六十一歳のぼくが六十二歳のぼくに向かって叫んでいる。
ムンクの絵の中の人物みたいに
頬のあたりに手をあてて 絶望的な身ぶりで。
「そっちじゃない こっち。こっちへいくんだ」と。
ありえたかもしれない過去と
ありうるかもしれない未来が
いまぼくの足許で引き波のようにちぢれながらたわむれている。
この秋はどこへいってもガマズミばかり。
もう一歩も動きたくないな・・・といっても
単に疲れているだけなのさ おそらくは。
明日になればぼくは動かずにいられない。
欲望にかられて若い健康的な乳房に手をのばす
なんて行動はつつしむだろうけれど。
そこにアキアカネがきて止まる。
クリッ クリッと目玉をうごかし
うごかし きみやぼくを見ている。
きみもぼくもヒトだけれど
ヒトっていうのはずいぶん
ずいぶん厄介な生き物だね。
たとえばきみの乳房に止まったトンボと比べて。
地球はなんてまあ 我慢強いんだろう。
めったにないことだけれど 深呼吸をして
秋の空気を胸にいっぱい取り込んで空をあおぐ。
ぼくはくたびれ果てた家畜のようにますます老いさらばえて
「一人くらい孫が欲しい」なんてつぶやく年になっちまった。
木陰に白い木製のベンチがあってね。
座りにくる女をまっている。
もう何年も 何年も。
恋愛に懐疑的になってしまったのはいつからだろう。
ぼくは古い時代の小説の中から気に入った女をピックアップし
その空想のベンチに座らせる。
話し相手はいないよりいたほうがいいに決まっているから。
「今日の紅茶はまた格別ですね」なんてたわいないおしゃべりをしながら。
リリン リリンと秋の虫が鳴いている。
きみの面影が厭世家の眼のふちで揺れる。
見てごらん ガマズミの実は秋の女神のteardropなんだね。
ムンクの絵の中の人物みたいに
頬のあたりに手をあてて 絶望的な身ぶりで。
「そっちじゃない こっち。こっちへいくんだ」と。
ありえたかもしれない過去と
ありうるかもしれない未来が
いまぼくの足許で引き波のようにちぢれながらたわむれている。
この秋はどこへいってもガマズミばかり。
もう一歩も動きたくないな・・・といっても
単に疲れているだけなのさ おそらくは。
明日になればぼくは動かずにいられない。
欲望にかられて若い健康的な乳房に手をのばす
なんて行動はつつしむだろうけれど。
そこにアキアカネがきて止まる。
クリッ クリッと目玉をうごかし
うごかし きみやぼくを見ている。
きみもぼくもヒトだけれど
ヒトっていうのはずいぶん
ずいぶん厄介な生き物だね。
たとえばきみの乳房に止まったトンボと比べて。
地球はなんてまあ 我慢強いんだろう。
めったにないことだけれど 深呼吸をして
秋の空気を胸にいっぱい取り込んで空をあおぐ。
ぼくはくたびれ果てた家畜のようにますます老いさらばえて
「一人くらい孫が欲しい」なんてつぶやく年になっちまった。
木陰に白い木製のベンチがあってね。
座りにくる女をまっている。
もう何年も 何年も。
恋愛に懐疑的になってしまったのはいつからだろう。
ぼくは古い時代の小説の中から気に入った女をピックアップし
その空想のベンチに座らせる。
話し相手はいないよりいたほうがいいに決まっているから。
「今日の紅茶はまた格別ですね」なんてたわいないおしゃべりをしながら。
リリン リリンと秋の虫が鳴いている。
きみの面影が厭世家の眼のふちで揺れる。
見てごらん ガマズミの実は秋の女神のteardropなんだね。