「大河の一滴」がおもしろかったので、小説家としてではなく、エッセイスト五木寛之に関心が出てきた。休筆宣言などをして執筆から遠ざかっていた時期もあるようだが、もともと多作の人である。売れているだけに、五木さんの本は、よく散歩にいくBOOK OFFの棚にたくさんならんでいる。
何冊か買ってきたなかから、まずこれを、・・・と考えて読みはじめた。
抑制の効いた、知的で洗練された文体である。お行儀がよ . . . 本文を読む
すきま、とは「隙間」である。亀裂であり、裂け目である。そこから、なにが見えるのか?
撮影場所は東京駅、京葉線のプラットホーム。
わずか数秒間ではあったが、わたしはこの少女といえるような年齢の女の子をコンパクトデジタルカメラに収めたのであった。しかし、人間は結局のところ、見せたいものしか人には見せないものである。「都市写真」のおもしろさも、つまらなさもそこにある。
脚に巻いた包帯に眼が吸い寄 . . . 本文を読む
日本の社会や自然にほころびが目立つようになったのは、いつからだろう。
迷走、混迷、荒廃、欺瞞・・・いろいろな分野で問題が噴出し、そういった問題が改善されるどころか、ますます悪化しているようにみえる。わたし自身をふくめて、人びとの生活や心に、不安が拡がっている。とくにここ数年、時代の閉塞感が強まり、希望のもてない暗い未来を予測する人がふえてきた。「いったい、世界はどうなるのだろう? 日本や自分自 . . . 本文を読む
典型的な「警世の書」で、いままで読んだ養老先生の著書のなかではいちばんおもしろかった。「世の中、間違がっとる。このままじゃ、日本は滅びてしまいますぞ!」そういったテーマが最後まで一貫していて、わたし自身共感を覚えたからだ。文章は「しゃべりことば」である。たいへんわかりやすく、独特のリズムがある。
解剖学が専門の養老先生は、マスコミでも売れっ子で、TVに出演し、脳化社会への警告、教育論、あるいは . . . 本文を読む
ロサンゼルスから一時帰国した娘が、肺炎のため順天堂大学病院7階に入院。それを見舞いに新浦安まで出かけた。病室の窓から見下ろすと、川辺に十数隻の漁船が繋がれていた。
「青べか物語」に描かれた浦安の旧市街はどのあたりだろう。往時をしのばせる、なにか手がかりが残っているのだろうか?
人を待ちながら、ゆっくりと娘との会話を楽しんでいるうちに、浦安に黄昏がせまってきた。空には美しい月。そしてTwilig . . . 本文を読む
正岡子規にこの書があるのを知ったのは古いが、いつ買ったのだろう。文庫本の奥付を見ると、こうある。
1927年7月10日第1刷発行
2005年5月24日第50刷発行
これで推測するかぎり、2005年の秋あたりに買ったのではないか。
とすれば、読もうと思ってから、読み終わるまで、2年かかったことになる。その大部分をベッドのなかと、電車のベンチで読んだ。恐るべき本である。読みはじめるまえ . . . 本文を読む
漱石のあたらしい読み方を知ったのは、なんといっても江藤淳さんの「夏目漱石」で、いまの「決定版夏目漱石」(新潮社文庫)ではなく、たしか角川文庫から刊行されたものを読み、そのあと講談社の江藤淳著作集でもういちど読んだのではなかったか。
もうずいぶんと古くなって、カビが生えかけた、明治の遺産。
しかし、一方でそういった思いをふっきることができなかった。
要するについ数ヶ月まえまで、漱石に . . . 本文を読む
古本屋のゾッキ本のワゴンにあったので、買ってきた。椎名誠選・日本ペンクラブ編のアンソロジーで、本と読書をめぐるエッセイ・小説が21編と、目黒考二、鏡明、椎名誠の鼎談が収められている。昭和54(1979)年の刊行だから、もうかれこれ29年前の古い本である。執筆陣は山口瞳にはじまり、田辺聖子、植草甚一、大岡昇平、井上ひさし、小林秀雄、開高健など錚々たるメンバー。ほかに、江戸川乱歩、野坂昭如、夢野久作 . . . 本文を読む
◆赤城山と利根川◆
冬になると、赤城山がくっきりとした姿をあらわす。わが郷土の山である。手前はもちろん利根川。左手奥に見えるのが大渡橋。この橋の中央欄干のどこかに、萩原朔太郎の詩碑がある。通勤の行き帰りに、最低二度、利根川にかけられたこの橋を渡る。
夏のあいだは、クルマをとばして、チョウやきのこの撮影にでかけた。もぐりこんでみると、赤城のふところは驚くほど広い。生まれたときから見なれた山で、中 . . . 本文を読む
くだけた話口調で、ウイットとユーモアを効かせたつもりのようだが、どういうわけかそれほどおもしろくない。なぜかと考えると、まず、文体がない。文章があちこちで、ぎくしゃくしている。他人さまのことはいえた義理ではないが「こりゃ素人だな」といった印象が最後までつきまとった。
著者の経歴を見るにおよんで、ははあと納得。文藝春秋社の元専務とある。東大出で週刊文春、文藝春秋の編集長などを歴任しているというか . . . 本文を読む