個人的な思い出からはじめることをお許しいただこう。
というのも、わたしは、この本のラストシーンに、およそ40年かかって、たどりついたからである。
中学2年の春であったか、宮下隆行くんという友人がいて、「おもしろから読んでみたら」といって、わたしに何冊かの書物を貸してくれた。
そのうちの2冊は、たしかカッパノベルスの三鬼陽之助の財界小説(あるいはノンフィクション)、もう1冊が、この「戦艦武蔵 . . . 本文を読む
下らない本を読んでしまった。
あと、20ページほど残ってはいるけれど、
最後まで読んでも、虚しさがつきまとうだけだろう。
右顧左眄し、論理的な整合性にばかり気をつかい、
得票数アップを狙っている。
このようにして、肩書きも手に入れたのではないのか?
(1)「感情の問題」(一章)
靖国神社は「感情の錬金術」によって戦死の悲哀を幸福に転化していく装置にほかならない。戦死者の「追悼」ではなく「顕彰」こ . . . 本文を読む
昭和史に関心がなかったけれど、小林よしのりの刺激によって、
遅ればせながらようやく気持ちが動いてきた。
本書は、日米戦争に焦点を絞って、ごくポータブルに、事実関係を叙述した一冊で、国内での政治的、政策的変動にはほとんどふれられていない。前から気がついていたことではあるが、著者の立場によって、歴史とはこれほど違った貌を見せるものかという見本でもある。
小林よしのりのレビューにも書いた通り、観察者の . . . 本文を読む
戦争論」がおもしろかったので、この「2」を買ってきて、読むことになった。
マンガ=サブカル=エンタメというわたしの偏見を、またしても、見事に吹き払ってくれた一冊として、高い評価をあたえたい。
「第1章 同時多発テロはアイデンティティー・ウォーである」というところを読んだだけで、小林さんの主張の方向性がはっきりする。その方向性とは、乱暴ないい方をすれば、「日本人よ、ジャーナリズムを席巻しているサ . . . 本文を読む
本書刊行時(2000年5月)で、65万部という異例のベストセラーを記録したマンガ「戦争論」。と同時に、主としてジャーナリズム、論壇から、激しい批判にさらされた。
本書はそれに対する小林よしのりの反批判の書。
マンガではなく、インタビュー形式をとっている。
インタビュアーが、「戦争論」に寄せられた批判をつぎつぎと紹介し、小林がそれに答えるという、質疑応答からなりたっている。
わたしの得意とする分野 . . . 本文を読む
結論をさきにのべれば、「蟹工船」は、秀作である。ただし、ある一点をのぞいて。
その理由についてはあとでふれよう。
こういう作品が、昭和4年、24歳の青年によって書かれていたとは。
まず、本書冒頭、十行ばかりを引用してみよう。
『「おい地獄さ行《え》ぐんだで!」
二人はデッキの手すりに寄りかかって、蝸牛《かたつむり》が背のびをしたように延びて、海を抱え込んでいる函館の街を見ていた。――漁夫は指 . . . 本文を読む
通勤経路にBOOK OFFがある。
この店には、どういう理由か知らないけれど、吉本隆明の本が、
105円でならぶことがある。眼にとまると「ほほぅ、この値段なら、買っておこう」
・・・というわけで、吉本さんの本が何冊か、わが家に引っ越してきた。これはその中の一冊。
講談社インターナショナルの辻本充子さんがまとめた吉本さんへのインタビュー。
文の校正や編集も彼女がやり、吉本さんが眼を通した . . . 本文を読む
本書の刊行は2006年。つまり21世紀初頭という「現在」の時点で、「世界文学全集」「日本文学全集」を立ちあげるとしたら、どうなるか?
商売としては成り立たないけれど、リストだけでもつくってみようという試みである。
丸谷才一を中心に、鹿島茂、三浦雅士という博覧強記のご三方による鼎談集で、ときおりはめをはずし、放談・漫談といった趣のある、愉しい文学談義。
はっきりいってしまえば、三人とも文学的スノッ . . . 本文を読む
■美しい村
堀辰雄は中学校3年生のころ、「辛夷の花」(「大和路・信濃路」所収)を教科書で読んだのが最初。
過不足のない、すぐれた紀行文として、いまでもよく覚えている。軽井沢、というより、信濃追分に未亡人堀多恵子さんが健在であることがわかり、アポイントをとって出かけていき、文芸部の機関誌に探訪記事をのせたのもそのころ。
『私は毎日のように、そのどんな隅々までもよく知っている筈だった村のさまざま . . . 本文を読む
戦前に較べると、おそらくタブーの問題は格段に減少したはずだ。
しかし、社会的なタブーは、やや見えにくくなったとはいえ、まちがいなく存在している。
人権と平等に対する人びとの関心がたかまり、それに対して過剰な権利意識が暴走をはじめたのは、いつからだろう。
小林がここでいっているように、人間社会では戦争と同じく、差別も、完全には撲滅できはしない。男女の格差も、極端なフェミニズムに走ってしまうと、これま . . . 本文を読む