二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「富嶽三十六景」は構図の見本市

2011年01月23日 | Blog & Photo
近所のBOOK OFFで、昨日は雑誌、今日は単行本全品半額セールをやっている。
昨日は雑誌など何冊か買い、眼をつけていた本があったので、今日は11時過ぎて、出かけてみたが、すでにごっそりだれかに買われてしまったあと(^^;)

うむむ、残念。まあ、縁がなかったとあきらめるか。
とくにユルスナールの全集版「ハドリアヌス帝の回想」「東方奇譚」などを逃がしたのは惜しかったな。こういう「特売日」には、背取りの人たちが入ってくる。
http://amusegueule.pagesperso-orange.fr/hon001.htm
現行の新刊本で買うと、3,000円以上する。
須賀敦子全集(全巻揃い)なども、そっくりなくなっていた。

「グスタフ・マーラー」(「サントリー音楽文化展」記念出版)TBSブリタニカ
「バッハ」 同 上 (生誕300年記念展カタログ)
「富嶽三十六景」財団法人北斎館



これは昨日の収穫。
マーラーは近年評価がメキメキあがって、すっかり大作曲家の仲間となり、ブラームス、ブルックナーと肩をならべる存在。しかし、シンフォニー1番、4番をのぞくと、
わたしには、どうにもとっつきにくい作曲家の最右翼だった(=_=)
音符は読めない、ドイツ語もイタリア語もできないわたしは、声楽曲、声楽入りの音楽は好きにはなれない。

しかし、せっかくCDはそろえてあるのに、そういっていては、話は終わってしまう。
しばらくはマーラーをめぐる資料を集めて、時間をへだて、何度も聴いてみるよりないよな・・・ということで、今日も仕事場で5番、9番をBGMがわりに流してある。

ところで、タイトルにもどろう。
北斎の「富嶽三十六景」や広重の「東海道五十三次」は、集英社の大型本ですでにもっているので、昨日買ったのは、切手を貼って、レターとして送付できる小型本。

「富嶽三十六景」は、精度は悪いけれど、Web上ですべて見られる。
http://www.rakuten.ne.jp/gold/adachi-hanga/series/fugaku36.html

いうまでもなく、現在まで、富士山を描いた浮世絵の最高峰として君臨している。
写真では、大型カメラでがっしりとった藤原新也「俗界富士」が、社会批評的な観点から見て、たいへんおもしろい。
http://www.amazon.co.jp/%E4%BF%97%E7%95%8C%E5%AF%8C%E5%A3%AB-%E8%97%A4%E5%8E%9F-%E6%96%B0%E4%B9%9F/dp/4103692022
http://www.book-oga.com/wimages/fujiwara_fuji2.html

レビューに“ただ美しいだけの「嘘っぽい」富士ではなく、 これほどまでに俗なる世間との富士を捉えた作品は、 ある意味かなりインパクトがある”と書かれている。わたしも同感。
富士山写真の大家といえば大山行男さんもいるけれど、ああいった写真は見過ぎたせいか、ちょっと不感症になっている。
http://www.wephoto.jp/lives/special_oyama.html

北斎の富嶽は、大きく分けて、二つに分類される。
シュールで大胆な誇張、省略を効かせた「凱風快晴」「山下百雨」「神奈川沖浪裏」の流れが一つと、「武州千住」「本所立川」「尾州不二見原」の流れが一つ。
わたしがとくに興味深く思うのは、この後者の流れをくんだ絵である。
富士山というと、日本百景ふうの、あるいは雑誌「風景写真」ふうの写真が圧倒的に多く、わたしも以前は、よく好んでその種の写真を見てきた。

しかし、わたしにいわせれば、「武州千住」「本所立川」「尾州不二見原」は、
ネイチャー・フォト系列の浮世絵ではなく、むしろソシアル・ランドスケープとしての浮世絵なのである。ここでは、富士山は背景や片隅に小さく描かれるだけ。
それにかわって、当時の江戸や東海道の町並み、人々の生活情景が、画面の全面をほとんどおおいつくす。そのリアルさといったら、ちょっと比類がない。前景、中景、遠景のあしらいかたなど、構図の見本市みたいである。「え? ここにこんな木立を入れるとは!」
なかでもわたしがこの日、いちばん感動したのは「駿州江尻」である。



なぜかって?
それは、風なんです。
風をこんなふうに絵にする北斎の職人技。写真でいえば、シャッタースピード1/1000で捉えた、ダイナミックなソシアル・ランドスケープといえるのではないか。




注1:富嶽三十六景といっても、じっさいに北斎が描いた浮世絵富嶽は46枚ある。
注2:写真の出典はこちら。
http://www.douban.com/note/97110645/
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 趣味なら本気で | トップ | 撮像素子の話 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Blog & Photo」カテゴリの最新記事