいは言語学者、歴史風俗研究者の手になる本でではないかと、と思われた。
「罪と罰」という一作品について、比較すべき類書のない仕事を残したことじたい、日本のような . . . 本文を読む
まあ、どうでもいいことではあるが、加賀乙彦さんを最初に読んだのは1970年代はじめ。そこで、いま調べてみたら、芸術選奨新人賞を受賞した「フランドルの冬」の刊行が1968年とあるから、その後数年して読んだのであろう。サルトル、カミュにつながる実存主義的世界というふれこみであったと思う。たいへんおもしろくて、しばらくたってから、もう一度読み返している。
あのころも現在と同様、わけもわからず手当たり . . . 本文を読む
■「物語」の中の人間■
もうしばらく前から、何冊かの本と並行して「カラマーゾフの兄弟」を読んでいる。読みながら考えこんでしまうため、なかなかすすまない。エンターテインメントを読むのとは、どうも勝手が違う。わたしにとっては、近来にない「スローリーディング」となっている。
もっとも、こういった本を読むとき、大半の人がそういった感想を持つだろう。19世紀半ばのロシア社会に対する予備知識だとか、キ . . . 本文を読む
ドストエフスキー・ファンにとっては、いま話題の東京外国語大学学長亀山先生の著書。あとがきに最終講義が出発点と書いてある。
「へえ、どんな内容を学生たちに講義なさっていたのか」そんな興味で手にとった。
「罪と罰」「白痴」「悪霊」「未成年」「カラマーゾフの兄弟」の5大作を俎上にのせて論じているが、それほどの切れ味はないな~というのが第一印象であった。
<人物、時代、作品の謎を通して、現代の猛烈なグロ . . . 本文を読む